【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! --/--
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x

フリーページ

お気に入りブログ

アトランタの風に吹… まみむ♪さん

コメント新着

 NOB1960@ Re[1]:無理矢理持ち上げた結果が…(^^ゞ(10/11) Dr. Sさんへ どもども(^^ゞ パフォーマン…

カテゴリ

2005年06月12日
XML
「故国の壁」

赤楽十六年春。楽俊が慶に任官してから五度目の春を迎え、通士も五期目の新任者を迎えた。初年度こそ楽俊と夕暉の二人だけだったが、次年度からは任官上位三名、状元、榜眼、探花が通士に任じられた。通士というのはあらゆるものに通じていなくてはならず、秋官府だけでなく、他の六官府、冢宰府などにも間借りをし、その仕事の内容やら手順やら、それぞれの官同士の関係やら学ぶと同時にその問題点を洗い出したり、改善する方向についての具申書を書かせたり、国内八州の地域的特性や生じている問題の摘発なども行わせた。ただしあくまでも楽俊に報告されるだけで、そのうちこれはというものは冢宰の浩瀚に提出される。楽俊と浩瀚はそれぞれの具申書などから適性を見極め、他の六官のほうが相応しいものにはそちらに異動させたりもした。本来こうした新任者の研修などは春官の仕事であり、官吏の異動等は天官府や冢宰府の仕事である。それが秋官府の無任所の上大夫のところで行われていることには抵抗が強かった。しかし、赤楽十三年任官の三人のうち二人が二年後にそれぞれ地官府と春官府に異動し、頭角を現すと評価が一変した。出る杭は打たれるというが、打たれても挫けない強さと仕事への粘り強さを兼ね備え、着実に信任を得ていったのだ。そして今年は十四年任官の三人のうち一人しか異動しないという噂が流れると、水面下では熾烈な奪い合いが行われ、結局冢宰府に異動したが、もうこの時期から「来年こそはうちに」という動きがあるという。一方で新任者以外にも、この無任所の上大夫の下で働きたい、自分も鍛えなおされたいという声も上がり始め、新任者以外でも希望者の中から選抜して配属されるされるものが幾人か出るようになった。この春の新任者三名を加えて十余名に膨れ上がったのに無任所というのはいかがなものかということになり、通部となった。国内だけでなく、諸国を巡るということで騎獣も配備されるようになり、その中には趨虞も数頭入っている。秋官府通部の長である通司はモチロン楽俊であり、次官である通佐は夕暉が任命された。そもそもは国内外のあらゆる情報を収集、分析し、それを政務に活かすのが通部の役割であるが、まだ人材育成の時期なのだ。今年こそは奏国に仮の通部支局を立ち上げるつもりで、十三年任官の槙羅と十五年任官の河徴の派遣を予定していた。槙羅は既に奏の制度を学ぶという名目で奏の秋官府に置いてもらって一年になる。地歩は固まっているだろう。奏で成功すれば次は恭に支局を作れるだろう。だがその次が難しい。国内の様子を見るものも必要になる。それでなおかつ人材の育成もやらねばならない。青写真はできているがそこにはめ込む人材が足りなすぎる。通部以外に人員をまわす余裕などないのだが、まわしたものを通じて人脈が広げられ、情報も入手できる。ある意味通部は情報収集をする監の官であるが、同時に官吏の監視をする官の監でもあるのだ。しかもそのことは気取られてはならない。通部は最終的にはよりよい政務のために動いているが、暗い部分ももっている。そのことを二年間で徹底的に叩き込む。その最初に行うのは「王の道」を追体験することだ。景王が践祚する前に蓬莱から誤って隣国の巧に流れ着き、前塙王の執拗な妨害、その中には妖魔による襲撃もあったが、それをかわしながら巧を横断し、雁へと逃れたという苦難の道を実際に歩いてみるのだ。三年目までは楽俊が引率していたが、去年からは夕暉に引率を任せている。というのは半獣に対する追放令が出たからだ。そしてこの春新任者を率いて夕暉が戻ってきた時、どうもきな臭いという報告があった。慶と巧の高岫付近や港での警備が厳しくなってきており、噂では慶との国交断絶になるのではないかとのことだった。実際慶の民が巧で旅するのはかなり危険になっており、念のために雁の旌券を用意したから夕暉たちは無事だったが、慶からの荒民で巧に居ついてしまったものなどが高岫から追い立てられたりしているのだ。慶からの品を積んだ船などは港に入ることさえ容易ではないようだった。この懸念が現実のものとなったのはその年の秋のことだった。巧が慶との高岫を閉ざしたのだ。

  *  *  *  *

巧国高王良拓の治世はその当初から呪われたものであると噂されていた。玉璽の印影が塙から高に替えられ、それを題材にした「巧氏革命」が朱旌によって各国で演じられた。その内容は巧の民には耐えられそうもないものだった。前塙王が嫉妬のあまり景王の即位の邪魔をし、あまつさえ雁国に妖魔を跋扈させたため、「覿面の罪」で罰せられたというものだ。
そんなはずはない!
良拓の故郷は景王が蓬莱から蝕で流れ着いた淳州槙県配浪だった。その蝕で配浪は大きな被害を受けた。州師にいて故郷から離れていた良拓は無事だったが、家族の給田は潮を被り数年収獲が得られず、妹は妓楼に売られた。そして… 良拓が王となって王宮に家族を引き取ったが、妹は女官らの誹謗中傷に耐え切れず自裁し、父母は呆けてしまった。故郷にいた幼馴染には浮民になり、行方がわからなくなったものもいる。そんな被害を生じさせたのは「悪い海客」なのだ。噂では聞いていた。被害をもたらした「悪い海客」は里のものに捕らえられたが、護送中に妖魔を使って逃げ出したのだ。護送をしていた正丁は妖魔に食い殺された。その後も捕まりそうになるたびに剣や妖魔を操って役人を翻弄した。気分を損ねると自分が使っている妖魔すら惨殺する非情の者だと言う。午寮の街はそのとばっちりを受けたらしい。妖魔が思うように民人を襲わないことに腹を立てたのか、妖魔をすべて切り捨てていったのだ。そんな「悪い海客」に手を貸した輩がいるという。半獣で報われないことに逆恨みをした楽俊とか言う奴だ。「悪い海客」を役人の目からくらませ、まんまと雁へ逃がしてしまったのだ。巧の民を苛んだ「悪い海客」を前塙王は討ち果たそうとしたが叶わず、誤解から塙麟は失道し、前塙王は崩御した。国が荒れてしまったのはすべて「悪い海客」のせいなのだ。その「悪い海客」こそが景王なのだ。景王でありながら巧国で非道の限りを尽くしたのに天はこれを罰せず、今ものうのうと玉座に座っている。こんなことが許されていいことなのか?許されるわけなどないだろう。しかし前塙王の二の舞はごめんだ。たとえどんなに悪い奴でも他国の王である限りこれを誅することは叶わない。忸怩たるものがあるが仕方ない。せめてそんな輩が統べる慶と言う国と離れていれば我慢のしようがあるものを、なぜ隣になどいるのだ。高王良拓の気持ちは巧の民の気持ちでもあった。巧の民は景王を恨み、慶の民を憎んだ。巧の民なのに「悪い海客」に手を貸すような半獣も憎しみの対象となった。良拓は初勅で海客の国外追放を決めた。本来なら処刑したいのだが、延王を憚らざるを得なかった。胎果の王と麒麟がいる雁では海客を優遇しているので、荒民の送還の見返りに海客を引渡すしかなかった。その後朱旌も入国が制限された。「巧氏革命」や景王がらみの小説を演じないのが第一の条件であった。前塙王を褒め称える小説を演じるのが第二の条件である。これに反した場合は永久に巧への入国が禁止されるのだ。そうなれば自然と朱旌は巧へと行かなくなり、巧で禁じられた「巧氏革命」が他国でより多く演じられることになった。奏では「巧氏革命」を見た巧の荒民たちが暴動を起し、人死にもでたので首謀者は処刑され、多くは巧に強制送還された。このことで一時的に奏との関係も悪化し、巧は陳謝に追われた。その恨みは半獣の国外追放という形で現れた。それから二年余り、良拓が良かれと思ってなしたことは悉く裏目に出ており、ついに慶との高岫閉鎖に踏み切った。翠篁宮の一角で呆けていた父母が相次いで逝ってしまったことで良拓の心が挫けてしまったのだ。己の家族を失ったのもすべて「悪い海客」景王のせいであり、その景王とは不倶戴天だと思うようになっていた。巧の民は喝采したが、各国の反応は冷ややかだった。が、良拓にはもはや引き返すことなどできなかった。良拓は史書に「蠍王」としか書けない前塙王のことを「塙王」と呼ぶことにした。せめてもの抵抗である。良拓の想いとは別に巧は傾きかけていたのだ。

  *  *  *  *

楽俊は巧からの高岫閉鎖の報を受けて状況の確認のために国境付近及び慶に近い港などをみけに乗って視察した。予王の時代からまだ慶に戻っていなかった荒民が数珠繋ぎになって巧から追い立てられていた。阿岸の港では慶から来たらしい船が沖合いで巡検に遭ったようで、港を目前にして引き返していく。上空からその様子を眺めていた楽俊は慶にとってではなく、巧にとって最悪のことになったと思った。哀しみを抱きながら楽俊が金波宮に戻ったのは夜半のことだった。通部には夕暉がまだ残っていた。

「やはり間違いではなかったのですね」
「…間違いであった欲しかったが… 当面は高岫付近がきな臭くなりそうだな」
「そうですね…」
「まぁ、夕暉が早めに正確な情報を掴んでくれたから王師も既に配備が終わっているし、荒民の受け入れ準備もできている。通商路をどうするかなども既に奏上してあるから混乱もさしてないだろう。槙羅には大変な目に遭って貰うが… まぁ、それも経験だろうな。巧の荒民がまだ残っている奏で慶のために動くのは楽なことではないからな」
「雁に派遣している堅至からの報告では延王も既に対策を取っておられるそうです」
「まだまだ雁の速さには勝てぬな」
「はぁ… 奏とのやり取りは舜経由ですか?」
「そこが問題なんだ。どうも舜もきな臭い。ヘタをすると大回りしなければならなくなるかもしれないな」
「では、一度舜を見てまいりますか?」
「それは主上に報告を上げてからになるだろうな。それにしても恭に速めに手を打って置くべきだったかな」
「そうかもしれませんね。巧と舜に阻まれたら恭が大事な拠点になりますね。では、それとの兼ね合いで?」
「それが頭の痛いところなんだ。何せ供王があれだろう?主上が良い顔をしない」
「そうでした。それゆえ最初の拠点を奏にしたのですよね」
「ああ、個人的な人脈で事を始めると後々が面倒くさいことになるからな。だからまず奏を抑え、そっちから恭を、と思ったが… 供王がいきなり現れてご破算だからなぁ… 下々の苦労を考えて欲しいんだけどなぁ…」
「…隣り合う国がいがみ合うのも厭なものですよね」
「まぁな…巧はまたこれで周りから取り残されてしまうんだろうな。慶を憎む心を捨てない限り春は来ないのになぁ」
「…そうですね」
「これで巧に行けなくなるから『王の道』も使えなくなるな。どうする?」
「一応いくつか候補は考えてありますが、舜もダメとなると…恭か戴か…」
「柳の状況を掴むには恭まで行くのも良いかもな。戴の復興具合も気になるが…」
「では、早速…」
「いや、そんなに慌てることもないだろう。舜次第では奏にもいけるし、恭もダメになるかもしれないからな。そういえば来年は蘭桂が入ってくるかもしれんのだろう?なかなか有望そうじゃないか?」
「ええ、これまでは追いかけるほうでしたが、追われる身になるというのは…怖いですね」
「夕暉は今でも怖いぞ。とてもではないが息を抜く間もない」
「…そうは見えませぬが?」
「そうか? …では、とりあえず冢宰や主上のところを覗いてくる。まだいらっしゃるようなら報告をしてくる。夕暉は先に帰ってくれ」
「わかりました」

楽俊は通部を出るとまず冢宰府に向かった。明かりがついているところを見ると冢宰はまだ残っているのだな。楽俊は一つ溜め息をつくとそれを振り切るようにきっと顔を上げ、堂室の中に声をかけた。

「張通司です。冢宰はいらっしゃいますか?」
「入れ」

短い応えにしたがって楽俊は堂室の中に入っていった。楽俊の故国には冷たい風が吹き渡っていることだろう。それを少しでも和らげられないかという思いを抱きつつも、故国のためには何もできない自分は今できることをするしかない。楽俊の表情から直前まで抱いていた哀しみをうかがい知ることはできなかった。





お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

最終更新日  2005年06月13日 01時07分26秒
コメント(2) | コメントを書く
[想像の小箱(「十二」?)] カテゴリの最新記事


PR


© Rakuten Group, Inc.