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 NOB1960@ Re[1]:無理矢理持ち上げた結果が…(^^ゞ(10/11) Dr. Sさんへ どもども(^^ゞ パフォーマン…

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2005年09月03日
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「苦難の時代(その1)」

赤楽八十六年初冬。宗王崩御、宗麟登霞を受けて、遣士の槙羅とともに楽俊が奏へと赴こうとしたその朝、奏から青鳥が届いた。青鳥によれば、清漢宮に賊が押し入り、宗台輔登霞。賊は討ち取ったものの、引責で宗王一家は蓬山にて自裁、崩御したという。宗王、台輔とも亡骸が失われたため、国葬は内々で行うので、葬儀への列席、親書などは不要とのことだった。この冢宰名義の親書を巡る検討のため、楽俊は奏に向かうのを延期し、槙羅を先に行かせた。景王の執務室には景麒、冢宰・浩瀚、太師・遠甫、大司冦・蘭桂、通司・髪按、そして准司冦・楽俊と禁軍左将軍・桓堆がいた。

「こちらでは王に対する弔問は行わないのが普通なのか?」
「王が崩御するとは失政故。大々的な国葬などは行われませんな。先年の前泰王の場合は特殊ですな」
「そうか、弔問の特使くらいは派遣したほうが良いと思ったのだが…」
「治世七百年の宗王君ゆえ、その功績を讃えての特使も良かろうとは思います。しかし、これから傾く国です。こちらにそのつもりはなくても彼らの不幸を喜びに来たととられかねません。ご自重を」
「わかった。特使については自重しよう。しかし、何もせぬというのは…」
「冢宰宛の親書くらいならばよろしいかと。微力ながら復興にお手伝いしたい、旨を伝え、その一環として私を派遣する、ということで」
「楽俊を派遣?復興が終わるまで奏にいるつもりなのか?」
「いえ、とりあえずは五年を目途と。早ければ七八年で麒麟旗が揚り、新しい王が践祚します。そうなれば好いのですが…」
「…そうはならぬというのか?」
「あくまで先憂後楽です。最悪の事態を想定し、それに備え、何事もなければホッとする、という類のものに過ぎません」
「では、その最悪のものとは?」
「宗果が蝕に奪われ、長く麒麟旗が揚らぬことです。そう、芳のように九十年も麒麟がいないこともありえます。芳の民は自らが前峯王を弑した報いだと粛々と受け入れましたが、奏の民はどうでしょうか?栄華を極め、他国に倍する六百万もの正丁が豊かな暮らしを満喫していたのが、『賊』に一夜で奪われたのです。これがホンの数年で再び豊かさを享受できるというのなら、多少のことは我慢もできましょう。しかし、何十年にもわたって王も麒麟もいない、天候が荒れ、妖魔が跋扈する時代が続くとなったらいかがでしょうか。おそらくは我慢できないでしょう。自分たちの不幸を他人に押し付けようという、他人の幸福を奪ってやろうという不埒な考えに惑わされる輩も出て来ないとも言い切れません。というのは、王や麒麟という歯止めがもはや奏の民にはないのです。天の罰を受けるものがいないのです。他国に攻め込めば『覿面の罪』で即座に王や麒麟が斃れ、国が傾く、ということがこれまでは歯止めになっていました。しかし、既に王も麒麟も失われており、当分王も麒麟も現れないとなったら、これ以上酷いことなど起こりようがないのです。そうなれば他国に攻め込むことに誰が躊躇うでしょう」
「…で、では、奏の兵が他国に攻め入るというのか?」
「その危険性があるというだけです。通常、王師は黒備三軍、州師が黄備三軍、あわせて二十四万人となります。慶は漸くこれが揃いましたが、半数以上が屯田兵であったり、開墾土木にあたったりする半農の弱兵です。ところが、奏は王師も州師も黒備四軍、総計五十万人の精兵で、空行騎兵も海兵も充実しています。これが一気に他国に向かえば蹴散らせぬものなど何もありません。とりわけ巧は兵の充足が八割に満たぬ、しかもほとんどが半農の弱兵です。才は我が国並みの兵力ですが、これも半数が半農の弱兵です。まともに戦って勝てるものでもありません」
「では、諸国が力をあわせてこれにあたるしかないのか?」
「いえ、それはできません。王師がヘタに高岫を越えてしまったら『覿面の罪』に問われることになります。したがって、慶の場合なら、巧が蹂躙され、慶との高岫を越えてきた時に迎え撃つしかありません。巧から救援を求められた場合は高岫を越えられますが、高王自ら、あるいは玉璽を押した書面での救援でなければダメです。巧からの使者を装って、王師をおびき出し、『覿面の罪』に陥れようとすることも考えられるからです。それにできるだけ戦いは避けねばなりません」
「それはもちろん、私の民を一人たりとも失いたくないから、戦いはできるだけ避けたい。が、何かあるのか?」
「それを聞いて安心しました。民を顧みず、好戦的な王では台輔が失道なされかねないからです。無論これは民が殺されるのを座視しろということではなく、民が危険になったなら率先して闘わなければなりません。…少々、台輔には厳しいお話かもしれませんが」

ふと景麒を見ると青い顔をしている。景王は景麒に声をかける。

「景麒、お前には辛い話だ。しばらく席を外していろ」
「…御意」

景麒は席を立ち、ヨロヨロと堂室から出て行った。傍らにはそれまで遁甲していた女怪の姿があった。景麒の姿が完全に見えなくなるまで沈黙が続いた。

「先ほど五年を目途といったのはこれを見越してのことか?」
「はい、奏がどちらの方向に向くかを見極めるにはそれくらい必要かと思います。王が斃れた兆候はこれから顕現してきます。それによって民が何を思い、荒民として他国に逃れるのか、先ほどから懸念しているような暴挙に出るのか、ハッキリするでしょう。正直全くの杞憂に終わってくれればそれに越したことはありませんが、楽観視することはできません。恭国で考案された妖魔対策法を奏に享受するとともに、できうる限り穏便に他国への避難を完了できれば良いのですが…」
「荒民はどの程度出ると思うか?」
「最大で四五百万人程度になると思われます。仮に巧や才に百万人ずつ逃れたとすると、両国ともこれを支えきれないかもしれません。富裕層などは雁や範にまとまって逃れることも考えられますが、こちらは精々十万人くらいかと。わからぬのは舜や漣、慶にどれくらい流入するかです。『巧氏革命』や倭寇以来、巧や舜との関係は良好とはいえません。したがって、巧よりは才、舜よりは漣に避難すると思われます。しかし、いずれも奏の荒廃次第です」
「となると、素直に荒民が流入してきても、暴徒が攻め入ってきても、巧や才にはかなりの負担ないし打撃になるのか?」
「はい。舜や漣、範や慶、雁なども含めて広範囲に影響が及ぶと思われます。国力の覚束無いところは危ういかもしれません」
「つまり、慶も気を引き締めなければならないということか?」
「はい」
「浩瀚、遠甫、蘭桂。奏の荒民が流入してくる前にできうる対策を早急にまとめよ」
「はい」
「で、桓堆の仕事だが… 楽俊、どうなる?」
「高岫付近は諦めます。もし攻め込まれたら適度に応戦してすぐに瑛州まで引きます。そこを防衛線にします。麦州と和州は海兵に備えて港の防備を固めます。こちらは水際で追い返すことを目指します。ただ荒民の受け入れはしなければなりませんので、港に入る前に臨検し、危険を最小限に食い止めます。基本的に民の命を奪おうとするものは屠りますが、そうでないものは受け入れても良いと思います。いくら敵だとしても民には変わりがないのですから」
「では、慶はその方針で行くとして、他国には示唆しないのか?」
「いえ、私は奏に行く前に、慶が万が一の際に頼るべき雁に赴き、その後舜と巧に寄っていくつもりです。範、才、漣には髪按に行って貰おうと思っています」
「では、他国でも基本的には同じことを?」
「はい、荒民なら基本的に受け入れ、攻め入られたら首都州まで防衛線を引くということは同じです。これは高岫から首都州までの土地に奏の荒民が居住することを認めるのと同じですからね。首都州まで奪われることは認められませんし、徹底的に抗することになるでしょう。攻め入る側もそこまでするとは考えにくいので、そのあたりで妥協が生まれると思うのです。楽観的ですが」
「もしそうなら慶が攻め入られる危険性は低いんじゃないか?」
「いえ、そうでもないのです。防衛線の敷かれた首都州を素通りして慶に向かうこともありえます。慶も首都州に防衛線を敷けば素通りして雁に行くかもしれません」
「最終目的地は雁だと?」
「はい。奏の民が道連れにしようとするなら巧や慶ではなく、雁ではないかと思うのです。したがって、最初に雁に赴こうと思っているのです」
「なるほど、道連れにするには巧や慶では役不足だな。となると西側は才ではなく範か?」
「おそらくは」
「そうか… でも、そうならないですむこともあるのだろう?」
「はい、『彼』がいなくなった今は危険性は低くなったと思います。しかし、絶対に起こらないとも言い切れません。人の心の闇は『彼』だけにあるわけではありませんので」
「そうだな… 心の闇は私にもある。それに打ち勝つことができるかどうかで人の行き方は大きく変わってしまう。恐ろしいものだな」
「…はい」
「では、みな、頼むぞ」
「はい」

こうして楽俊は金波宮を後にした。最初に訪れたのは隣国雁の玄英宮である。楽俊は堅至とともに延王を訪ねた。延王は官服を着崩して椅子に座っており、延麒は書卓の上に胡坐をかいている。傍らには楽俊のかつての上司である大司冦・朱衡がいる。

「うちにも奏から青鳥が来た。もっともらしいことを言っていたが、実際にはどうだったのだ?」
「…ご想像のとおりです」
「相変わらず口の堅い奴だな。まぁ、いい。利広がやったんだろう?王宮に忍び込んで麒麟を害せる賊などいるわけがない。失道でもしていれば別だが、害意を持った奴が近づけば使令がそいつを片付けるからな。違うか?」
「そうですね。使令に屠られず、台輔を害せるものなど身内以外にはいませんね」
「で、今日は何を言いに来た?うちに関りのあることか?」
「はい。奏の逆恨みの可能性について少々」
「何?逆恨み?雁にか?」
「ええ、奏は賊によっていきなり栄華を打ち切られました。この悔しさをぶつけたいと思う輩がいるやもしれませぬ」
「まさか、そんなことが赦されるわけがない」
「それは『覿面の罪』ゆえですか?」
「そうだ。…ま、まさか」
「ええ、今、奏には王も麒麟もいませんから『覿面の罪』を問われるものはいません」
「しかし、だからといってそんなことをすれば…」
「万が一、芳のようにずっと麒麟が奏に現れないことがハッキリしたらいかがでしょうか?」
「…恐ろしいことを考える奴だな。…確かにそうなれば逆恨みをする奴がでてきてもおかしくないな。しかし、雁は遠いぞ」
「奏は王師、州師ともに黒備四軍、総計五十万の精兵ですので、巧も慶も蹴散らされてしまうでしょう。あるいは相手にもされずに一気に関弓を目指すやもしれません」
「…巧も慶も素通りさせるというのか?」
「ヘタに闘ったところで蹴散らされ、民を失うだけです。それなら素通りさせるのが一番かと」
「…わかった。何がさせたいのだ」
「奏にそのような気を起させないことです。荒民の受け入れなど、具体的なことをしていただければ」
「それで慶の負担を軽くするというわけか。ああ、わかった。朱衡、問題はあるか?」
「奏がそのような気を起さず、素直に荒民が避難した場合、支えきれずに巧が斃れるやもしれません。その荒民対策なども考慮しなければならぬかと」
「この五十年余り荒民がいなくて楽だったのに、また荒民に苦しめられるのか… 雁が斃れたらどうするのだ」
「そうなったなら慶がお助けするだけのこと。主上もそのように申しておりますので」
「…ああ、そうだったな。六太、しばらくは忙しくなるから蓬莱に逃げるなよ」
「うへぇ… あまり酷くならないでほしいよ。忙しいのはごめんだな」
「俺もそう思う。利広の野郎、最後まで面倒かけやがって…」

延王の憎まれ口はどこか寂しそうだった。彼よりも長命だった一族が滅んでしまったのだ。延王は今や最も長命になってしまった半身のことを見つめ、肩を竦めた。半身も同じ素振りをした。楽俊は目を伏せた。そして玄英宮を辞し、次の目的地に向かうのだった。





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最終更新日  2005年09月03日 14時40分46秒
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