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 NOB1960@ Re[1]:無理矢理持ち上げた結果が…(^^ゞ(10/11) Dr. Sさんへ どもども(^^ゞ パフォーマン…

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2005年09月04日
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「苦難の時代(その2)」

楽俊は雁から赤海を隔てた巧の首都傲霜に向かった。巧の遣士・沢嶺とともに翠篁宮に高王を尋ねた。高王は楽俊の叔父に当るが、依然として巧では海客や半獣に対する差別が払拭されておらず、半獣の楽俊を見る眼は冷たい。そのことを高王は気にしているが、楽俊はどこ吹く風である。一時期は半獣というだけで国外追放だったのが、依然として税負担は高いものの、戸籍に正丁として記載されるようになったのだから十分だろう。海客は言葉の問題などがあるため、相変わらず慶や雁に移送されていた。受け入れる素地がないのだ。高王はいずれ楽俊に戻ってきてもらいたくてイロイロ画策しているけど上手く行っていない。塙王や前の高王が海客や半獣を嫌い、それゆえに斃れたという記憶は口伝に引き継がれている。実際、塙王の最後に関りのある楽俊を受け入れることは、たとえ高王の甥でも、心情的に難しいだろう。その辺りの事情を沢嶺から聞かされていたので楽俊は巧の現状に落胆しなかった。

「楽俊殿、わざわざのお越しだが、やはり、奏に関係することなのか?」
「はい。宗王の崩御からまだ半月、奏を捨てて巧に避難してくる民もあまり出ていませんが、七百年も続いた朝が斃れ、次第に荒廃の度合いが激しくなり、荒民も増えるでしょう。奏には正丁が六百万人いるといわれています。巧は確か二百万人程度かと思います。仮にこの七割が荒民となり、才と巧とに半分ずつ流れ込んだならおよそ二百万人、巧の正丁と同じ数を荒民として受け入れ、耕地を与え、養うのはとても無理でしょう。この半数でも容易ではありません。新たに耕地を開拓してもそれまでの食料などもバカになりません。来年の分は奏の義倉で賄えるとしても、その後が続きません。耕地を開墾し、自給できるまでに限っても、足りない分は舜などから輸入するしかないでしょう。無論、奏からの荒民の流入具合によって大きく変わってきます。巧や才では支えきれなければ舜や漣、範や慶、雁や恭までへも避難するでしょう。それを上手く統制できれば好いのですが、荒民は勝手に動くので難しいでしょう。雁はこれまで慶、戴、巧、柳、舜などを支えており、荒民には慣れていますので、いざとなれば援けてくれます。ここに来る前に玄英宮に行き、奏の荒民に積極的に支援する旨、延王君からお言葉を頂いております。また、景王も雁と比べれば微力に過ぎませぬが、荒民に積極的に支援する決意を表明しております。この後舜に赴き、駿王君に支援をお願いするつもりですし、才、漣、範には通司の髪按を派遣し、体制を整えつつあります」
「なるほど、巧一国では奏の荒民を支えるのは到底無理と頭を抱えていましたが、流石は楽俊殿。一月とかからぬうちに支援体制を整えられるとは。が、そのことだけならわざわざ楽俊殿が翠篁宮に来ることもないでしょう。他にも何かあるのでは?」
「あくまで杞憂なのですが、あえて不測の事態に備えることについてお話したいと思います。それは奏の王師などが暴走するというものです」
「王師が暴走?そんなことは…あ!」
「そうです。通常なら『覿面の罪』があるので王師が高岫を越えることはありませんが、王も麒麟もいないなら話は別です。早ければ十年位で新しい王が即位しますが、それがかなわぬ場合には民が暴発し、王師が暴走しかねません。芳のように九十年も王や麒麟がいないことに民は耐え切れぬものです。暴徒化した民が高岫を越えて雪崩込んでくるでしょう。その時にどう対処するか、なのです」
「…奏の精兵に巧の弱兵では歯が立たぬだろう。無為に兵を失うくらいなら戦いを避け、傲霜の辺りまで引くしかあるまい。それ以上は…引けぬな。引く時は私や高麒が屍になっているときだろう」
「…高王君。暴徒化した民が雪崩込んできたら、最悪首都州までの土地をくれてやることも視野に入れねばならぬでしょう。二百万もの荒民を受け入れるにしても同じことが言えます。巧一国でこれを支えるのは不可能でしょう。食料などは舜に頼るしかありませんし、支えきれぬ分は慶に流すしかありません。どうか無理をなさらないで下さい。高王君は巧を支えることをまずお考え下さい」
「わかった。では、舜に行った帰りにまた寄ってくれ給え。いずれは駿王君とも話し合わねばならぬようだな」
「はい」

楽俊は翠篁宮をあとに、虚海を渡り、舜国首都碧蓮に入った。蒼月・紅蘭夫婦とともに楽俊は珠琳宮に駿王・渡海を訪ねた。渡海の執務室には皇太后・禮夏、王弟・浪征、王妹・蘭華がいた。

「楽俊さん、お久し振りです。お変わりありませんか?」
「ご無沙汰しています。…渡海君と呼んだほうが好いのかな?」
「そのほうが嬉しいです。主上とか、駿王君とか、他人事のような気がして困ります」
「禮夏さんも浪征君も変わりないようですね。蘭華さんはお子さんは?」
「華湖は結婚して子供を授かりました」
「その割に浪征は一人でぶらぶらしてるし、夕潮もそれを真似してしまって…」
「男衆は甲斐性がないとぼやかれています、変わりなく」
「う~~ん、それについては私も他人のことが言えないなぁ… 蒼月や紅蘭を見習わないと」
「うちの子供も似たようなものです。私たちだけがおかしいって目で見られます」
「そういうものかな?官同士で結婚して子供を授かれば優秀な官になりそうな気がするんだけど…」
「通部や修部で結婚してるのは私たちくらいです。そのうち増えるかもしれませんが」
「そうだな、仕事も一緒でないと難しいのかも…」
「…楽俊さん、そういう話をしに来たんですか?お忙しいのに」
「すみません。実は奏のことです。先日宗王が崩御なさり、荒民が発生します。正丁六百万人といわれる奏からの荒民は巧や才だけでは支えきれないでしょう。巧までも斃れてしまったら、慶も厳しいことになります。そこで各国の協力体制を整えようとこうして飛び回っています」
「…奏の民が一気に巧に流れ込んだら支えきれませんね」
「ええ、最大で二百万人と見ていますが、これは今の巧の正丁の数とほぼ同じなので、支えきれません。そこで雁や慶、舜で巧を支えようということです。巧で支えきれない荒民は慶や雁に移ってもらい、舜には不足する食料の援助をと思っています」
「…基本的に巧を助けるためなら可能でしょうが、奏のためとなると…」
「…やはり、内乱のときの影響が?」
「それもあります。前の駿王が斃れた時、奏を頼って避難した人は相当数に上りました。それが厭な思いをしたのです。最終的には『あの人』に踊らされただけでしたが、心の瑕となってしまい、それが子や孫に語り継がれ… 今では奏と慶は民に同じように嫌われています。申し訳ないのですが」
「やはり、『巧氏革命』以後の慶への悪感情は抜けていませんか」
「ええ、私も私たちの一族も慶に近いので疎まれがちです。このお二人にも迷惑をかけてばかりで…」
「そうですか… では巧からの要請なら動けるのですね?」
「はい。それ以外は動けません」
「…それともう一つ懸念されることがあります」
「…奏の民の暴徒化ですか?」
「ええ、人の手で麒麟が殺されることが天に赦されるかどうか、にかかっていますが、もし、麒麟がいなかったら」
「芳のようにですね。…あまり気持ちが良くないことになりそうですね」
「はい。奏の民が巧に攻め込むかもしれません。巧ではもう対策をとって、無為な戦いは避ける方向です。首都州まで引いて、そこで沈静化すればそこまでの土地を奏に奪われたとしても黙認します。二百万人の荒民を受け入れる場合も国土の半分を割譲しなければ対処できませんから。高王君は覚悟を決めています。景王も巧が攻められても慶との高岫を越えるまではじっと待つ覚悟です。そうしなければ『覿面の罪』に問われるからです。で、問題は舜の民です。奏に巧が攻められたら、側面から奏の民を攻めるかもしれません。そうなったら駿王君や駿台輔は…」
「…即座に死にますね。それが王師であればというのが一縷の望みですが、王師がまず突出しそうですね。浪征、蘭華。私にもしものことがあったら後のことは頼むぞ。わが一族は呉渡を目指せ」
「兄さん、なんてことを」
「いや、その可能性は低くない。王師のうち海兵は奏への恨みが強いものどもだからな。将もそうだが、兵にも多いから、巧が攻められれば黙ってはいまい。王師が他国を侵せば『覿面の罪』は免れぬ。奏本国をも討ちに行きかねない。ああ、官がいないとはこういうことなのだな…」
「髪按に続き、我らの力が及ばず…」
「いや、髪按さんや蒼月さんたちのせいじゃない。舜には人がいないんだ。ましてや慶に近しいものの言うことなど聞かぬ。私たちは政務には口も出せず、忸怩たるものだった。それでもいつかはわかってくれると思ったが… 甘かったな… 王だけでは何もできぬ。王を支える官が働かねば何も変わらぬ。私にわかったのはそれだけだ。前王央明がぶくぶくと太ってしまったのがわかる気がする。私も『俺』といえぬようになってしまったしな… 浪征と蘭華は早めに準備をして置け。…母さんはどうする?」
「私はあんたほど諦めはよくないよ。もし、渡海や紫晶が斃れたら次の朝までは私が支えてやるさ」
「いや、それは私が!」
「浪征、お前は一族を率いる義務がある。蘭華はその補佐をしなさい。まぁ、すべてはことが起きてからのことだけど、備えを怠るわけには行かないわね」
「は、はい」
「では、巧からの要請があれば食糧支援はできるだけ応えますが、奏の荒民によって巧の民が苦しめられたら、舜の民が暴徒化するでしょう。できうる限り巧の民の負担が増さないよう、調整していただければと思います。無理なお願いだとは承知の上ですが」
「わかりました。この旨、高王君にもお伝えします。…ご自愛くださりますよう、お願いします」
「ありがとうございます。…もう、これで二度と会えないかもしれませんね」
「…そうならないよう、微力を尽くします」

楽俊は珠琳宮をあとにし、再び翠篁宮を訪れる。舜での折衝を思い、顔がこわばりそうになるのをどうにか堪えた。そんな楽俊を叔父に当る高王は見逃さなかった。

「舜での折衝が芳しくなかったようだね」
「…そういうわけではありませんが…」
「舜の民は奏のことをよく思っていないようだが、そのせいかね?まぁ、巧の民も奏をあまりよくは思っていないがね」
「巧も、ですか?」
「ああ、『巧氏革命』も『憎半獣』も巧を題材にしているからね。朱旌の小説ということにはなってはいるが、そうではあるまい。特に『憎半獣』は朱旌では知りようもないこと、私でさえ知らなかったことが描かれていた。あれについて私は知らぬ存ぜぬを通したが、ここまで詳しいのは慶でなければ奏しかいないだろう?『巧氏革命』も巧と慶を反目させるためのもので、前の高王はそれで斃れ、前の駿王もそうだ。その後の慶との関係を知っているものなら、巧と慶の離反を狙うものだとすぐにわかる。『憎半獣』以来、巧は奏との関係が冷えているのだよ。宗王が斃れたのだから荒民は受け入れよう。かつて巧の荒民を引き受けてくれたのだから。しかし、心情的には受け入れたくはないのだ。これが私独りならばよいが、そうでない。奏の民が暴徒化すれば全面的に戦うかもしれぬ。こればかりは蓋をあけて見なければわからぬのだよ」
「…やはりそうでしたか。舜もそうでした。舜は巧には親しみを感じており、巧が奏に苦しめられたらどうなるかわからぬと。舜は奏に痛めつけられ、憎しみは消えていないようです。その時は舜に兵を要請してください。そうすれば舜の『覿面の罪』は免れますので」
「ああ、そうだね。巧のことに駿王君を巻き込みたくはない。そうなる前に直接私が舜に赴こう」
「申し訳ございません。これでは子供の使いですね」
「いやいや、互いの心情というものは見えぬもの。それを教えてくれただけでも十分助かった。舜のためにもなる。ありがとう。…楽俊殿と一緒に政務をとりたかったが無理のようだな…」
「いえ、とんでもない。…どうかご自愛を」
「すまない」

楽俊は翠篁宮をあとにして奏に向かった。心は重くなるばかりだった。





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最終更新日  2005年09月04日 13時34分41秒
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