|
全て
| カテゴリ未分類
| 読書案内(?)
| トピックス(国内関係)
| トピックス(国際関係)
| 日常・その他
| 想像の小箱(「十二」?)
| 創作的雑文(「風」?)
| 写真付き
| その他の創作(?)
| 中華風創作(「恩讐」?)
カテゴリ:想像の小箱(「十二」?)
「疾風怒濤(その4)」
金波宮から隆洽の清漢宮に来たのは修司だが今は通部に駆り出された河徴、通佐の翠心、修部から駆り出された暁華と三人の連絡員だった。彼らが到着する半日ほど前に光月は高岫付近の視察を終えて清漢宮に戻っていた。才では噂が蔓延しているようだ。高岫の奏側ではまだこれと言った動きはないことから槙羅や趙駱は何事もなかった振りを続けていた。楽俊が『雁からの苦情処理』のために金波宮に戻ったのと入れ替わりのように六人もやってくれば目立つというものだ。しかし、光月の持つ情報がなければ動き出せぬため、情報が手に入ればまた一気に散っていくためにも止むを得なかった。入念に人払いをしてから情報の確認をした。 「では、揖寧の町でも長閑宮でも噂が広まっていたのか?」 「はい、それが四日ほど前のことです。長閑宮では緘口令が布かれましたが、高岫付近の郷城では警備が厳重になっています。荒民のほうはまだこれと言った動きはありませんでしたが、噂については確認できていません。准司冦に近づくなと命じられましたので」 「わかった。…では、金波宮からの命を伝える。光月の情報を持って連絡員の一人は金波宮へ、一人は重嶺に飛ぶ。残りの一人は隆洽に残り、金波宮との連絡に備える。翠心はこのまま恭、柳に飛ぶ。途中範で庸賢に命を授ける。光月と暁華は俺の下に入り、巧と舜との連携をとってもらう。隆洽は槙羅さんと俺、趙駱の三人体制になる。範、才、漣は庸賢の統制化に入り、情報は逐一隆洽に送ってもらう。巧と舜はさっきも言ったように俺が見る。金波宮と隆洽は常に三人体制で連絡員が飛べるようになっている。で、基本は情報収集だ。介入じゃない。各国の朝にも情報は流すが、それをどう使うかは朝が決めることで我々が知ったことじゃない。我々は各国の朝などがどう動くかを逐一金波宮に伝え、判断を仰ぐとともに独自にも動く。奏については全権は槙羅さんにある。才と漣は庸賢、巧と舜は俺がそれぞれ判断を下すことになる。もちろん撤退という選択肢もある。大事なのは一人でも多くの民を救うことだが、そのために正しい判断が出来るように情報を朝に伝えるのが我々の任務だ。直接手を下すことは一切赦されていないことを忘れるな。以上です」 「…途中かなり意訳があったようだが、拝命した。才の情報を持って出るものはすぐに行け」 「はい」 槙羅の命を受け、翠心と二人の連絡員が堂室を出て行った。槙羅は光月と暁華を指差して言う。 「この二人はどうするんだ?巧や舜に飛ばすのか?」 「いや、ちょっと打ち合わせしてからにする。向うにはまだ噂が流れていないようだから、流す時期が難しい。噂が隆洽に来てればすぐに出したんだが…」 「揖寧までは速かったが…」 「おそらく噂話を青鳥で知らせたバカがいるんだろう。下級官吏で口の軽いのがどこにでもいるだろう?…って、隆洽ってどうなんだ?」 「青鳥は妖魔に襲われやすいから、才や漣とも音信が途絶えがちだったりする。重要なことは足の速い騎獣で行って直接伝えるしかない。だから他所の噂とかも入りにくかったりする。高岫の向うは速いけど、こっちは並足程度かもな」 「…そういうことで行き来している官は?」 「ここ十日ほどはいない」 「あとは高岫付近にいる王師や州師が報告を上げる時か…」 「あれは騎獣で来るからな… 噂が高岫を越えたら隆洽まで二日もかからぬな」 「とするとボチボチ朝に耳打ちしたほうがいいのか?」 「まぁ、向うから言ってきたらビックリしてみせるさ。こちらからは動かぬ」 「やはり槙羅さんだ。胆が違う」 「で、これだけの人数で来た言い訳は?」 「雁から苦情が来た。『雁では荒民を迫害してるという根も葉もない噂が流れて迷惑している。原因がハッキリせぬなら荒民を送還する』とな。で、噂について調査に来たと」 「確かに噂には違いない。荒民を送還されては困るから准司冦が慌てて飛んでいって手を打ったというわけか。では当面は隆洽で噂の調査か?」 「ええ、光月と暁華に調査させ、噂が出たら巧や舜に」 「なるほど。清漢宮の中は趙駱というわけか?」 「そのつもりで」 「だ、そうだ。三人ともしっかり噂を拾って来い」 「はい」 趙駱、光月、暁華が堂室から出て行く。残ったのは槙羅と河徴、人払いのために扉のところに立たされている連絡員だけだ。槙羅がにやりと笑う。 「相変わらずだな。修司になったと聞いたが、出戻りか?」 「楽俊さんのご指名で。後継者が育っているだろうに、今更って気もしますがね」 「まぁ、人を見る眼はさらに磨かれているだろうし、動かし方も上手くなったんじゃないか?」 「よしてくださいよ。ほとんど楽俊さんの考えたとおりなんですからね。あの人の頭の中身を一度見てみたいですよ。金波宮に戻って半日ですべて整えてしまうんですからね。主上でさえあしらえるのはあの人くらいじゃないですか?」 「祥瓊さんや鈴さんを除くと楽俊さんだけだろうな。あちこちで酷い目に遭っているようだけど、仕事となると違うからな」 「あれって酷い目ですかね?まぁ、好みじゃない女性から言い寄られるのは確かに災難ですけどね」 「そういえば、幼馴染はどうした?同じ修部にいるんだろう?」 「一人は大宗伯で、もう一人は修佐で今は俺の代わりに仕事していますね。まぁ、生まれた頃からずっと一緒ですからねぇ…」 「蒼月と紅蘭みたいなこともあるし」 「あれは珍しいんですよ。夕暉さんと鈴さんなんかは官になる前からの知り合いでしょ?」 「だから、お前はどうかって思ったんだがな」 「生まれが違うってのがありますよ。そういう槙羅さんは?」 「周りはみんな奏の民だぞ。野合はできても結婚は無理。その気にもなってもらえないさ」 「ああ、そうでしたね。これが終わったら金波宮に戻って嫁さん探しとか?」 「好いのがいたら紹介してくれ」 「はいはい」 槙羅も河徴も気の抜けたような会話を交わしながら視線だけは四方に走らせていた。もちろん傍からはそうは見えない。二人でのんびり茶をすすっているようにしか見えないだろう。ここで扉のところにいる連絡員を呼び入れる。まるで罰で立っていたのを赦したような感じである。通部の人間は見た目通りではないのだった。 * * * * 玄英宮に向かった楽俊は延王や延麒と対面していた。傍らには相変わらず大司冦・朱衡がいる。楽俊の脇には堅至と累燦が控える。延王は襟元をくつろがせ、延麒は書卓の上に胡坐をかいている。朱衡はそんな二人を見て見ぬ振りをしている。書卓の上には書簡が山積になっているが、それに目をくれる素振りもせずに延王が口を開く。 「楽俊、堅至が呼びに行ったと思ったが、遅かったな」 「すみません。金波宮に内緒で来る訳にも行きませぬので。その旨、堅至に託しましたが?」 「それは聞いている。一応は慶の官だからな。金波宮を蔑ろにすると後々面倒だというのはわかる。だが、ことは重大だとわかっていように。もう少し速く来てもよいのではないか?」 「できうる限り速く来たつもりですが?お蔭でみけもへばっております。この日のために拝領したような気がいたします」 「ふん、相変わらず口の減らない奴よ。お前がなかなか来ないから俺なりにあれこれ考えてしまったではないか。結論から言えば、蓬山に奏の麒麟がいないことを雁にいる奏の荒民たちに公表する」 「え?それでは荒民たちが黙っては…」 「堅至、少し待て。まだなにやらあるようだ」 「しっかり読まれているぞ、尚隆」 「つまりだ、ただ公表したら荒民たちが動揺するだけだ。そこで前例を教えてやる」 「芳のことですか?実際に百年を耐えた国のことを教えるわけですか。お前たちも耐えられるだろうと?」 「そうだ。幸い、雁は奏から遠い。これは戴や柳、恭や慶にも言えることだが、雁にいるのは数年で還れると踏んでいる連中だ。王や麒麟が斃れてから新しい麒麟が王を選ぶまで最短で十年弱だ。それだけの期間を乗り切ることしか考えていない。しかも比較的早めに奏に見切りをつけて出てきた富裕層もケッコウいる。雁で商売を始めたりする奴もいる。戸籍を買う奴もいる。それは別に構わんが、その気になればいつでも帰れるつもりでいるはずだ。こっちも出来るだけ速く帰ってもらいたい。その辺の思惑は一致しているわけだ。ところが蓬山に奏の麒麟がいないとなると話が違ってくる。芳の例で行くならば三十年は新しい卵果が生らなかったと言う。つまりこれからさらに三十年も荒民生活が続くことになる。そうなると問題になるのは…」 「…子供の問題ですね。奏の民は奏でなければ子どもを授からない」 「そうだ。いくら雁の戸籍を手に入れてもそれは給田や課税のためのものであって、結婚を届けても意味はない。雁で荒民を続けてもそれはここで生きているだけのことで、すなわち死ぬのを待っているだけだ。結婚も意味がなく、子どもも授からない雁にいるよりは、たとえ天候が荒れ、妖魔が跋扈していようとも奏のほうがいいだろう?このまま雁に残るもよし、奏に還るというのなら送り届けてやろうというわけだ」 「…ただ、素直に奏に還って貰うには芳の様子が詳しく知りたいということですね?百年で死に絶えることはないのか?天候や妖魔の状況はどうなのか?食料や子供の具合はどうなのか?これらのことが比較的受け入れられそうなら発表する、ですよね?悲惨で受け入れられそうもないようならじっと黙って成り行きに任せる、と言うことですよね?」 「尚隆、全部お見通しみたいだぞ」 「いえ、今日お会いするまであなたの考えについて失念していました。大事な何かを忘れていると思ったんですがね。そう、一か八かの博打を打つように見せかけて、実はしっかり抜け穴を用意しておくんですよね。まぁ、自分が逃げるためじゃなく、雁という国をそれだけ大事に思っているということですが、大胆で細心だ」 「一応は褒め言葉として受け取っておくが、で、どうだ?芳の資料は用意できるのか?」 「そうですね… これからすぐに蒲蘇に向かって… 芳の地官が資料をまとめていれば往復の時間だけですが、それでも四日。まとめていないとすると百年ですから… あそこには暁星と紫蘭がいるから… よし、十日で戻ってきましょう」 「…楽俊が直接行くのか?」 「仕方ありません。数字が揃っていないときには私が行った方が必要なものがすぐに揃えられますからね。ですから、早ければ五日、遅くても十日ほどで戻ってきます。が、その前に金波宮と隆洽に知らせます。実際にこちらで発表するかどうかは芳の資料次第ですからその旨を流しておきます。よろしいですね?」 「まぁ、いいんじゃない?朱衡、問題ある?」 「楽俊殿がそういうのならお任せしてもよろしいかと」 「尚隆、やっぱり、お前よりも楽俊のほうが信用されているみたいだな」 「…五月蝿い」 「じゃあ、十日後までにまたここでってことだよな?」 「ああ、このあと白圭宮に行くつもりだったのですが…」 「それは俺が行っておくよ。口止めしたのは俺だし。楽俊が戻ってくるまでには俺も戻れるし。いいだろ、尚隆?」 「…勝手にしろ」 「では、私どもはこれにて…」 機嫌を損ねた延王を放って置いて楽俊たちは御前を辞した。その足で厩に向かいつつ指示を出す。 「累燦は今のことを直ちに金波宮に伝え、髪按に奏の冢宰と協議をするか否かについて蘭桂らと検討するように、と。それから芳の暁星と紫蘭はしばらく私の下に置く。荒民たちについては常に注意を払うように。隆洽とも連携を密にせよ」 「はい」 楽俊は蒲蘇へ、累燦は金波宮へと飛んでいった。堅至は資料が間に合わなかった時に備えた検討のために朱衡のもとへといった。この検討が無駄になってくれればと思いながら。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2005年09月10日 12時06分04秒
コメント(0) | コメントを書く
[想像の小箱(「十二」?)] カテゴリの最新記事
|
|