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 NOB1960@ Re[1]:無理矢理持ち上げた結果が…(^^ゞ(10/11) Dr. Sさんへ どもども(^^ゞ パフォーマン…

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2005年09月18日
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「大逆の子(その1)」

巧の遣士・翠心から高麒失道の報が金波宮に届いたのは赤楽九十九年の年末だった。通司髪按はこれを大司冦・蘭桂と准司冦・楽俊に報告した。年が明ければすぐに赤楽百年の式典があると言うのにそれに水を差すようなことを公表してよいものか悩ましいものがある。とりあえず景王や冢宰に報告はするものの、朝議の場では触れない、という方向ではどうだろうということになった。麒麟は失道してすぐに登霞するわけではない。失道している間に王が行いを改めるか、禅譲すれば麒麟は回復する。王が行いを改めて失道が止んだ例はほとんどなく、禅譲した場合には王は遺勅は残せるものの、蓬山でその命を失う。己の命で麒麟の命を購うのである。王の半身である麒麟はそんなことは望まないが、失道している麒麟に止める術はない。高王史英もいざという時は禅譲しようと思ってはいた。が、史英自身が心痛で病みつかれていたのだ。巧の民と奏の荒民の狭間で何一つできぬ無能の王という、非難を浴び続け、心を病んでしまった。五十万とも百万とも言われる奏の荒民が流れ込み、西部三州はほとんど明け渡したような格好になってしまった。三州から追い立てられた民は主に淳州へと逃れていた。いざとなれば雁や慶に逃れられる場所でもある。そうした民の怨恨が高王の心を苛み続け、半ば心が壊れてしまった頃、高麒が失道したのだ。もはや高王に考える力などなく、高麒失道の報にも『そうか』と応えただけだったという。冢宰を始めとする百官は高王を諌め、禅譲を、と願ったが、高王はただ蓬山のほうを眺めるだけだったらしい。翠心の報告にはこのような状態のため、高台輔登霞、高王崩御は避けえないのではないかと書かれていた。

「巧が斃れますか。もはや手の打ちようがないようですね」
「王の心が壊れてしまったら禅譲も認めてもらえぬのでしょうか?」
「無理だろうな。禅譲は王の自発的なものでなければならないようだ。手遅れだな」
「しかし高王は…」
「人の心は見えぬものゆえ、翠心にも見破れなかったのだろう。王宮の奥にいれば察しようもない。頻繁に行っていれば気晴らしになったかも知れぬが、私の存在自体も重荷になっていたやもしれぬ。高王には知らせぬほうが良かったのかもしれないな」
「でもそれでは最初の十年も越えられなかったのでは?きっと励みになっていたと思いますよ」
「無理しないでいい。ここまで壊れぬうちにさっさと禅譲の機会を与えなかったという意味で悔いているのさ。知らなければ十年ほどで投げ出して禅譲していただろう。そうしたら高麒も失道せずに済んだかもな」
「それはわかりません。とにかく巧が斃れた場合の対策です。奏の荒民が慶まで来ますかね?」
「いや、才や舜に廻るのではないか?慶に来るくらいなら雁や範に行くだろう。あるいは戴かな。巧の荒民も慶よりは雁に行きそうだな。まぁ、前のときより少し多いくらいか?」
「前の高王が斃れた時は高岫閉鎖が解除されて逃げ込んできたのが確か二十万人くらいいましたね。あの時は雁や奏に避難したのがほとんどです。今回は奏には逃げ込めませんからね」
「今回はさほど荒れないと見ているのだ。奏も最初の数年は天候が酷かったけど、ここ数年はそうでもない。妖魔の跋扈もぐっと減っているらしい。巧の斃れ方も以前と比べると酷くはならないように思えるのだ。他国への干渉ではなく、他国への支援で斃れるのだからな。まぁ、そう思いたいという気持ちもあるが」
「それは私にもありますよ。巧が斃れても酷くないほうが慶には嬉しいですから。ちょっと不謹慎かもしれませんが」
「とにかく主上や冢宰の耳に入れねばならないな。他の官は祝賀が終わった後でもどうにかなると思うが…」
「即位百年目ですからね。上元の宴で執り行うんですから半月ちょっとですね」
「荒民の受け入れについては地官府と王師、州師あたりの根回しが必要だろうな」
「あるいは式典そのものの延期もありそうですね」
「ああ、ありえるな。でも延期というわけにも行くまい。かなりの準備が進んでいるだろう?それが無駄になる」
「それを無駄にならぬようにせよ、とか言い出しそうですね」
「それが無理難題だと気づいてくれれば好いのだが… 無駄といえば…」
「…何ですか」
「二人の結婚も百年に合わせて済ませてしまおうとか考えてるんだろう?」
「ど、どうしてそれを!」
「どこにでも目も耳もあるものだよ。まだ他の連中には洩らしていないから安心していいよ。上元の日にこそっと地官府で届けを出して知らん顔するつもりだったんだろう?準備も万端みたいだけど店は選ばないと」
「店って…」
「あの店が庸賢の実家だと知らなかったようだね。まぁ、代替わりしてるから知らないほうが多いみたいだけどね」
「…ああ、範からの品を扱う店は通部も監視していましたね。迂闊でした。あ、でも、髪按は…」
「あそこは私が個人的に寄るだけなんだ。通部は関係ないよ。関係あったら別の店にしようと言うはずだろ?二人で行ったくせに」
「うっ…」
「それと同じようにうまくことを運ぼう。でないとイロイロありそうだからね。二人には慌しいほうが好いかも知れないけどね」
「…否定はできません。ですが、何事もないほうがいいじゃないですか」
「そりゃそうだ。蘭邸の酒の出ない夕餉に主だったところを呼ぶことにしよう。それでどうにかなるだろう」
「そうですね。では準備します。髪按、手伝ってくれ」
「はい」

髪按は楽俊にからかわれて心持頬が赤らんでいる。が、やるべきことに遺漏はない。蘭桂とともに夕餉の準備を整えた。その日は金波宮の主だったところ、つまりいつもの面々が蘭邸の夕餉に集まった。酒がないことで場が引き締まる。

「今宵は何かあったのかな」
「はい、巧の遣士より高台輔失道の報がありました。高王も心痛で臥せっている模様です」
「何?それではすぐに義倉の…」
「いえ、あと数日で年も明けます。年があければ赤楽百年。上元には式典もございます。あと半月あまりです。既に準備にかかっておるのに無碍にはできますまい。それに式典までに登霞なさるとも限りません」
「しかし…」
「式典などの準備に関っているものは今宵の席にはおりません。民も心待ちにしています。それを無視なさりますか?慶の民の祝賀を述べる喜びを奪うおつもりですか?」
「い、いや、そのつもりはないが…」
「麒麟は失道してすぐに登霞なさるわけではありません。もし、式典までに登霞なさっても慶の民には直接は関りありません。式典は式典、荒民対策とは別のものです。我らは荒民対策を密かに進め、式典は成功を目指す。いけませんか?」
「う、うむ… 止むを得まい。その方向で検討してくれ。しかし、式典でそれに触れても構わぬだろう?」
「ええ、民を昂揚させる方向であるのなら。目出度い席で民を意気阻喪させないで下さいね」
「…私はそんなに信用ないのか?」
「いえ、そういうこともおやりになりそうだから敢えて苦言を申しました。もちろん信用していますとも」
「…厭な奴だ。私はお前の手の中で遊ばされている気になる」
「お戯れを。私の手の中に入るわけありませんよ」
「ああ、こっちには『西遊記』がないんだった。今度延麒か泰麒に頼んで持ってきてもらおう。そうすればわかる」
「はぁ… 説話か何かなのですね。では、具体的なことは後日ということで、この話はこれでよろしいですか?」
「…荒民の規模はどれくらいになると思う?」
「多くても数十万人規模かと。十万人を切る可能性もあります」
「みな雁を頼るというのか?」
「はい。それもありますが、荒民そのものの規模が小さくなると考えております」
「え?なぜ?」
「今回は奏を助けようとして斃れるのですから、天も考慮なさるのではないかと」
「…そういうこともあるのかな?ならば慶も斃れる時はそうしたいものだ」
「…不吉なことは口になさりませぬよう」
「…すまぬ。軽口過ぎた。赦せ」
「では、酒を出してもよろしいですか?」
「ああ、頼む」

景王の許しが出て、紫蘭、暁華らが酒瓶や酒盃を配っていく。修部は春官府だが式典には関与しない。この場で唯一関与しそうなのは女史の祥瓊である。とはいえ、当日の景王の衣装その他が主であり、今はまだそう忙しいわけではない。その祥瓊の顔色がさえない。酒盃を重ねるが酔った気配もない。誰かと言葉を交わす素振りもない。そんな祥瓊の肩がポンと叩かれた。祥瓊が振り返ると楽俊が立っていた。

「顔色が悪そうだ。ちょっと外の空気を吸ってこよう」
「…ええ」

祥瓊は短く応えると楽俊とともに花庁を出て行った。それを桓堆が寂しそうな顔で見ている。その桓堆には誰も声をかけない。皆事情を弁えているので何も言わないのだ。楽俊と祥瓊は園林の亭で向き合った。

「さて、上元の式典が終わったら鷹隼宮に行くんだろう?」
「…どうして?」
「高台輔が登霞して蓬山に高果が生ったら峯麒は王を探しに蓬山を下りる。真っ先に鷹隼宮に行くだろう。そこでずっと昇山していなかった月渓殿と対面する。月渓殿が王になる可能性は高いが、月渓殿は固辞するだろう。それを阻止するために春分までに鷹隼宮にいこうと思っている。違うか?」
「…違わないわ。でも…」
「峯王崩御から百年以上経っている。祥瓊が心を入れ替えて慶に仕えてからももうすぐ百年だ。百年も生きている民はいないし、仙となった官も多くが職を辞しているそうだ。峯王を知る者は少ない。まぁ、身分を明かしたらイロイロあるけど、慶の官としてなら大丈夫だろう」
「で、でも…」
「いざとなったらついていってやる。月渓殿をその気にさせるのは祥瓊しかいないからな。心配するな」
「…桓堆は…」
「桓堆殿も弁えている。そうでなきゃおいらと二人きりにするか?」
「…しないわね」
「だろう?だから、大丈夫だ。危なくなっても月渓殿が上手くやるだろうし、おいらだって頑張るさ」
「…でも、ホントに好いのかしら?」
「祥瓊が月渓殿を王にしてしまえばそれで丸く収まるさ。麒麟旗が揚ってもう二年だろう?民は焦れてきてるはずだ」
「…そうかもしれないわね」
「月渓殿が峯麒にキチンと対面し、固辞しないようにできたら帰ってくればいいさ。還れなかったら」
「…そ、そうね。還れなかったら帰ってくれば好いのね」

祥瓊の眼からは大粒の涙がこぼれていた。還りたいのだ。けど、還れない… だから帰ってこなければならない。あまりにも遠くなってしまった故国、芳。二度と足を踏み入れることさえかなわぬとずっと思っていたけど… 一度だけ、月渓を王につけるためだけ、どうか赦してください。ホンの数日鷹隼宮に戻ることを… 楽俊は祥瓊のために胸を貸した。祥瓊はしばらくの間楽俊の胸の中で泣き続けた。

「ありがとう」
「いや」

泣き止んだ祥瓊が礼を言うと楽俊はそっぽを向いて応えた。顔を見ないようにしているのだ。泣き崩れた顔を見られて嬉しいものもいないだろうと思ってのことだった。祥瓊はその心遣いを嬉しく思う。

「じゃあ、先に帰るわ。花庁には戻らないからみんなにはよろしく言っておいてね」
「ああ、じゃあ、また明日」

祥瓊が行ってからしばらくして楽俊も蘭邸に戻った。花庁に戻り、みんなの視線に頷くと皆がホッとした顔をした。桓堆は大きな溜め息を一つついた。浩瀚が桓堆の酒盃に黙って酒を注いでやる。桓堆も黙って酒盃を空ける。誰も何も言わず、夜が更けて行き、一人二人と花庁から出て行った。残ったのは蘭桂と髪按だった。二人は黙々と後片付けをし、それぞれの臥室に戻る前に抱き合い軽い接吻を交わした。自分たちの幸福を噛み締めるように、蘭桂は髪按の髪をなで、髪按は蘭桂の胸に頬を摺り寄せる。そしてどちらともなく離れる。

「お休み」
「おやすみなさい」

密やかな愛が既に実っていることはまだあまり知られていなかった。





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最終更新日  2005年09月19日 05時16分26秒
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