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2005年12月08日
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「流浪の赤麒麟(その2)」

慶国首都堯天・金波宮。赤楽百四十七年も冬至を過ぎた頃、隣国巧の冢宰・英巽が昇山からの帰途に訪問した。景王への公的な謁見では麒麟旗が揚って初めての昇山では王が選ばれなかったことと、今後の支援の要請を述べたくらいで、私的な会見が蘭邸で行われた。

「お手間を取らせて申し訳ございません」
「いやいや、私も堅苦しいのは苦手だから気楽に話ができるほうが嬉しい。気にしないで貰いたい」
「そう仰っていただけると嬉しいです。しかし、良く似ている」
「はぁ?似てるとは私がか?このような赤い髪は珍しいと聞くが?」
「はい、景王君のような緋色の御髪は市井でも王宮でも見たことはございませんが、この度の昇山で拝見しました」
「昇山の際に見た?このような赤い髪をしたものがいたのか?」
「昇山したものでも女仙でもありません。蓬山公が緋色の御髪に翠玉の瞳をお持ちでした。しかもそのご容貌はまるで景王君を幼くしたようなものでした」
「蓬山公?高台輔が私と同じような髪と瞳の色で、しかも顔形も似ているのか?麒麟といえば金色の鬣だと聞いていたが」
「はい、何でも世にも稀な赤麒麟だそうです。黒麒麟の泰台輔と同じくらい稀なことだと聞かされました」
「世にも稀な赤麒麟が高台輔とはな… ややこしいことになるやも知れぬな。私は巧では人気がない。そんな私に似た麒麟など認めたくない民も多いだろうな。蓬山では騒動など起きなかったか?」
「騒動までは行きませんでしたが、毎日のように侃々諤々の言い合いがそこらじゅうで行われていました。景王君には申し訳ありませんが、巧では紅い髪に翠の瞳は忌まわしい記憶と結びついています。そのため、昇山したにも拘らず、蓬山公に目通りせずに帰ったものもおりましたし、今後は昇山者の数も減るでしょう」
「…となると、王になるものがそう容易くは見つからないこともあるのか?」
「そうです。私も蓬山公の姿を見た瞬間に王になることが頭から抜け落ちていました。他のものもそうでしょう。王になるという意志もなく蓬山公の前に出たものが王になるわけがありません。今後王になるものが現れる可能性は小さいでしょう」
「それでは困るだろう?王がいなければ国は荒れる。妖魔が跋扈して民の命を奪っていく。それで良い訳があるまい」
「はい。一日も速く王に即位して貰いたいのですが、今のままでは…」
「…なるほど、こいつのことか?」
「…はい」

景王が指差したのは楽俊であった。巧の麒麟が赤麒麟であり、景王に似ていることに愕然としていたが、同時に別なことを考え、渋い表情をしていたのだ。それは景王や英巽も同様で、だから指差したのだろう。

「私を想起する麒麟の横に立つとするならば、私を援けたこいつしかいない、か。ありえそうなことだな」
「はい、私もそのように考えました。二年後には太師に迎えるよう、前王の遺勅がございますが、あるいは…」
「しかし、それを巧の民が受け入れられるか?八年も経つのに、こいつ自身も気持ちを決められずにいるのだぞ。一応こいつがいなくなった時に備えて準備は始めているが… おい、何とか言ったらどうなんだ?」
「…巧は半獣への差別が残っている唯一の国です。百年余り前にはこの慶や舜、芳にも差別がありましたが、今日ではなくなりました。前の高王は半獣への差別を逆手にとって同じ廬に住めば税を減額する施策をしておりますが、これもあと二年で反故になります。あるいはあと二年で半獣だということで差別も優遇もしないということかもしれませんが、民の気持ちは追いついていません。そのような状態で私が巧に行っても、巧のためになるとは思えません」
「…頑なな奴だな。民意を動かすのは容易なことではない。だから誰が王になっても赤麒麟の台輔がいては苦労するだろう。逆に言えば楽俊ならこれ以上もなく人気のない組み合わせだから、周りはやりやすくなるのではないか?」
「…それはどういう意味ですか?」
「当面は冢宰の英巽殿を中心に政務を行う振りをすれば良いということだ。楽俊への反発で逆に一枚岩になるだろう」
「…私が王になるのを前提にしていませんか?誰が王になるなどと言っているんです?」
「ああ、楽俊が王になるとは決まってはいないが、王になってもおかしくはないだろう?王になれというのではない。王になったらどうなるか、を言っているだけだ。それでもいけないのか?」
「私以外の誰かが王になるでしょう。昇山するものが減ってもその中に王に相応しいものがいるはずです。誰一人王になるものがいなかったなら…」
「…そうなったなら諦めるのか?麒麟が王を選べずに斃れ、次の麒麟が生まれて王を選ぶまで待つというのか?それは巧の民のためにならないぞ」
「ですから、私が王になるのを前提にしたお話は辞めてください。そのような話には加われません」
「…私は楽俊殿が王になるかどうかはわかりません。なる可能性は高いと思いますが。少なくとも景王君に良く似た台輔のそばに楽俊殿にいて欲しいのです。前王の遺勅に従い太師になっていただきたい。私は翠篁宮に戻り次第、太師を解任するつもりです」
「英巽殿、ちょっと待ってください。私は翠篁宮に行くとは…」
「いえ、二年後には翠篁宮に来ていただきたい。今すぐにでも来ていただきたいのです。一官吏として働いていただければ、楽俊殿の能力が皆にもわかるでしょう」
「し、しかし…」
「ふむ。二年後とは限らず今すぐにでも欲しいか… その気持ちはわからぬでもないが…」
「もしも楽俊殿が昇山なさったら…」
「いえ、それはありえません。王になる気がないのに昇山するわけには行きません」
「…英巽殿、どうもこいつは頑ななようだ。英巽殿の意見はわかったので、言い聞かせておきましょう」
「ありがとうございます」

英巽は景王に礼を言うと客殿に案内されていった。英巽の姿が見えなくなるまで誰一人として口を開かなかった。やがて景王が大きく息を吐き、独り言のように口を開く。

「赤麒麟とはな。しかも私に似ているだと?ややこしいことになりそうだな」
「そうですね。楽俊さんも意固地になっていますし」
「夕暉、意固地とは何だ?」
「違うのですか?確かに巧はまだ半獣への差別が残っていますが、それがなくなるなら問題ないでしょう?楽俊さんが巧に行って半獣への差別をなくすこともありえます。少なくとも太師になるのに問題はありません。長年慶の為に尽力していただいた恩は返しようもありませんが、楽俊さんが故国のために働くことを邪魔したくありません。楽俊さんの穴を埋めるのは容易ではありませんが、楽俊さんに学んだすべてのものが尽力し、一丸となって頑張りますので、安心してください」
「そうだな。楽俊が抜けるのは大きいが、故国のために働くのを阻害するわけには行かない。今すぐでも夕暉以下皆が頑張ってくれると思う。二年後の期限までには巧に行くことになるのだろう?仙籍のことなど細かいことは夕暉に一任する。英巽殿と協議して遺漏のないようにしてもらいたい」
「はい」
「…ちょっと待ってください。そんなに私を追い出したいのですか?」
「誰もそんなことを言ってはいない。巧のために働きたいとは前々から楽俊が言っていたことではないか。それなのに実際に行けることになったら躊躇うのか?」
「巧に戻ったところで仕事ができるとは限りません」
「楽俊らしくないぞ。実際に翠篁宮に行ってみなければわからぬだろう?」
「何度も行っておりますし、毎年の研修で民の様子もわかっております」
「なるほどな… わかった。この話はこれで終わりにしよう」

景王は楽俊が巧に戻る件について一方的に打ち切った。その後しばらく歓談したあと、景王は正寝に戻っていった。その際に楽俊に『後で来い』と耳打ちすることを忘れなかった。楽俊は使令に呼び出される前に正寝にやってきた。

「お呼びですか?」
「そんなに怖い顔をするな。皆の前ではできぬ話もあるだろう?さぁ、座ってくれ。酒も付き合うだろう?」
「少しだけなら」

景王は酒盃を二つ用意し、果実酒をそれぞれに注いだ。二人は軽く酒盃を合わせると飲み干した。景王は自分の酒盃に更に注ぎ足すと、あとは手酌でと促す。景王は既にかなりの量を飲んでいるようだった。楽俊を睨むように見る目つきが怪しい。楽俊も普段は飲まぬ酒だが、景王に負けぬように飲み始める。しばらくは酒を注いでは飲む音だけがしていた。やがて、景王が卓子をドンと拳で叩く。

「楽俊、私が楽俊を手放したいなどとは思っていないことはわかっているよな」
「…もちろんです」
「…けど、だからごねているわけではないんだよな?」
「そうですね。あなたのことも少しは考えています。金波宮を去るのは心苦しいものがありますからね。それ以上に巧に行って何ができるのか、非常に不安に思っています。半獣に対する感情は全く良くありませんから、何も出来ずに無為に過ごすことは眼に見えています。ましてやあなたに似た麒麟が来るなんて… 考えただけでぞっとしますね」
「…私の顔がそんなに厭か?」
「…私がではなく、巧の民や官は嫌がるでしょう。だから英巽殿がわざわざ金波宮にやってきたんでしょう?巧への支援を篤くしてあなたに対する巧の民たちの心証を良くしてくれってことですね。あの人も狸だから」
「ふん、国を支えているものはみな狐か狸で、皆で腹の探りあいとか化かしあいとか騙しあいとかしてるからな。その言葉を額面どおりに素直に受け取るようなものは生き残れぬぞ」
「…あなたは狐ですか?」
「ふん、お前は鼠の癖に狸だからな。すぐに揚げ足を取るし、都合が悪いことはすぐに話を逸らそうとする。でも、真面目な話、もし、高麟がお前を選んだらどうするのだ?」
「…選ばれたら逃げようがありませんね。でも、その前に誰かが王に選ばれますよ」
「…昇山はしないのか?」
「しません」
「…太師は受けるのか?」
「…受けません」
「なぜ?」
「期限までに王が決まれば前王の遺勅は反故になりますよ。少なくとも私が太師になるということだけは。期限までに王が決まらなくても同様にすぐに反故になるのなら受けても仕方ありません。新しい王次第です。私に太師になれと言われたら受けざるを得ませんが、それ以外は受けるつもりはありません」
「それはいえるな。新しい王の望まぬものが太師ではやり難かろう。しかし、前王はそれでも太師にと望んだのだろう?遺勅に背いても良いのか?」
「それは巧の民の問題です。私は慶の官ですから、直接は関係ありません」
「つれない奴だな。英巽が聞いたら憤慨するぞ」
「…英巽殿の前では内緒です」
「…正直私個人としてはこのままずっと慶にいて欲しい。が、景王としてはそうとも言い切れぬのだ。王として隣国のためにどうしたら良いか考えると、楽俊の力を使うのは必要なことかも知れぬ。問題は民や官が楽俊のことを上手く使ってくれるかどうかだな。その見極めが難しい」
「…そうですね」
「まぁ、とりあえず遺勅通りに太師は受けろ。その後、新王に解任されたら慶に戻ってくれば良い。そうしろ」
「…それで好いのですか?一旦慶から出たものがまた慶に戻っても?」
「誰が王をしていると言うんだ?私がそうしろといったんだ。何なら念書を書いてもいいぞ」
「それは遠慮しておきましょう。巧から追い出されたら引き取ってください。まぁ、雁に行くという手もありますね」
「ダメだ!絶対に金波宮に戻って来い。他のところに行くことは私が赦さない。そんなことをしたらその首を刎ねてやる」
「はいはい。もうかなり酔っていますね。お休みになられてはいかがですか?」
「そうする。添い寝を申し付ける」
「ご辞退申し上げます。あと二年間は問題がありますので」
「ちっ、くそ真面目な奴だ。さっさと帰れ!」
「では失礼いたします」

楽俊が出て行った後、景王は牀榻に身体を投げ出した。声を殺して涙を流している。楽俊とは別れたくない。けど、それが決して良いことでないこともわかっている。強がりを言うしかない。使令たちは見ない振りを通した。





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最終更新日  2005年12月08日 12時11分49秒
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