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2005年12月09日
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「流浪の赤麒麟(その3)」

巧に麒麟旗が揚って二度目の夏が終わる頃、蓬山の捨身木に宗果が生った。玖姥は再び『玖姥』を屠った。その亡骸は阿薫ら女仙によって片付けられた。甫渡宮には百人ほどの昇山者がいたがすぐに謁見は中止され追い出された。とは言え、秋分に令巽門が開くまでは黄海から出られないので、令巽門の前に露営するしかないのだ。このため、露営のための食料なども僅かながら甫渡宮から下げ渡されたりもした。それでも全くないよりはマシである。これは捨身木に麒麟の卵果があるときは人間を蓬山に近づけないという決まりに沿ったものである。したがって、高麟は蓬山を下りて王探しにでなければならないのだ。次に開くのが巧にある令巽門なのは幸運だった。そのまま巧を一回りすることができるからだ。使令を使って金剛山を超えて行くこともできるが、敢えてすることでもない。開く門の前に待っているものの中に王がいるかもしれないのだ。高麟は阿昭だけを連れて行くことにした。他の麒麟のように金色の髪を隠す必要もないし、間も無く九歳になるというのに人形では六歳くらいにしか見えないのだ。そのようなものが多くの女性を連れて歩くというのはどうかとも思ったのだ。無論高麟一人で探し回っても良いのだが。秋分の二日前に高麟と阿昭は白亀宮へ玉葉に挨拶をしにいった。白亀宮で言葉を交わしている時、それはやってきた。ドンという突き上げるような揺れが何度となく襲い、宮の外では突風が荒れ狂っていた。蝕である。玉葉は悔しさに顔を歪めた。

「禎衛!」
「ここに」
「すぐに捨身木へ。宗果を守るのだ」
「はい」

禎衛も返事はしたものの、容易に捨身木のところにいけたわけではない。揺れる地面と激しい風に翻弄されてどうにかたどり着いたときにはすべてが終わっていた。捨身木に宗果はついていなかった。捨身木の根元で玖姥は泣きくれていた。阿薫は呆然と立ち尽くしていた。もはやなすすべはなかった。禎衛は肩を落として白亀宮に戻ると、その旨を報告した。玉葉は瞑目した。それを見ていた高麟と阿昭は一言も声がかけられなかった。それくらい他を寄せ付けぬものがあった。高麟と阿昭は白亀宮を辞し、秋分には令巽門から黄海の外へと王を探しに行ったのだった。

  *  *  *  *

燦然と輝く二つの玉座にはそれぞれ天帝と西王母が座っていた。その前に平伏しているのは玉葉である。

「三度宗果が蝕に奪われました。このようなことがあってはならじと万全を尽くしたつもりでしたが、守りきれませんでした。蝕はまたもや北西の崑崙の方向へと抜けていきました。かつての峯果と同じように三度続けて崑崙に流されたのです。蝕に流されてから次の卵果が生るまでの時期もほぼ同じ。なにやら意図的なこともあるのではないかと…」
「…玉葉、そなたは何を疑っておるのだ?」
「いえ、仏の顔も三度という言葉をふと思い出しただけです。蓬莱では猫が殺されると三代祟るというそうですが、奏の麒麟も人の手で殺されたがゆえに、三代祟られたのかなとも思いました。あくまでも憶測ですが」
「憶測でものをいうとは玉葉らしくなかろう。蝕は我らでも如何ともしがたいもの。玉葉に責めはない。余計なことで思い悩むではないぞ」
「はい」

平伏したままの玉葉の顔は天帝や西王母からは見えない。長い袖に隠された拳が強く握られているのも見えない。が、玉葉が怒りに震えていることは二人には手に取るようにわかっていた。もちろんそのようなことはおくびにも出さない。やがて玉葉の姿はすいと消え去り、その気配が完全に消えるまで二人は無言で通した。そして…

「そろそろ玉葉にもばれてしまったかも知れぬな」
「同じことをこれだけ繰り返して気づかぬほうがどうかしてますわ。最後に蓬莱に流すのは勘弁なさいますか?」
「玉葉が事前に何か言ってきたら辞めることにしよう。何も気づいていないようなら蓬莱に流すことにする」
「今回も何度か目通りを言ってきたのを無視なさったのではなくて?」
「そうだったかな?まぁ、流石に次は拙かろうて」
「多少はやり方を変えないと。でも、どうせ赦すのですからあまり無理なさらずとも」
「そうだな。どうせ次に遊ぶものは決まっておるし…」
「胎果の麒麟ですか?」
「うむ。蓬莱のほうもイロイロあるようだしな。始末するには丁度良い」
「峯麒を探しに行った時のように宗麒を探しに行った際に、では宗麒が失われますでしょ?」
「となると、宗麒を流すのは拙いということか。まぁ、宗麒の祝か何かを買いに行って、というのがあるかな」
「ほほ、悪いお方。そこまで既にお考えなのですね」
「考えるといえば高麟を赤麒麟にしたのはわざとらしくはないか?」
「そうですか?あれで諦めもつくと思ったんですがね。あれと並べば似合いだと思いませぬか?」
「それは似合いだろう。それで隣国との離反を図るのか?」
「さて… それは難しいのでは?まぁ、その次の仕掛までは大人しく、ですわ」
「達が思ったほど動かなかったのは誤算だったが… そちらのほうは問題ないのか?」
「先新は表立っていませんもの。明嬉と文姫は私のそばに」
「遊びの駒にはせぬのか?」
「勿体無いでしょう?漢ならばいくらでも使いようはありますが、女は可哀想で…」
「王母の言葉とも思えぬな。まぁ良い。そちらの方が終わった後にまた楽しもうぞ」
「そうですわね。では、ごきげんよう」
「うむ」

二つの玉座から気配が消えていく。この世界を動かす彼らは常に忙しいのだ。

  *  *  *  *

蓬山から追い出され、令巽門の前で秋分を待っていたものたちの後から黄海の外に出た高麟が見たのは閑散とした巽城だった。既に一月以上前から昇山停止の触れは令巽門に貼り出されており、それを見て引き返したものも多かったのだろう。あるいはその噂を聞きつけて巽城に来るのさえ取りやめたのかも知らぬ。そこにいたのは出てきたばかりのものだけであった。彼らもまたそそくさと帰ろうとしており、巽城に留まろうというものは数えるくらいのものだった。昇山停止の触れが出ると朱氏や剛氏も自粛するのか、黄海に入るための物資の補給などをする店も閉まっていたりする。その何処かうら寂しい巽城の街の舎館に高麟と阿昭は一泊することにした。明日以降はとりあえず国都の傲霜を目指すことにしている。幼い子供連れにしか見えぬ二人は飯堂でイロイロと噂を収拾したりした。それは散々なものといえた。その殆んどが高麟の姿に関するもので、緋色の髪に翠の瞳の少女などこの国の台輔として認めたくないというものだった。高麟は他の麒麟がするように頭に被り物をして髪が見えないようにしていたのでどうにか騒ぎにならずに済んだ。しかし、自分の容姿でこれほどまでに批難を浴びているとは思ってもいなかった高麟にとっては衝撃だった。傲霜に向かう道々でもやはりあまり良い噂は拾えなかった。あの台輔では碌なことにならないという声も聞こえた。どうにか傲霜に辿り着いた時には高麟はすっかり憔悴しきっていた。翠篁宮に入っても気鬱は改善することはなかった。そのため、高麟は仁重殿に入ったものの、具体的な王探しなどできず、殆んど病みついてしまったかのようだった。高麟が伏してしまうと言う事態を重く見た冢宰の英巽は金波宮に使者を立て、至急楽俊に来てもらうように要請した。これに対し楽俊は『手続きの関係から年末まではそちらに向かえない』旨の返事しかしなかった。普通の使者では埒が明かぬと見た英巽は自らが騎獣に乗って金波宮を直接訪れることにした。期限までには確かに四月近くあるが、高麟の体調がすぐれない状況が続いたら困ったことになるだろう。もしこれが王選定前の失道などと言うことにでもなったなら、あるいは隣国の奏のようになってしまうかもしれない。そうなった時の慶の負担は相当なものになるやもしれぬ。そのことを考えた上での措置なのか、と英巽は慶の冢宰・夕暉に迫った。夕暉としては楽俊を送り出してあげようという気持ちで一杯なのだが、肝心の楽俊がその気になっていないのだ。景王も建前では楽俊を送り出すような口ぶりだが、本音ではどうやら手放したくないと思っている節もある。夕暉は英巽を客殿に案内させた上で最初に景王のもとに行き、英巽の言葉を伝えて説得に当たった。表向きは楽俊の説得をする旨を伝えるだけだが、実質的には景王自身に楽俊を手放す決心をしてもらうことであったのだ。景王は夕暉との会談の間中伏し目がちであり、時折小さく溜め息をもらしていたようだが、最終的には折れた。その夜、蘭邸では景王と夕暉が楽俊を説得する姿が見られた。

「…ということなのですが、とりあえず翠篁宮へ行って頂けませんか?」
「……」
「楽俊。万が一高麟が登霞したらどうするのだ?もちろん楽俊が行ったからと言ってどうにかなるわけではないだろう。しかし、英巽は藁をも掴む思いで金波宮に来ているのだ。楽俊が行ってダメなら諦めもつくだろう」
「…ダメでもともと、でよろしいのですね?」
「当たり前だ。王になど簡単になれるはずもない。…と、私が言っても説得力ないか」
「…いえ、そんなことはありません。もし私がなるのなら叔父が王に選ばれた時にそうなった気がします。もちろんその当時はそんなことなど考えてもいませんでしたが、今考えるなら、そういうこともありえますね。第一半獣が嫌われる国で半獣の私が王になることなどありえませんよね。だったらわざわざ行く必要もないはずです」
「それはそうだ。楽俊が王になるはずがないと誰もが思っているだろう。ただの気休めなのさ。高麟のご機嫌伺いだけしてくればいいのだ。それで英巽の気持ちも晴れるだろう。あとは知ったことじゃない」
「わかりました。高台輔のご機嫌伺いに行って参ります。太師の件については正式にお断りしてこようと思います。よろしいでしょうか?」
「いいんじゃないか?新王が決まった後改めて、ということで反故にしても問題ないだろう」
「では、明日にでも行って参ります」

翌日楽俊は英巽とともに翠篁宮へと向かった。その途中、楽俊はムッツリとして一言も口を開かなかった。これはある予感とともに緊張をしていたからでもあった。もはや逃げられないという予感が楽俊にはあったのだ。仁重殿に向かうと牀榻に伏せて動けないはずの高麟が阿昭に付き添われて玄関まで迎えに出てきていた。

「台輔、今日はお加減がよろしいのですか?何かあったのですか?」
「私のお仕えする人の気配がドンドン近づいてくるのがわかったのです。とても臥せってなどいられなくなりました」

英巽の心配そうな言葉に満面の笑みで高麟は応えた。まだ六歳くらいの子供にしか見えぬ小さな身体が英巽の隣に立つものへと向く。緋色の髪と翠の瞳だけでなく、その容貌もどこかしら景王に似たものである高麟に見つめられ、楽俊は硬直した。高麟は阿昭に一つ頷くと楽俊の前で跪いた。

「天命をもって主上にお迎えする。御前を離れず、詔命に背かず、忠誠を誓うと誓約申し上げる」
「…赦す」

楽俊は思わず応えていた。ここに赤麒麟の主・高王が決まったのだった。





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最終更新日  2005年12月09日 12時37分07秒
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