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2006年01月14日
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「若葉茂れる(その1)」

巧の眞緯四十五年の春、紫楽飯店でともに働いた少姐、秀絡、昭姐の三人が任官した。少姐は二十六歳、秀絡は二十五歳、昭姐は二十二歳である。かつて秀絡の兄・大河は秀絡が二十歳になったらと言っていたように、少姐が二十一歳の時に三人一緒に大学を受験した。三人とも少学には通わず、紫楽飯店で働きながらその合間に学んでいただけなのに、その年の上位を占めた。大学のある傲霜では来楽飯店に厄介になることにした。来楽飯店では大学の講義のない朝晩や春と秋の休みに働き、三度の食事と寝床を提供してもらい、三人分の奨学金で書籍を買っては廻し読みをした。こうして五年かけて揃って卒業、任官したのだが、秀絡と昭姐は巧で学んだ恩返しに、と奏に戻らなかった。大学は冬土用前に終わり、春分の任官までほぼ二ヶ月の休みとなる。三人とも十数年間まとまった休みなど取らずに働き、その合間を縫って学んでたので、里帰りもしていない。紫楽飯店にもお礼の挨拶をしに行たい。そこで阿岸への途中にある少姐の家へ行き、その後阿岸、交州へ行くことにした。少姐は筆まめではなく、年に二回も近況報告の書簡を出せばいいほうで、忙しさのあまり数年忘れていたこともある。それでも大学を状元で卒業して任官する知らせは既に届いていたのか、少姐が帰ると里は大騒ぎであった。春の耕作の時期で皆は廬に戻ったと思っていたので少姐は面食らった。少姐は末娘でかまわれた経験もなく、両親や給田を貰って別の里に移った兄たちが揃って出迎えただけで吃驚なのだ。里家で一泊のつもりが、棒眼や探花の二人も一緒だということで騒ぎが大きくなり、五日ほど留まることになってしまった。五日で済んだのは農作業の関係で、もしも農閑期ならばずっと騒ぎ続けただろう。それくらい里の者たちにとっては誇らしいことなのだ。漸く歓待攻めから解放された三人が阿岸の紫楽飯店にたどり着くと、一転して派手な出迎えもなく、ホッとしたものだ。とは言え、舎館の仕事が一段落した後にはささやかな祝宴も開かれた。『住み込み』のものにとっては身近な成功例でもある。少学や大学に進むことすら夢のように感じられる彼らにとって、最上位で大学を出た三人はとてつもなく励みになる。三人を見つめる視線には憧憬も羨望も嫉妬もある。それがわかるだけに三人とも気疲れもした。翌日三人は蒼月の書斎に呼ばれた。三人が入っていくと書卓の向こう側に蒼月が座り、その傍らに紅蘭が立つ。そして…

「あ、楽紫さん。お久しぶりです。家公に御用でしたら私たちは…」
「いや、今日は君たちがこっちに来てると言うのでね。傲霜では行き違いになったから」
「え?」
「大学を卒業したそうだね。しかも、状元、棒眼、探花だって?おめでとう」
「あ、ありがとうございます」
「立ち話もなんだから、座りなさい」
「はい」

蒼月に促され、三人は榻に並んで腰掛ける。楽紫こと楽俊は傲霜の来楽飯店にもしばしば顔を出していたが、そちらでも楽紫で通しており、高王であることは明かしていない。春分になればわかることなので、楽紫として会うのはこれが最後であろう。

「ここの出身者が良い成績を修めたから、ここも評判になるのだろうな」
「さて?来楽飯店のお手柄では?」
「少学に通わずに大学に合格したのだから胸を張っても良いと思うが?」
「働きながら学べるので、子育てに苦しんでいる家から来るものも増えましたね。規模が大きくできないので困っています」
「青海経由の通商規模が大きくならないと舎館も潤わないからな。ここが手一杯で傲霜に廻ってきてるそうだ」
「そのうち晴耕雨読の私塾もできるのではないですか?州師の屯田みたいに自分の食い扶持は自分で作るような」
「こういう舎館でいろいろな人と接する機会があるのが良いと思ってはいるんだが… 規模的にはなぁ…」
「この三人の宿題にしますか?」
「え?」
「働きながら学ぶというのはそれなりに大変だろうが、働くだけ、学ぶだけよりもどうしても手間がかかるし、成果も小さくなる。紫楽飯店も来楽飯店もケッコウ融通を利かせていて恵まれているはずだ。働くだけで精一杯のうちは仕方がないが、少し余裕ができてきたならば、働きながら学ぶ後輩たちのために何がしかのことをして欲しい。個人的にでも、府第でそういう仕事をするのでも構わない。どうかな?」
「実はここだけの話だが、この楽紫さんからケッコウ多額の融資を受けていてね、それでどうにかなっているんだよ。君たちの読んだ書籍などの購入費用とかね。『通い』の連中の月謝だけでは大赤字でね。『住み込み』の賃金も安いだろう?」
「まぁ、道楽の延長だけどね」
「…そんなに苦しいんですか?」
「苦しい時は楽紫さんにお願いするけど、楽紫さんが潰れたら共倒れかな?」
「打ち出の小槌があるわけじゃないけど、最近は持ち出しが減ってきてるかな?」
「あの、楽紫さんは国衙に関わりがあるのですか?初めてお会いした時からお年を召していないので、仙ではないかと…」
「ああ、それは何ればれるとは思っていたけど… まぁ、関係はしてるよ。だからと言ってお金が自由になるわけじゃない。だからそれなりの成果が眼に見えてないと拙いんだよ。君たちのお蔭でとりあえずの成果が出たと威張れるけどね。今後も成果が出続けてくれないと困るわけだ。だから知恵を出して欲しいんだよね」
「となると、春官府に任官すると言うことですか?」
「いやいや、それぞれの場所に応じたやり方があるだろうってことだよ」
「それぞれの場所に応じたやり方ですか?」
「君たちがキッチリ仕事をして巧が潤えば、そうでない時よりもお金が廻って来易くなるだろう?国が潤えば『住み込み』よりも『通い』が増える。通商が盛んになれば舎館も潤う。ものごとが上手く廻りだすとそれだけで良い影響が出るだろう?そういうことだ」
「巧の民が潤うようなことを行うということですか?」
「おおよそはそういうことになる。まぁ、巧だけでなく、他の国も潤えば通商も拡大するだろうし、そういうことも考えないとな」
「そういえば、秀絡君や昭姐さんは奏の生まれだよね。奏の王様が決まっていないけど君たちは昇山しないのかな?」
「昇山ですか?考えたことがないので…」
「私もそうですね。とりあえず目の前の目標だった大学卒業を果たし、次は官として一人前になることだと思っていましたので」
「そうなんだ。いやね、隣の慶もそうだけど、恭、芳、漣などは二十歳前に王様になっているし、駿王も昭姐と同じ年くらいじゃないかな?学校にも碌に行っていないで王様になっている人も少なくないからね。だからどうかなって思ったんだけどね」
「長年仮朝の長をなさっていた郭真様でも台輔に王として認めてもらえなかったと聴いています。そうなると私如きでは…」
「それはどうかな?王としての資質と冢宰の資質は違うんじゃないかな?そうは思わないかな?」
「…それはあるかもしれません。が、それがどこにあるかとなると私には…」
「秀絡君はどう思う?」
「最終的に責任を負う覚悟のありようではないかと思います。冢宰はいくら失敗しても罷免以上のことは通常はありませんが、王になると失敗が台輔の失道を呼び、自らの死に直結しています。やり直しが出来ない、という自覚のありなしかもしれません。数年前に采王君が果断な措置をなされましたが、あのような決断ができるか否かも関係するのではないかと思います」
「ほぉ… では秀絡君は采王君のような措置はできるのかな?」
「難しいと思います。同じような例であっても正しいかどうかの判断は容易ではありません。それに長期的にどうかということもあります」
「長期的に?それはどういうことかな?」
「才については危ういという噂が流れています。それが先年の措置に関係するとなると…」
「ああ、傲霜ではそういう噂が聞かれるね。では、秀絡君ならどのように裁くのかな?」
「首謀者など数名は見せしめの意味もあり、止むを得ないと思いますが、残りは杖刑か追放に留めても良かったかと思います。が、百年ぶりの昇山に対しての狼藉ですし、決定までの時がないことも考えますと主だったものを抜き出すのも容易ではないでしょう。私があのような決断を迫られたなら、采王君と同じことをすると思います。そして罰が重すぎたのではないかと悩むのでしょうね」
「そうだな。時間があれば減刑もありえただろう。詳細に捜査して適切に処断できたに違いない。けれども時間がなかった。襲撃を受けた昇山の人たちが無事に蓬山にたどり着くためにも多くの血を流さねばならないと考えざるを得ないだろう。いざとなれば周辺から家畜などを買い集めてこれを屠ることもあったかもしれないが、これはあくまで結果論に過ぎない。王様であるなら昇山者を襲うなどという暴挙は赦せないという、断固とした態度を示さねばならない。苦渋の決断になるな。才は奏との争いで王を失っているし、その確執も考えると奏の民を襲う気持ちもわからぬでもないからな」
「楽紫さんだったならどうしますか?」
「さぁどうだろう?実際にそういう立場に立たされてみないとわからないな。というか、そんな立場には立ちたくない」
「ならば、私や昭姐が昇山しないのも一理あるのではないでしょうか?王様になるのは怖いです」
「そういわれればそうだな。王様になればあのような立場にも立たされる。しかも失敗は赦されないというのは確かに怖いな。官のほうがまだ失敗が赦されるだけでもマシだな」
「でもそれでは王様になる人がいなくなるのではなくて?誰かが王様にならなくてはならないのなら、その怖さを知っている人が良いと思うけど?」
「紅蘭の言うこともわからぬでもない。でもまぁ、良い官吏になり、巧のために尽くしてくれるのなら良いのではないか?」
「蒼月らしいというか、らしからぬというか、王様よりも官吏の方が大事か?」
「楽紫さん、奏には荒民も含めればまだ百万以上もの正丁がいます。そのうち王様になるのはたった一人です。その一人が秀絡や昭姐であるとは限らないでしょう?むしろそうならないほうが普通だと思いますが?」
「とは言え、これだけ出来がいいと思わず期待してしまわないか?」
「そりゃあ、ありますよ。でも、奏よりも巧で活躍して欲しいと思うだけです。近くで見れますし、文句も言いやすい」
「私もそれはありますわ。でも、王様を育てたってのも良いと思いません?」
「それはそうだけど、自分たちよりも長く頑張ってくれるならね」
「ああ、それもそうね…」
「蒼月、紅蘭、それこそ杞憂ではないか?十年ももたない王もいれば何百年という治世を誇る王もいるが、即位前からわかるはずもない。やってみて初めてわかるのではないか?やる前から心配しても仕方がないぞ。第一なるとも決まっていないのだから」
「それもそうでしたね。ついついそんな気になってしまいましたが、先走りすぎでしたね」
「とんだ話になってしまったな。…ところで、来楽飯店からは暇を貰ったそうだが、春分まではどうするのかな?」
「久々に邦に帰るつもりです。少姐にも遊びに来てもらおうかと思っています」
「少姐さんは里に帰らないのかな?」
「いえ、ここに来る前に寄って来ましたので。他の国には行ったことがないので良い経験になるんじゃないかと思っています」
「そうか、では楽しんできなさい」
「はい」

少姐たちが下がってから、楽俊たちは顔を見合わせた。

「昇山する気がないというのは本気なのかな?大河も昇山しないと言っていたが、あれは目的が違うからみたいだが…」
「秀絡は采王の話などからすると器だと感じたのですが」
「表向きは昭姐が支え、街中のことは櫨家飯店の一党が支えるか… 周到な準備だな」
「毎年千人近く昇山して決まらないとなると、そういう風に見えてきますね」
「しかし、昇山しないと言い切るとなると… 時期尚早なのか?」
「楽俊さんのように実績を積む気なんですかね?ちょっと読めませんね」
「速く王が決まって欲しいのだが…」

三人は首を捻ったが、これという答も見出せなかった。





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最終更新日  2006年01月14日 13時08分50秒
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