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 NOB1960@ Re[1]:無理矢理持ち上げた結果が…(^^ゞ(10/11) Dr. Sさんへ どもども(^^ゞ パフォーマン…

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2006年01月22日
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「小さな嵐(その3)」

港街での殺傷事件について大司冦から報告を受けた采王・天海はしばし熟考した後、遣士の琉毅を呼び寄せた。琉毅は謁見の順番待ちをしていたようで、すぐに現れた。

「琉毅、港街での殺傷事件について聞いているか?」
「はい。補佐の眞凌を様子見にやっていましたので」
「その眞凌は?」
「夕べ戻ってきてすぐに奏の交州に向かわせました。事件に関るものが乗った船が今頃着いているでしょう」
「では、やはりおかしいと思ったのか?」
「はい。眞凌も事件を見たわけではないようですが、奏の民は三人が死に四人が重傷なのに才の民は軽傷が一人だけ。しかもそれは最初に斬りつけられたものだという。奏の民は逆に軽傷だったものがいない。これはおかしなものです。余程の戦力差がない限りこのような結果にはなりません。その辺りについて、交州からの帰りに調べてくるよう命じました。このことについては何かお聞きでしょうか?」
「…いや、具体的なことは報告を受けていない。喧嘩の最中に背中を冬器で斬りつけられたので応戦した、と言ってるらしい。冬器と言ってもイロイロあるが… 長刀同士で斬り合えば一方が全滅で他方が無傷というのはありえないな。実力差があるのならば適当にあしらうこともできたはずで、三人も殺すことはない。確かにおかしい… が、大司冦からの報告ではそのようなことには触れていない」
「眞凌は明日には戻ってきますのでその際に」
「すまんな。よろしく頼む」

天海は琉毅との会見の後、再び大司冦を呼び出し、琉毅から指摘されたことについてどうなっているか問い質したが、大司冦もこの点については報告を受けていなかったので、再調査するよう命じた。翌日、琉毅は眞凌とともにやってきた。眞凌も既に報告を受けているらしい琉毅も表情が硬い。余程のことであろうと采王は眉を顰める。はたして…

「…いかがであった?」
「はい、奏の交州に着いた船からは五人が遺体で降ろされ、更に一人が午までに亡くなりました。死者は合計六人です。重傷者の一人は命を取り留めましたが、この者と船で亡くなった二人は冬器を手にしていなかったそうです。また、残りの四人が手にしていた冬器も懐刀だったそうで、才の民の持つ長刀にはなすすべがなかったそうです」
「な、何?無手のものを含めて斬り捨てたというのか?」
「はい。彼らは昇山で疲弊していた上、武術もあまり嗜んではいなかったそうです。才の民のほうは兵だったらしく、奏の民が敵うはずもなく、それこそあっという間のできごとだったようです」
「兵だと?そんなことは聞いていない」
「私もどうも話が食い違うので、他のものたちからも話を聞いた後、交州から現場に回り、事件を見ていたものを探しました。最初から見ていたものはそう多くはありませんでしたが、何人かから詳しく聞きだすことができました。それによると、発端は五人組の才の民、これはどうやら取締りの州兵のなりをしていたようですが、実は州師を首になった匪賊で、奏の民たちは州師だと思いこんでいたようです。この五人組が奏の民のことを言葉の限りに嘲り、挑発したようです。これに七人組の奏の民の一人が食って掛かり、言い合いになったのですが、奏の民がカーッとなったのか手を出してしまったそうです。まぁ、非力な漢だったのだと思いますが、殴られた才の民が、『何だ殴ったのか?虫に刺されたのかと思った』と更に挑発し、何発か殴ったところでおもむろに五人組が袋叩きにし、ぐったりしたところを府第に引っ立てようとしたらしいのです。もちろんこれは振りだったのですが、奏の民にわかるはずもなく、これを辞めさせようとしたのを邪険に振り払ったそうです。払いのけられて地面に倒れたものがカッとしたのか、冬器の懐刀を握り締めたのですが、なれていないのか震えていたそうです。それを見た才の民は『何だ震えているじゃないか。奏の奴は腰抜けだな』と笑い飛ばしたそうです。これで頭に血が上ってしまったのか、奏の民は懐刀を引き抜き、斬りかかろうとしたのですが、この時に才の民がくるりと後ろを向いてしまったそうです。奏の民は慌てて辞めようとしましたが、勢いがついて止まらず、才の民の背中を懐刀が撫で、血が少し滲んだそうです。と、その才の民は抜く手も見せずに振り向きざまに奏の民を切り捨てて、『皆も見たように背中から斬り付けられたので斬り捨てた。悪いのはこいつだ』と斬り捨てられた漢の頭を蹴り飛ばしたそうです。これで残りの奏の民も黙っていられなくなったのか、捕えられているものを取り返そうとしたのか、ワッと襲い掛かり、返り討ちにあったそうです。誰も止めに入る間もなかったそうです。ことが終わって、斃れている奏の民が無手か懐刀しか手にしていないのを見て、長刀を二振りほど死体の傍らに投げ捨てたそうです。才の民たちが立ち去った後、駆けつけた知り合いの腕の中で『才の州師にやられた』と言い残して息絶えたものがいたので、奏の民たちは才の官吏に一切の証言もせずに立ち去ったようです。才の官吏たちは見ていたものたちの話から立ち去った才の民を割り出し、彼らを拘束しましたが、彼らも傍の者も『奏の民が先に斬りつけたので斬り捨てた』と証言したので、対応に苦慮したようです」
「…今の話は真か?」
「はい。『奏の民が先に斬りつけたので斬り捨てた』こと自体は嘘ではありませんが、その中身はかなり違います。官吏にこれで間違いかと訊かれれば、傍で見ていたものも間違いないと応えるでしょう。それに何人かは匪賊のことを州師だと思い込んでました。だから余計なことなど言わないほうがいいだろうと気を回したものもいたようです。が、その後匪賊だとわかったからか、私が単なる噂好きにしか見えなかったのか、かなり正直に話してもらえました」
「…そうか」

采王は眉を顰め、傍らに控える冢宰や大司冦の顔をちらりと見る。大司冦の顔は蒼白になっていた。無理もない。事実とは正反対の報告をし、殺人者の無罪放免の裁可を得ようとしていたからだ。が、大司冦の得た情報だけでは止むを得まい。采王は静かに大司冦に命じた。

「今聞いたことの裏をとり、糾明せよ。もしも間違いがないのなら厳しく処断せよ。良いな」
「御意」

大司冦は慌てて采王の前から飛び出していった。十年前のことを思い出し、自ら現地へと飛んでいったのだろう。采王は一つ首を振ると、琉毅に向き直った。

「琉毅、一つ頼まれてくれるか?」
「私にできることなら」
「此度のことは非常に遺憾なできごとだった。とは言え、これは喧嘩騒ぎに過ぎぬ。当事者を処断すれば終わりだ。被害に遭ったものが裁可を待たずに国外に逃れたのは州兵に害されたと思えば当然ではあるが、法を犯したことには違いない。法を犯したものを王が見逃すことはできぬ。が、此度の非はやはり才にあるのだろう。誤解が根にあったのも事実だ。これらを相殺ということでは奏も納得が行かぬであろうが、才にも体面がある。表だって奏に謝罪するのも難しい。そこで、奏の遣士を通じ、厳しい処断をする旨伝えてもらえぬだろうか?他に何かあるようなら聞いてきてもらえぬか?」
「はい」
「このような遣いを頼むのは筋違いなのは承知している。が、とりあえずは内々にことを進めたい。正式な使者は後日送る」
「わかりました。…で、台輔の御加減は?」
「…あまりすぐれないようだ。此度のことが堪えているのやもしれぬ。十年前のように厳しい処断で持ち直してくれれば良いが…」
「…一日も早いご快癒をお祈りしています」
「ああ、ありがとう」

琉毅と眞凌が下がり、采王と冢宰がその場に残った。采王は一気に十も老けてしまったように見えた。冢宰は緊張していた。台輔が病に伏したが、これが失道であった場合、この国は一体どうなってしまうのか?自分はその時どうするのか?隣国の冢宰・郭真のように仮朝の長を務めなければならなくなるのか?そうなった時に民はどうなるのだろう?そんなことが冢宰の頭を駆け巡った。そんなことを采王が気がつくわけがない。しかし…

「冢宰。私にはどれくらい時間が残っているのだろうか?」
「しゅ、主上、何を仰います」
「冢宰、お主もふと考えたのではないか?台輔が失道し、登霞したら、間も無く私もこの世を去るだろう。そうなった時に残されたお主は仮朝の長としてこの国を纏めていかねばならない。が、それは容易いことではないだろう。私の斃れ方にもよるが、おそらくは奏との関係は今以上に悪くなるだろう。民の奏への憎しみも増すだろう。やがて奏に新しい王が生まれたとき、民はどんな想いに駆られるか… その時まで私がいれば良いが、そうでなければ、お主がすべてをなさなければならなくなる。台輔という枷がない分、多少は気が楽かもしれないが、芳や奏の例もある。百年を超えるような苦しみを民に課すほど酷い政務をした憶えはないが…」
「主上、お戯れだと思いますが、そのようなことは口にお出しにならないようお願いいたします」
「今は私とお主しかいない。戯れで言うべきことでもない。何れは覚悟しなければならぬことだ。それが何時かはわからぬが」
「私が勤め上げた後にしていただきたいものですね」
「ああ、そうなると良いな。そうなるよう努力しよう」

采王がやや気の無いように呟くのを冢宰は耳にしながら頭を下げ、退出した。采王は冢宰のほうを見てはいなかった。

  *  *  *  *

その日の深夜、琉毅は隆洽の舎館に姿を現した。各国を飛び回る通士は深夜にたどり着くことも多く、厩からは自由に出入りができる。家公の居室を訪ねると趙駱と啓鷹がまだ起きていた。趙駱は琉毅の顔を見るとニヤリとした。琉毅のほうは軽く肩を竦めた。

「この時間まで打ち合わせですか?」
「いや、琉毅か眞凌が来るかもしれないと思って待っていた。昨日、交州で啓鷹が眞凌に会っていたからね。で、何か新しい情報とかあるのかな?」
「眞凌は交州から現場に向かって事件の全容を確認して帰ってきました。奏の民は完全に嵌められたようでした。州師の振りをしてたとか、斬りかかられた時に背中を見せたとか、予め示し合わせていたみたいでした。奏の民に手を出させるように仕組んで、言葉の上では全く非が無いように振舞っていたということでした。采王は大司冦に再調査を命じ、おそらくは厳罰が下されるでしょう。で、問題なのは奏との関係改善ってことですね」
「そのために琉毅が隆洽にやってきたと言うことか?」
「はい。安全確保のためとは言え裁可が下る前に奏の関係者が逃げ出したのは拙かったですね。州兵に襲われたと思っていたので、止むを得ないとは思いますが、形式上は法を犯しており、他方の当事者に有利に働いてしまいます。それに喧嘩の上での人死にですから表立っては采王から謝罪を出しにくいということもあります。そこで厳罰に処すこと以外で奏のほうからの要求がないかちょっとお伺いにあがったんですが…」
「そういうことならば奏からの要求というのは当面はないと思うが… 昇山者たちの安全確保は求めるだろうな」
「それは当然予期してると思いますが、それに対しては確約が難しいかもしれません」
「…才の民の心情か?」
「ええ、それに台輔のお加減もあまりよろしくないようで…」
「もし采王が斃れるとなったら奏も厳しいな… その辺りは明日にでも郭真さんと面談することになるだろうな」
「そうですね。メンツの問題も含めて一筋縄ではいかないかもしれませんね」

趙駱も琉毅も苦虫を噛み潰したような表情をしている。そして打開策について夜明けまで検討が続けられた。





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最終更新日  2006年01月22日 11時34分19秒
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