|
全て
| カテゴリ未分類
| 読書案内(?)
| トピックス(国内関係)
| トピックス(国際関係)
| 日常・その他
| 想像の小箱(「十二」?)
| 創作的雑文(「風」?)
| 写真付き
| その他の創作(?)
| 中華風創作(「恩讐」?)
カテゴリ:想像の小箱(「十二」?)
「奏の再興(その5)」
交州から隆洽までは騎獣なら半日かからない。午前に交州を発った一行は夕刻前に隆洽に入った。落ち着き先は啓鷹が家公代理をしている舎館である。厩からすぐに家公の居室に向かった三人はそこで一人の漢にあった。その漢は少々驚いたようだった。 「これはこれはおいでいただきまして恐縮です。私は奏の遣士を勤める趙駱です。…啓鷹、今日は交州に泊まるんじゃなかったのか?」 「ちょっと事情がありまして…」 「そうか?あ、茶を淹れさせましょう」 趙駱がそういって書卓の上にある鈴を鳴らすと、家生の一人が居室にやってきて茶を持ってくるように命じられた。この家生は一旦退出した後すぐに茶器をもって戻り、四人分の茶を淹れて下がった。その茶を趙駱が勧める。 「今朝交州について隆洽までおいでとは強行軍で喉も渇いていましょう。さあ、どうぞ」 「ありがとうございます」 「さて、啓鷹。事情を説明してくれるかな?」 「予定では櫨家飯店で一泊するつもりでしたが、家公の祖母の不幸に居合わせまして。早々にこちらへ」 「家公の祖母と言うと… 最後の一人か?」 「はい、仲嬢さんとか。家公も不惑ですから相当な高齢だったのでは?」 「多分八十は越えていただろう。…居合わせたというのは?」 「どうもこちらの方々にお話があったようで… 詳しくは後ほどのほうが?」 「そうだな… 何度も繰り返すのもな… その方がいいだろう」 趙駱がそういうと啓鷹ものんびり茶を飲むことにしたようだった。茶を飲みながらそのやり取りを聞いていた阿薫は小首をかしげた。啓鷹は趙駱の補佐のはずである。ならばすぐに報告すべきではないのか?なのに趙駱のほうがそれを止めている… しばらくまったりとしていると先ほどの家生が戻ってきて趙駱に何事か耳打ちし、趙駱は頷くと家生は出て行き、客を連れてきた。その客は居室に入ったところで宗麒に拱手した。 「お久しぶりでございます。微行とお見受けしますのでこのような形で失礼いたします」 「あなたは冢宰殿?身体のほうはもうよろしいのか?」 「はい、郭真でございます。お蔭様で怪我のほうは快癒いたしました」 「しかし、なぜここに?」 「先ほど呼びにやりました。明日来られると思ったのでいささか慌てました」 「では、先ほどの家生が?」 「ええ、この居室に入るものは限られていますので。すぐに察して郭真さんに連絡を。…では、これでいいかな?」 「え?」 趙駱の言葉についていけなかった阿薫が驚きの声を上げたが、それに構わず啓鷹が話し始めた。 「では、報告いたします。今朝ほど恭より交州につき、櫨家飯店を訪ねたところ、家公・大河の祖母に当たる仲嬢に引き合わされました。おそらくは台輔に伝えたいことがあり、私は員数外だったようですが、このように郭真さんなどに伝える役目として同席させてもらったようです。仲嬢は高齢で、寿命がつきかけていましたが、台輔に櫨家飯店の経緯について説明しました。趙某についても触れていましたが、詳しくはわからないようなことを申していました。その趙某は奏のためになるものを育成するために孤児を集め育てたとのことです。その第一世代が仲嬢たち七人であり、第二世代が家公・大河の両親たちであり、第三世代が大河であると言っておりました。この大河が生まれる前後に趙某は行方不明になっており、仲嬢らは大河が趙某の生まれ変わりではないかと思ったそうです。で、大河は櫨家飯店の最高傑作に育てられ、家公になったのですが、これは奏を支える影の頂点としてであり、光、玉としては育てていないとか。この辺りは秘術だと嘯いておりましたが、実際台輔がご覧になっても王気は感じられなかったようです。一方玉の候補として育てているものもあり、こちらは『余所に預けている』と申してました。具体的な名前や人数は口にしていませんが、おそらくは大河の弟妹か子供と思われます。すなわち、大河の弟妹で巧に任官している秀絡と昭媛、大河の子で紫楽飯店にいる少姐、同じく春華亭にいる英輝と彩夏の五人と思われます」 「何れも巧にいるというわけか?」 「いえ、この春まで秀絡は雁、昭媛は慶に派遣されており、春分に帰国予定だと聞いていますが…」 「昭媛は傲霜に戻ったが、秀絡はまだ関弓にいるようだ」 「…それは此度のことと関係が?」 「おそらくは楽俊さんが考えたんだと思います。秀絡を本命だと読んでいるんでしょう」 「え?」 「昭媛がいるところで秀絡が王に選ばれたら昭媛も隆洽に戻るでしょうからね。逆もそうでしょうが」 「いえ、むしろ少麓でしょう。三人揃って巧を離れることもありえますね」 「単純に玄英宮について学ばせているのではないのかな?」 「う~~ん、楽俊さんだとそれもありえますね。おおらかというか、セコイことは考えないというか」 「趙駱さん、自分のことセコイって?」 「啓鷹、お前だって同様だろうが」 「でも、その五人の中に確実に王がいるんでしょうか?」 「その確証はありません。この中に王がいるかどうかはわからないと言っていました」 「となるとどういうことになるのかな?」 「どういう順番で確認するかってことですね。この五人を先にするか、奏の国内を先にするかですね。一万人以上が昇山してますが、国内には百万人、荒民として雁に七八十万人に巧に三十万人、その他諸々で十万人弱かな?それだけのものが昇山していない。二百万人以上の中からたった一人の王様を見つけるんですよ。可能性の高そうなのから見ていきますか?」 と、趙駱、啓鷹、郭真の三人から見詰められた宗麒は話の速さに面食らってキョトンとしている。阿薫も宗麒よりはマシだとは言え、こちらも完全には話についていけていない。不安そうに宗麒に見詰められて、阿薫はどうにかしなきゃと思いつつ、考えがまとまらない。啓鷹が助け舟を出した。 「これまでも多くの昇山者を次から次へと謁見して台輔もお疲れのようです。一度に多くの人を見るのはどうかと思います。五人の候補のいる巧も雁も荒民が大量に流れ込んでいる国ですが、先に五人と会って確認し、違うようならば雁の荒民から探し、続いて慶、巧と見て、奏に戻って国内を巡るというのではどうでしょうか?」 「…相当にお疲れなのか?」 「恭からの船で船酔いなさるくらいですから。それに才のこともありますので。少しでも負担が軽くなるほうが」 「…恭で何かあったのか?」 「供王君が軽く厭味などを。いつものことですが、初めての方には堪えるのでは?」 「ああ、本気で怒ったら手がつけられないと聞いているが… 軽くだったのか?」 「阿薫さんが真摯にお答えになったらあっさり引き下がりましたので。普通はあれからが大変だと伺っておりましたのでホッとしました。何せその話をしないよう諌めた台輔を殴り倒していましたからね。あるいはそれでスッとなされたのかもしれませんね」 「供王君が台輔を殴ったりなさるのですか?」 「ええ、ケッコウ有名なことのようです。そのような王は供王君しかおられませんが」 「そういえば昇山の折にも台輔を叩いたと聞きましたが、言葉の上のことだと思っていました。そういう王もいらっしゃるのですね」 「このようなことは普通は王宮の外には洩れてきませんが、我々が親しくしていただくうちに余所向きでない姿を見せてくださるようになるのです。無論、我々も相応しい人以外には洩らしませんが」 「…私たちともそのような付き合いがしたいということですね?」 「はい。他人行儀でないお付き合いをさせていただければと思っています。啓鷹を恭に派遣したのも私たちを知っていただこうと思ったからです。まぁ、新しい宗王君とお近づきになりたいというのもありますね」 「…で、何をお望みですの?」 「奏がかつてのように復興することですね。それによって慶も恩恵にあずかれます。奏の復興で雁や巧なども余裕ができますからね。私たちは最終的には慶の民が幸せであるために働いていますが、そのためにも奏の民に幸せになっていただきたいのです。その鍵を握っているのは新たな宗王であり、宗王を選ぶ台輔ですからね。出来るだけのことをさせていただこうと思っています」 「そのことは以前にも啓鷹さんから伺っています。今国内にいる正丁よりも国外にいる荒民のほうが多いのだとか。このようなことを早急に解消するためにも宗王を見出さねばなりません。ならば効率よく対応すべきだと仰るのですね?」 「はい。櫨家飯店に関りのあるものがそうである可能性は高いと思います。家公である大河が違ったので、候補の筆頭は秀絡になるでしょう。しかし、秀絡は関弓にいます。秀絡が違った場合、次はその妹の昭媛で、こちらは傲霜にいますので、巧に戻ってくることになります。残りの大河の子ども三人も巧にいますので、この五人とも違った場合に荒民を見て廻ることになった場合、再び雁に行くことになります。巧は雁へ行く途中にありますので、先に巧にいる四人と謁見し、この中にいればそれでおしまいですし、いなければ雁に向かい秀絡を謁見する。秀絡も違ったら雁の荒民を見、慶、巧と南下して奏国内の民を見ていくのが移動距離も短くてすみますので、負担にならないのではと」 「巧ではどのように?」 「最初に高王君への挨拶がてら傲霜の昭媛を、と思っています。次に配浪にいる英輝と彩夏、そして阿岸にいる少姐と廻ります。阿岸を最後にしたのは雁への船がここから出ているからです。船旅ですが、台輔も体調さえ良ければ船酔いもなさらないかと」 「…公、いかがですか?」 「調子が悪かったのは最初の日だけだったし… どうかな?」 「雁の烏号までは一泊二日です。騎獣でも早朝に出れば夕刻にはつくでしょうが、丸一日騎乗なさるのはどうかと」 「距離的にはここから傲霜までと同じくらいですね。途中休む場所というと浮濠くらいしかありませんから、後半が大変でしょう」 「そうですか。では傲霜まで行く際に試してみるということですね。わかりました」 「明日一日休んでから傲霜に向かいますか?それとも明日向かいますか?」 「そうですね。今朝まで初めての船旅でしたので明日一日は休養に当て、明後日にも傲霜にと思います。公、よろしいですか?」 「そうだね。船で寝るというのは初めてで良く眠れなかった気もするし。明日は休ませて貰おう」 「では、部屋を用意してありますので案内させます」 再び趙駱が鈴を鳴らし、やってきた家生に宗麒と阿薫を房室に案内させる。居室に残った趙駱と郭真は啓鷹に顔を向ける。 「で、櫨家飯店の印象はどうだった?」 「仲嬢の死で打ち切られてしまいましたので詳しいことなどが聞けずじまいでなんともいえません。イロイロ裏がありそうですね」 「王を支えるための影、というのが引っかかるな。奏の為ならば手段を厭わぬ、という印象を受けたが?」 「私もそれは感じました。大河自身は数十名の民人ではできることに限りがあるので、大したことなど出来ないと言っていましたが、我々遣士も数十名に過ぎません。それを考えると理由になってないと思われます」 「まぁ、我々は情報収集が主で、民人を動かすようなことはしていないからな。とは言え、我々が十二国に分散しているのを考えると、これを奏一国、ないし隣国を含めた三国に集中したらかなりのことができそうだな。噂をばら撒いたり匪賊を煽動したり…」 「趙駱さん、才での騒ぎも櫨家飯店の仕業だと?」 「あくまで可能性の話で憶測の域を出ていないが、ありえそうな話だろう?最終目的のためには多少の犠牲も厭わないとしたら?」 「…あまり考えたくないことですね」 「もちろんそうであって欲しくないさ。まぁ、あの五人のうちの誰かが宗王になればその手足になるんだろうけど… 問題はその制御だな。郭真さん、新たな王が決まったら櫨家飯店の人脈を上手く統御しないと拙いようですね」 「…五人の中にいなかったときはどうなのか… ぞっとしませんか?」 「楽俊さんは秀絡か昭媛だと思っているようですが… 台輔次第ですね」 趙駱は軽く肩を竦めてみせた。郭真も苦笑するしかない。隆洽の夜は更けていった。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2006年01月28日 12時06分26秒
コメント(0) | コメントを書く
[想像の小箱(「十二」?)] カテゴリの最新記事
|
|