カテゴリ:カテゴリ未分類
僕が生まれて初めてキスをしたのはすごく寒い季節の公園で、
その公園は周りに高い木がいっぱい生えている神社の横の公園で、 夕方の5時になると、その季節では本当に真っ暗で、 辺りに人の姿はほとんど無くなるから、 誕生日を迎えたばかりの付き合いだして1ヶ月の年下の彼女に、 街の情報誌の配達のバイトで貯めたお金で買った、 小さなシルバーの星が付いたネックレスをあげて、 彼女に誕生日プレゼントを買ったのは初めてだったから、 それだけで十分かどうかよく分からなくてちょっと不安で、 少しだけ背伸びをしたかった僕はカッコイイと思ってた演出をしようと、 「もう一つプレゼントがあるんだ」って言って鞄を開ける振りをして、 「ちょっと目をつぶってて」って言って目をつぶらせて、 その隙に彼女の唇に自分の唇をす、っと近づけて、 それを僕の頭の中ではスマートに自然にやるつもりだったんだけど、 何せ初めてだから唇までの距離とか、 首の傾け方とか、 キスするときの自分の唇の形とか、 自分も目をつぶるんだろうかとか、 そんないろいろなことを考えてたから、 なんだか唇の端の方に少し触れるだけみたいなキスになって、 あー、かっこわりいな、俺。って思ってるときに、 ちょっとビックリした顔で彼女が目を開けて、 それから笑ったものだから僕はすごく恥ずかしくなって、 「何笑ってんだよ」って言ったら、 「唇が、がさがさ」って彼女が言って、 僕は冬になるとすごく唇ががさがさになってしまうから、 そしてその時はきっと緊張もしてたから余計にがさがさで、 「はい」って彼女がメンタームのリップクリームを出して、 でも僕はリップクリームを塗った後のベタベタする感じが嫌いで、 「いや、いいよ」って言ったけど、 彼女はリップの蓋を取って僕に押し付けてくるものだから、 僕は仕方なくリップクリームを塗って、 ああ気持ちわりいな、って、そう思ってたら、 彼女がリップクリームをしまってもう一回目をつぶったものだから、 今度はしっかりと、唇のまんなかにキスをした。 ファーストキスの味なんか無いって、そんなこと言うヤツはいるけれど。 僕の中では少しベタベタして、メンソールのスッとした味が、 間違いなく、そしてハッキリと残るファーストキスの味で。 今でも冬が来ると僕の唇はガサガサで、 でもリップクリームはベタベタして嫌いだから塗ることは無くて。 それでも、あのころよりずっと自然に、 それからうまくキスできるようになった。 だから僕にはもうリップクリームは必要無いんだってそう言い聞かせて、 ガサガサのタバコをくわえて火を点けて、ふう、って煙を吐き出した。 たぶん、リップクリームの味のする、スッとしたキスをすることはもう無い。 タバコのフィルターに切れた唇の血がついてた。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2006.01.27 00:40:05
|