のぽねこミステリ館

2007/09/25(火)06:54

辻村深月『冷たい校舎の時は止まる』(上・中・下)

本の感想(た行の作家)(215)

辻村深月『冷たい校舎の時は止まる』(上・中・下) ~講談社ノベルス、2004年~  第31回メフィスト賞受賞作です。ノベルス版では三巻に分かれていましたが、最近発売された文庫では、上下巻の二巻になったようですね。  今回は、いつものように内容紹介と感想を分けて書くのではなく、つらつらと書こうと思います。なんというか、ひどく混乱した文章にもなりますので、以下、文字色を変えておくことにします。 (反転)まず、この記事を書く上での前提というかなんというか…。  私は、辻村さんの、おそらく全ての作品を読んで、心が揺さぶられています。たとえば、加納朋子さんの作品も、優しい作風でありながら、現実のシビアな、醜い、悲しい面から目をそらすことはなく、心がちくりとすることは多々あります。 …が、私にとって辻村さんの作品は、もっと心の深いところをえぐってくるような感覚があります。おそらく、過去に自分が経験したことのある苦しい体験を直接的に思い出させられてしまう、それが理由なのだと思っているのですが。  そして言うまでもなく、ある本に対する感想(評価)というのは、読者がどういう心理的状況にあり、その本を読むまでにどういう体験をし、どういう価値観を作ってきたか、という部分に大きく左右される部分があると思います。私は本書を3年前、発売された当時に読んでいますが、その後の3年間の間の経験は、今回抱いた本書への感想に影響しています。どうしても苦手なテーマ(?)がその中でできてしまっていて。  …なんというか、動揺しているといえばよいでしょうか。もう既に動揺した文章を書いていますが、以下どうなりますやら…。  センター試験一ヶ月前、珍しく雪が積もりそうなその日、学校にとじこめられた8人の生徒たち。ほんの2ヶ月前、学園祭の最終日にクラスメートが自殺したというのに、彼らはその自殺した生徒の名前を思い出すことができなかった。彼らが閉じこめられた空間は、何者かの心の中の、虚構の世界。しかし、彼らを閉じこめた<ホスト>は、彼らに迫ります。思い出せ、と。  そして、一人一人、過去あるいは現在の過失、苦しみに直面しながら、その世界から消えていきます。大量の血を流す人形となって、おそらくは現実の世界に帰って行きます。  両親の離婚。家庭の不和。いじめ。友人の自殺。自分のふがいない性格。意図せずして他人を傷つけてしまったという自責の念。誰かを救うことができなかったという苦しみ。友人との不和。嘔吐。自傷行為……。  一人一人の経歴、家庭状況、性格などを丁寧に描きながら、そうした苦しみを辻村さんは描きます。あんまり生々しいのであれですが、作中の辻村深月さんが精神的にとてももろく、拒食にいたり、あるいは精神的な負担のために嘔吐を繰り返すあたり―特に嘔吐は私ももっている症状なので、自分の状況を考えずにいられません。自傷行為や、カウンセリング、いじめ、などなど、形はどうあれ、経験してきているので、どうしようもない気分にもなります。  それでいて、救いも描いてくれています。それが、彼らの担任、榊先生の存在ですね。いろんなことを考え、教職の道に進むことにはなりませんでしたが、それでも考えていた時期があるので、このように素敵な先生が描かれている物語には、こころを揺さぶられます。  ラストも、とても嬉しい気分になります。  本書が発売されたのは、2004年なのですね。私にとって、人生初の入院生活をしていたか、あるいは退院後の不安定な時期でしたので、当時よく読了できたものだと思います。もっとも、当時は、本書を読んで苦しみを味わいつつも、救いを求める部分も大きかったのかもしれません。(反転はここまでにしておきます)  正直、苦しみの伴う読書でした。…それでも、私は、この物語が好きです。私は、小説を読むことを、娯楽であると同時に(娯楽性の強いミステリが好きですから…)、なにかを考える機会としてとらえています。そういう意味で、本書ではとても考えられ、良い体験でした。  なにより、本作で、辻村さんは登場人物を丁寧に描いています。そのことが辻村さんファンになり、その後の作品を読んでいる大きな理由です。その後の作品も、苦しみなしに読めてはいないのですが、それでも好きな作家さんです。

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