のぽねこミステリ館

2007/11/18(日)10:54

浦賀和宏『眠りの牢獄』

本の感想(あ行の作家)(206)

浦賀和宏『眠りの牢獄』 ~講談社ノベルス、2001年~  安藤直樹シリーズが5作続き、6作目の本作は、ノン・シリーズとなっています。分量も170頁弱と、さくさく読めました。  まずは、簡単に内容紹介を。 ーーー  5年前。亜矢子の家に、僕―浦賀と、北澤、吉野の3人は遊びに行っていた。北澤と吉野が泥酔した後、僕は亜矢子に思いを告げ、そして…。翌朝、僕と亜矢子が地下室に降りていると、誰かに押されたのか、二人は転落。僕は一日で目を覚ましたが、亜矢子は長い昏睡状態に陥ってしまった。  そして。講談社ノベルスで作家デビューした僕に、北澤から連絡が入る。亜矢子の兄―北澤の叔父―が、亜矢子の荷物を整理するため、僕たちを呼んでいるという。  5年ぶりに訪れる亜矢子とその兄の家。事故の起こった地下室―シェルター―に、僕たち3人は閉じこめられてしまう。亜矢子を突き飛ばした人間が正直に名乗り出れば出してやる、というのだが…。    *  博にふられ、彼に恨みをつのらせていた冴子は、鶸千路沙羅子というメール友達に、ぐちを告げていた。すると、沙羅子も、過去にひどい経験をしているという。沙羅子の経験を聞いて憤慨する冴子に、沙羅子は、交換殺人をもちかける。  半信半疑だった冴子だが、沙羅子の決意が本気だと知る。博が、何者かに押されて怪我をした。その犯人が、沙羅子だというのだ。  冴子は、沙羅子の憎む男、新堂を殺す決意を固める。 ーーー  物語は、亜矢子にあてて浦賀さんが書いた、『かつていたところ』という小説です。それは、「僕」と「冴子」の二人の視点で語られていきます。  発売されてすぐの頃に読みましたが、これは衝撃的な作品でした。浦賀さんは、『電脳戯話』という、友達の少ない少年がコンピュータの中の少女と話をする作品を書き、これをもとにした作品でメフィスト賞を受賞し、デビューします。幻冬舎から、ハードカバーの作品を出す企画も進行中ですね(本書の出版から数ヶ月後に、幻冬舎から『彼女は存在しない』という長編が出されます)。  唐木さんの悲観的な言葉など、楽しく(笑える内容ではないですが…)読みました。  一度読んでいて、メイントリックを覚えていたのですが(これは忘れられないです)、そういう目で見ると伏線に満ちていてびっくりでした。  同時に、忘れていることも多々あって、新鮮な驚きも感じることができました。  安藤シリーズは、ミステリ的な要素はあっても、そこに重点が置かれていないように思うのですが、本作は、ミステリを読む、あのどきどきと真相が明かされたときの、「なるほど!」という感覚が気持ちよく体験できました。  ちょっと気になることがあり、ネタを割ることなしに書くことができないので、文字色を反転して書いておきます。 <反転>作中作『かつていたところ』は、浦賀さんが亜矢子さんのために書いた作品と思いながら読むわけですが、ラストでは、そうではないのかもしれない、これは全部浦賀さんの夢だったのかもしれない、とも思えます。看護師さんが亜矢子さんに伝える作品のタイトルが、『かつていたところ』なら、転落した浦賀さんのお見舞いに亜矢子さんがきた、ということになるでしょうし、『電脳戯話』なら、全てが浦賀さんの夢だった、ということになるでしょう。  ところで、11頁に『かつていたところ』の扉があり、それ以降は、左頁の頁番号のところに、「かつていたところ」と、作品タイトルも併記されます。157頁で『かつていたところ』はいったん終わるのですが、それ以降、亜矢子さんが目を覚ますシーン(本書冒頭と同じフォント)になっても、左頁の頁番号のところに「かつていたところ」と併記されているのです。編集上のミスでなければ、冒頭部分以外が『かつていたところ』ということになり、ちょっとおかしいことになるので、やはりこれはミスなのでしょうか…。  私は初版で持っているので、後の増刷なりで訂正されているのかどうか分からないのですが…。また書店で本書を見かけたときに、チェックしてみようと思います。  とまれ、作中作としても、浦賀さんの夢としても読むことのできるこの深みが、余韻を残します<ここまで>。

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