のぽねこミステリ館

2009/03/27(金)06:29

筒井康隆『私説博物誌』

本の感想(た行の作家)(215)

筒井康隆『私説博物誌』 ~新潮文庫、1980年~  博物誌風エッセイ集です。50の項目があり、動物、植物、鉱物が、架空の存在も含めて紹介されています。  まず、動物学者の日高敏隆さんの解説によれば、これらの動植物などに関する記述それ自体に誤りはないそうです。本書で取り上げられる動植物のなかで、興味をもったものについてはネットで調べながら読んだのですが、本書に書いてあることが書かれていて、勉強が深まるといった具合でした。  筒井さんのお父様は動物学者で、大阪・天王寺動物園の園長をされていた方だそうですが、そのお父様も本書の中で幾度も言及されるだけでなく、監修も手がけられているそうで、興味深かったです。  さて、本書の記述の特色は、動植物を取り上げながら、その関連で人間の在り方を描く、というところにあると思います。ときにはドタバタ作品風の記述もあったりですが、そのような「フィクション」と、取り上げる事項についての記述ははっきり区別できるので、誤解はまずないでしょう。  では、50項目全部取り上げるのは大変なので、興味深かったところを中心に書いていきます。 「ヤドリギ」で、寄生動物をいくつか紹介しているなかで、私たちにもなじみ深いものとしてヤドリガニが取り上げられています。あの、アサリを食べていると貝殻の中から出てくる小さなカニが、これだそうです。あれ、寄生していたんですね。貝が取り入れたプランクトンを食べているんだとか。勉強になります。  小説に登場する架空の植物、「トリフィド」。その植物の登場するジョン・ウィンダム『トリフィドの日』という作品が読んでみたくなりました。最近、筒井さんの作品を読むとどんどん読んでみたい作品が増えていきます。 「アホウドリ」では、それを絶滅寸前に追い込んだのがある個人だったということを知って、勉強になりました。羽毛は羽根布団に、肉は肥料にされたとのことですが、アホウドリは捕まえやすいことから、どんどん殺されたのですね。  またこの項目では、クジラの乱獲についても言及があります。クジラの数が減ったのは、日本が捕鯨に乗り出す以前、欧米諸国による乱獲が原因なのに、こんにちの日本による捕鯨を責めるのは身勝手である、と書かれています。まったくそのとおりですね。ただ、筒井さんの記述は、そこで欧米諸国を非難するだけにとどまらず、もっと広い視野をもたれていることに特徴があり、変なプロパガンダみたいなものを感じさせないところが素敵だと思います。というのが、ラテンアメリカや太平洋諸国の先住民に対して欧米諸国がひどいことを行ったことに話を広げると同時に、「他民族に対する残虐行為なら、日本人もずいぶんやっている」と、自国もきちんと見つめているのです。  捕鯨の問題については、オーストラリアなどの一部の過激派たちは、クジラは殺しちゃいけないけれど増えすぎたカンガルーは殺していい、みたいなことをおっしゃっているようで、なんともなぁと思います。自国の行っていることを冷静に見つめずに他国ばかり非難するのはおかしなことで、同時に私は、「だから○○人はこうこうだ」というような、変なレッテルを貼って他国を非難することもおかしいと思います。ある国民になんとなく通じる国民性というものはあるでしょう。そしてそれはその国それぞれ。自らの価値観に合わないからといって、他国の国民性を非難するのはナンセンスです。もちろん、他国の在り方によって自国がなんらかの不利益を被る場合もあるでしょうが、しかしその他国の人々をひっくるめて非難するのは間違ったことだと思います。  最近、ネットで、いろいろどうかなぁという記述を目にするので、なんとなく思っていたことを書いてみました。 「リンゴマイマイ」の項目は厳しかったです…。陸上軟体動物苦手なので…。 「ミチバシリ」の項目では、ワイリー・コヨーテとロード・ランナーの追いかけっこの話があって、楽しく読みました。コヨーテとロード・ランナーのアニメは、大好きだったので(最近も某サイトでたまに楽しんでいます)。  本当はさして毒があるわけでもないのに毒クモとして恐れられることになったというタランチュラについても、興味深く読みました。  というんで、まずなにより勉強になりますし、関連する話や誇張表現も楽しく、良い読書体験でした。やっぱり筒井さんの作品は面白いです。 (2009/03/25読了)

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