プリティかつ怠惰に生きる

2005/12/19(月)19:50

RO小説 「息子の受難 第1回 ~旅立ちの日~」

創作(76)

 父親の名前は「アークロイド」。弟の名前は「アークジェイド」。  その流れで何故俺の名前が「アーク三太夫」なのか。本当に奴のネーミングセンスは、俺の理解の範疇を超えている。  「アーク○○」と名前をつけていって、ネタが切れて「三太夫」になったのなら、名前自体はともかく、流れには納得できる。  しかし、俺は長男なのだ。一発目で三太夫。それはありえないだろう。どういうセンスだ、おい。しかも、弟にはしっかり「アークジェイド」という名前がついている。なんだ、この待遇の差は。  名前を変えてくれと懇願したこともあったが、親父は心底不思議そうにただ一言。 「なんで?」  根本的に分かっていないらしい。親父の穢れのない純真な瞳を見たとき、俺の心中には諦めという言葉しか出てこなかった。  数年前までは何とか我慢はできていたのだが、現在の俺は14歳。世間の目を気にし始める、お年頃な思春期だ。そろそろ、この名前に対して我慢ができなくなってきた。  親父に何度か訴えたが、俺が何を言っても和やかに笑うだけだ。まるで、名前を変えようとはしない。  ならば、行動で示すだけだ。  この街 ――首都プロンテラ―― を出て、俺の名前を知らない街へ行き、俺の好きな名前を名乗るのだ。それ以外に、俺の望みを叶える方法はない。  そうさ。あのバカ親父が相手なのだ。この程度のことはしなくてはならない。  そもそも、あの親父は昔から異常だった。  異例の速さで剣士になり、地道に修練を続ければ1年で騎士になれると言われたほどの人間だったのだが、修練場を「退屈」の一言で抜け出した。各地を放浪し続けて、帰ってきたのは6年後。しかもいきなり、騎士の認定試験を受けると言い出しやがった。  6年もの間ふらふらしていた親父が、帰ってきていきなり難関の騎士試験を受ける。誰もが落ちると思ったらしいが、あっさり合格して皆を唖然とさせた。  騎士は、祖国を護るための由緒正しい仕事だ。その騎士の称号を得たのだから、今までの蛮行を改め、国のために尽くすのだと誰もが思った。  しかし、親父はまたも国を出た。元から奴は、祖国を護ろうなんて気はなかったのだ。 「いやあ、騎士の称号があると検問とか楽でさあ」  追いかけて来た騎士団長に、軽々と言い放ったそうだ。わが父ながら、あきれてものも言えない。  その後、各地をふらふらと回った後、「ピエロ鼻推進委員会」なる謎の組織をつくり、その名を(大陸一のバカとして)轟かせた。挙句の果てには、俺とジェイドにもピエロ鼻を強要してきやがった。無論、断固として断ったが。    こうして振り返ってみると、まるで良い所がない。家を出たのも正解だったと言えるだろう。  とはいえ、俺は決して親父が嫌いなわけではない。そもそも、俺があの親父を憎めるはずがない。  俺は、あの親父に拾われたのだから。  昔、プロンテラの路地裏に5歳程度の俺が一人で泣いていたらしい。親父は、特に何を考えるでもなく、俺を連れて自分の住むアパートへと連れて行った。  当時、親父はまだ18歳だった。剣士になり、騎士養成学校へ通っていた親父に、さらに一人分の生活費を稼ぐのは不可能に近かった。親父が学校をやめ、冒険者として過ごすようになった事には、俺の存在も少なからず影響していただろう。  天才と呼ばれるような人間だったのに、俺のために出世コースを蹴り、ここまで育ててくれたのだ。感謝こそすれど、嫌いになれるはずがない。  しかし、義理や負い目だけでそう言っているわけでもない。どんな人間とも分け隔てなく付き合えるあの親父を、尊敬している部分もある。  大陸一の馬鹿と言っても、要するにあの人は自由すぎるだけなのだ。人間的には出来ているし、人を軽んずることも決してない。だからこそ騎士団長も、親父に退団処分を下さないのだろう。  だから、俺は決して親父が嫌いなわけではない。寧ろ、好きだと言っても過言ではない。  かといって、この名前が許せるはずもない。考えに考え抜いた挙句出した結論が、俺の名前を知っている人がいない街へ行って、違う名前を名乗って生きるというものなのだ。  落ち着いたら、親父にも連絡を入れようと思う。きちんと職に就いて、今まで育ててくれた恩を返そうと思う。「三太夫」という名前じゃない、新しい俺の力で。  希望溢れる未来を夢見て、俺はプロンテラを後にした。  俺は、忘れていた。街の外にでるときは、いつも親父が一緒だったという事実を。

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