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プリティかつ怠惰に生きる

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Dec 18, 2005
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カテゴリ:創作
 目指すはゲフェン。プロンテラを北口から出てそのまま西へ歩き続ければ、さしたる苦労もなく辿り着くことが出来る。
 1週間分の食料に、水とミルク(俺の大好物だ)を背中のリュックにしまいこんだ。親父が昔使っていたというナイフもくすねて来た。この辺りの魔物程度なら倒せるはずだ。
 道無き道をゆったりと歩く。ぽかぽかとした日差しが気持ちいい。出発時間を朝にしたのは正解だったようだ。
 遠くでポリンがぽよぽよと跳ねている音がする。ルナティックがとてとて走っているのが見える。一人で街の外にでたことは無かったから、なんだか新鮮な風景に少し嬉しさがこみ上げてきた。
 一人旅ってのは、それだけで面白いもんなんだなあ。
 騎士団に落ち着かず、そこら中を放浪していた親父の気持ちが少し分かった気がする。
 敵を倒し、国を護る「だけ」という騎士団の性質が、親父には耐えられなかったのだろう。
 決して愛国心がないわけではないが、それ以上にやりたいことが父にはあったのだ。
 自分の生活を省みず、やりたいことだけをやれる親父が、少し羨ましく思える。
 だが、恐らくそのおかげで俺は金に執着する性格になったのだと思うので、素直に尊敬は出来ないが。
 将来の夢は商人です。
 そんなことを考えながら、俺はとことこと歩き続けた。

 暑い。
 いや、寧ろ熱い。
 真夏のこの時期は、朝は涼しいものの昼間になると異様に熱くなる。
 しかも、いつもは親父が荷物を持ってくれるのでほぼ手ぶらだが、今回は背中にずっしりと中身のつまったリュックを背負っているのだ。 
 自分の体力の無さを実感する。既に息はあがっていて、足のじんじんとした痛みが耐え難い。
 限界を感じた俺は、やむを得ず木陰で休息をとることにした。
 リュックの中のミルクを1本取り出し、ごくごくと飲み干す。1本では足りないので、さらに3本ほど出しておき、2本目に手をかける。
 いつもは親父が傍にいたので分からなかったが、一人で黙々と歩き続けるのは相当辛い。楽しいと感じていた景色も飽きてくるし、ぽかぽかとした陽気もいまや体力を奪う邪魔者でしかない。
 こんな辛い思いをしながら、親父はいつも金を稼いでいたのだろうか。親父の苦労は分かっているつもりだったが、こうして実際に体験すると、自分は何も分かっていなかったように思える。
 そういえば昔、親父に「冒険者は辛くないのか」と聞いたことがあった。その時親父は、こう答えた。

「辛い事もあるけど楽しい事も一杯あるし、お前たちの笑顔を見るためなら全然辛くないんだよ」

 ……。
 やはり、名前如きで家出というのは、勝手が過ぎたかもしれない。一旦戻って、もう一度名前について話してみるべきだろうか。
 親父は、「俺たちの笑顔が見るためなら」といった。名前の事でここまで悩んでいるといえば、どうにかしてくれるかもしれない。
 しかし、一度決めたことだし、流石に親父も怒っているだろうしなあ…。
 思春期特有の愚かしい意地が、素直な気持ちを阻害する。このままゲフェンへ向かうべきか、プロンテラに戻るべきか、考えながら次のミルクを手に…?
 手を伸ばした先にミルクは無かった。不思議に思いながら回りを見渡すと、黒くて小さい虫がミルクを背中に背負ってカサカサと離れていく姿が見えた。
 盗虫だ。落ちているものを拾って、巣に持ち帰るという習性を持つ虫。こいつが、リュックから出して置いてあったミルクを盗って行ったらしい。
 普段ならミルクの一本くらい諦める所なのだが、カサカサと誇らしげに(見えただけだろうが)ミルクを持っていく奴の姿は、暑さと悩みでイライラしていた俺の鬱憤を爆発させた。
「このやろっ!」
 石を拾い、投げつける。しかし、素早く動く虫には当たらない。奴は、俺を嘲るかのように、蛇行して走り続ける。苛立ちが頂点に達した俺は、普段使わない脚力を限界まで酷使して追いかけ、持っていたナイフで一撃を浴びせた。
「ピギィ!」
 盗虫が断末魔の悲鳴を上げ、その場に横たわる。頭が砕け、体液がじゅわじゅわと出てきている。
 ざまあみろ。そう思った瞬間だった。
 ザワッ!
 周囲から、何匹もの盗虫が一斉に顔を出し、俺を囲んだ。数にして6匹。仲間を殺された報復だろうか、それだけの数の虫が一気に襲い掛かってきた。
 必死に反撃したが、1匹を斬っている間に5匹の盗虫に攻撃されているというこの状況は、体力が無い俺にとっては絶望的だ。とても全て倒すことなど出来ない。
 堪らなくなり、踵を返し逃げ出した。しかし、虫たちはそれを許さない。盛大な音を立てながら、一糸乱れず追ってくる。
 俺は恐怖を感じていた。迫る虫の大群に。そこに付き纏う死の影に。
 親父はいつも、こんな恐怖に耐えながら狩りへ出ているのだろうか。涙を流し、息を切らせながら走る俺の心に去来したのは、親父への感謝と謝罪の気持ちだった。
 申し訳ない。そんな気持ちで一杯だった。いつも死と隣りあわせで戦ってくれているのに、俺は自分のことしか考えていなかった。その事実が、俺の心を責めた。
 ここで死んだら、親父に申し訳が立たない。そう思い、必死に逃げる。
 しかし、普段の運動不足がたたって、体力が早々に限界に達した。足がもつれて、転倒する。待ち構えていたかのように襲い掛かる盗虫の大群。確実な死を予感し、息をつまらせた。

「ブランディッシュスピア!」

 轟音とともに、盗虫たちが風に吹かれるように吹き飛んだ。体の破片が飛び散り、体液が巻き散る。それらがぼたぼたと地面に落ちたとき、全ての虫は既に絶命していた。
 俺は、放心した頭で必死に状況を理解しようとした。どうも、衝撃は俺の背後から放たれたらしい。俺の体を避け、盗虫だけを吹き飛ばしたのだ。
 後ろを振り向いた。そこには、ペコペコを駆り、槍をかざし、俺に見せた事の無いような険しい顔つきで立っている親父の姿があった。





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Last updated  Dec 19, 2005 07:50:15 PM
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