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ぼくの携帯電話に片岡から着信があったのは、その日の晩のことだった。
ぼくは久しぶりに自分の部屋で寛いでいた。昨日も一昨日も、ほとんどこの部屋にはいなかったのだ。
観てきた映画のパンフレットの最終ページに、製作スタッフの名前が連ねてある。そこを開いて赤松のもう一つの名前を眺めていたら、携帯が鳴った。
「珍しいじゃん。どうかした?」
「いや、ちょっと頼みたいことがあってな。赤松さん、あれからどうだった?」
なるほど。赤松が心配だったわけか。
ぼくは亡霊のようだった彼女の奇行を簡単に説明した。
「そうとう落ち込んでるな、あれは」
「そうか・・・・・・」
片岡の声も落ち込んでいる。ぼくは話題を変えることにした。
「そういえば、頼みって?」
「ああ、赤松さんに会えるようセッティングしてもらいたいんだ。直接会って言いたいことがあってな」
「いいけど、何?」
まさか告る気か? 本にしか興味のなさそうな片岡でも、恋の一つや二つはするらしい。いや、本にしか興味がないからこそ、相手が赤松なのかもしれないが。
しかし片岡は、ぼくの質問には答えず、全く関係のない奴の名前を出してきた。
「去年俺達と同じクラスだった坂口って、元気してるか?」
「さぁ? たぶん元気なんじゃない?」
坂口とは、去年ぼくとツルんでいたサッカー部のお調子者だ。クラスのムードメーカーのような奴だったのだが、春休み中に母親の実家へ引っ越すことが決まり、すでに転校してしまっていた。
「坂口が引っ越してから連絡取ってないのか? あんなに仲良さそうだったのに」
「ああ」
現在、奴がどこに住んでいるのかすら、ぼくは知らない。
「坂口って、お父さんが亡くなったから引っ越したんだったよな」
少し言いにくそうに、抑えた声で片岡は言った。
「坂口のお父さん、死ぬ時なに考えてたんだろうな」
ぼくは黙り込んだ。坂口の親父さんに関することは、あまり口にしたくなかった。やっと出した自分の声は、少しかすれていたかもしれない。
「・・・・・・なんでそんなこと訊くんだ?」
「少し前に親父が死んでな。もうずっと会ってなくて、親父のことなんて忘れてたんだけどさ。でも、死んじまったって聞いたら、急に親父はなにを考えてたんだろうって気になってきたんだよ」
ぼくは何も言えなかった。うちは両親だけでなく、生きている身内はみんな殺しても死にそうにないくらいピンピンしている。かけるべき言葉なんて見付かるはずもなかった。
お姉さんと死別している赤松なら、うまい慰めの言葉をかけることができるのかもしれないけど。
つづく