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5
午前だけの授業が終わり、昇降口で従兄からのメールを確認していると、赤松がやって来た。久しぶりに再会した級友達と楽しそうに騒ぐ集団の間を、押し潰されそうになったりぶつかったりしては頭をペコペコ下げながらぼくの方へやってくる。日焼けして健康的に見えるようになったかと思った赤松の顔色は、海や山で派手に焼けている集団に紛れると、やはり少し不健康な印象を受ける。肩で切りそろえられた髪の毛は、人ごみでぼさぼさになっていた。
「ね、片岡君が今日来てないって知ってた?」
赤松はぼくの所に辿り着くなりそう言った。ぼくはかぶりを振った。
「知らない。どうかしたの?」
たしかに一昨日「登校日に会おう」とは言ったが、それは社交辞令みたいなもので、会って話をしようとか遊びに行こうという約束をしたわけではない。だからぼくは、今日の学年登校日に片岡がきちんと出席しているかどうかなんて気にも留めていなかった。しかし赤松は、わざわざ片岡の教室まで行ってみたらしい。
彼女はぐるりと首を巡らせると、周りの人間が誰もこちらを見ていないことを確認して声を潜めた。
「昨日の夜、白石さんが亡くなったらしいんだ。六階の病室から飛び下りて」
「自殺ってこと?」
ぼくも声を潜める。赤松はためらいがちに頷いた。
「遺書らしいメモも残ってたって」
「メモには何て?」
「『私が自分で薬を入れ替えて飲みました。ご迷惑をおかけしてすみません。』って。たぶん、かかりつけの病院が調剤ミスの疑いをかけられるのを懸念したんだろうね」
病院の調剤ミスを、ね。
ぼくは心の中で呟いた。
「このことを早く片岡君に伝えようと思って教室に行ってみたんだけど、クラスの人に休んでるって言われたんだ。白石さんが亡くなったのは残念なことだけど、これで彼女が倒れたことは片岡君には全く関係ないってはっきりしたわけでしょう。片岡君は気にしてないようなこと言ってたけど、やっぱり気になってるんじゃないかと思って」
一刻も早く片岡に伝えたかったのだろう。赤松はじれったそうに話した。
「そうだな。じゃあ、このことは俺から連絡しとくよ」
「本当? わたし、片岡君の電話番号って携帯のも家のも知らないから助かるよ」
心底ありがたいという表情をする彼女に、今日中には片岡に知らせると約束した。赤松は今すぐにでも連絡して欲しそうだったが、ぼくはまだ学校に用事があるからと言って、彼女を先に帰らせた。
赤松を見送ると、ぼくは学校の敷地の最奥にある旧校舎に向かった。
自然と足の動きが速くなる。赤松には何も言わなかったが、ぼくにはある予感があった。
気付くとぼくは走り出していた。
つづく