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黙り込んだぼくを、再び片岡が促す。
「とにかく彼女は倒れた。でも、すぐには死ななかった。それで次に俺はどうしたんだ?」
「それでお前は塾をさぼって彼女の病院へ行った。一昨日明代ちゃんが駅のホームに見たのは、お前に間違いなかったんだ」
しかし片岡は、一昨日は何もせずに帰った。赤松がどう思っているのか気になったからだ。疑われていると思っていたのかもしれない。
そして、赤松の口から「自殺だと思う」という言葉を聞いて安心した片岡は、昨日、再び白石久美子の病院へ出向いた。彼女の入院している病院は、片岡の家や塾もあるこの学校の最寄り駅から、ぼくの帰宅方向とは反対の電車を利用することになる。昨日あの電車に乗っていたのは、やはり彼だったのだ。
「一昨日までに白石久美子の病室なんかを確認していたお前は、誰にも見つからないように、暗くなってから忍び込んで・・・・・・」
「窓から突き落とした?」
片岡が歌うように言った。
薄暗い教室内にもう一枚見えないベールがかかり、のどかな夏の午後は、ぼくの周りだけ更に暗さを増す。
ぼくは唾を飲み込み、ため息を吐いた。握り締めていた左手が、力を失くして緩んでいく。掌には自分の爪あとが白く並んでいた。
「やっぱりお前だったんだな」
「何だよ、今更。ずっとそう思ってたんじゃないのか」
「でも、確信があったわけじゃない。今までのは全部、俺の勝手な想像だし」
「それで、今は確信が持てたのか?」
「ああ。俺は、『昨日、白石久美子が死んだ』としか言わなかったのに、片岡は自分が突き落としたと思っているのかと訊いてきた。どうして彼女が転落死だったと知ってるんだ? 少なくとも、お前は白石久美子が死んだことを知ってた。そのことを隠してたのは、自分がその場にいたからじゃないのか?」
今度は片岡がため息を吐く番だった。
「たしかにそうだけど、お前の考えとは少し違う」
閉め切った窓を突き破って、埃っぽい教室に蝉の声がこだましている。
片岡は穏やかな調子で続けた。
「他にもお前の推理は細部が間違ってる。これからそれを訂正していこうか」
つづく
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