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ミツルの家から駅までは、歩きでも十分もあれば着く。問題は向こうの駅から野上の家までの方だった。
いつも家族で行く時は家から車で行くのでよく分からないけれど、野上の家は、駅から車でも五分はかかるという話だった。なのに、今日はとっくにバスの最終が出てしまっている。十時を過ぎたら駅員さえいなくなるような田舎の駅なので、タクシーも停まっていない。
この駅で降りたのは、ミツル達をのぞくとサラリーマン風のおじさん一人だけだった。
仕方がないので二人は、あやふやな記憶を頼りに徒歩で行くことにした。
「おじいちゃん達、急に行ったらびっくりするよ。電話してかなくていいの?」
ミツルが無人駅の公衆電話を指差すと、お姉ちゃんは呆れたように首を横に振った。
「先に電話してたら、お父さんやお母さんに連絡されちゃうかもしれないでしょ? そしたら野上の家に辿り着くまでに連れ戻されちゃうよ」
その前にちゃんと野上の家に辿り着けるのかが心配だったけど、ミツルも今連れ戻されるのは嫌だったので、お姉ちゃんに従うことにした。
カエルの規則正しい歌声を聞きながら、数少ない街灯を頼りに歩いていく。民家の少ないこの町の夜は、カエルの鳴き声をのぞけば、とても静かで暗かった。昼間にバスから見る風景は穏やかで、ミツル達を歓迎してくれているような雰囲気なのに、夜歩きながら見る景色は、どこか不気味でよそよそしい。
ミツルは少し怖かったけど、そんなことを言ったらお姉ちゃんに怒られそうな気がして、ぐっと口をつぐんで歩いていた。お姉ちゃんも何も言わずにずんずん進んでいく。いつも車で行っていたから道順があやふやだと言っていたわりには、お姉ちゃんの足取りには迷いがなくて、それだけがミツルを少し安心させた。
十分も歩いただろうか。ミツルの記憶にもある小さな入り川に架かる橋を渡った時、ふいに暗かった前方が明るく照らされた。横道から懐中電灯を持った人が出てきたのだ。
その人物はミツル達に気付いたのか、何かを探すように懐中電灯をめぐらせながら、こちらに曲がって来た。どうやら男の人のようだ。熊みたいな大きな体がユサユサと近づいてくる。
「誰かいるのか? 子供だな」
聞いたことのない低い声。白いガードレールにくっきりと伸びる大人の影を見ながら、ミツルはさっきまでの怖さがむくむくと成長するのを感じていた。最近よく起こっている子供の連れ去り事件を思い出したのだ。こんな時間に子供だけで外を歩いているなんて、さらってくださいと言わんばかりじゃないか。
つづく
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