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「わぁ! 待って待って」
ミツルは、駐在所に引き返そうとする男を慌てて止めて、お父さんとお母さんの喧嘩のことを話した。すると男は、今度は泣きそうな顔になって、二人に同情してくれた。
「そうかそうか。それは辛かったね」
ミツルの話で、百面相みたいにくるくると変わる男の様子を見ていると、ミツルは男が怖くなくなってきたのだけれど、お姉ちゃんは変わらず言葉を発しないし、ミツルの手を握る力も緩めようとはしなかった。
男は、自分からはミツル達の家に連絡しないから、野上の家に着いたら、必ずすぐに連絡を入れることを、二人に約束させた。もともと、お父さんとお母さんが仲直りするまでは帰らないことを伝えるために、電話はするつもりでいたので、お姉ちゃんも嫌だとは言わなかった。
「でもね、夫婦喧嘩をしていても、お父さんとお母さんはきみ達がいないって分かったら、心配でたまらないはずだよ。命が縮まっちゃうよ」
男はそう言って、大きな体を縮こまらせてみせた。それは熊がウサギの真似をしてるみたいで、ミツルはちょっと笑ってしまった。
「おかしいことじゃないぞ。本当のことだぞ」
ミツルは男の仕草がおかしくて笑ったのだけど、男は言葉の内容を笑わったのかと思ったらしく、ちょっと真面目な顔になって言った。
「きみ達だって、そう思うから家出して来たんだろう?」
その通りだ。二人はお父さんとお母さんにうんと心配させて、家に帰ってほしいと思わせるために家出して来たのだ。そう思わせて、家に帰る代わりに仲直りしてもらうために。
ミツルは、家を出てきてはじめて、お父さんとお母さんに悪いことをしたかもしれないと思った。仲直りはしてほしいけど、命を縮めてほしいわけじゃない。お父さんとお母さんが嫌いでこんなことをしてるわけじゃないんだから。野上の家についたら、ちゃんと家に電話をしよう。お父さんとお母さんに、ぼく達は無事だよって知らせよう。そして、仲直りしてって頼むんだ。
つづく
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