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注:悲惨な話やグロテスクな表現がトラウマになるような方は、読まない方がいいかもしれません。
また、私なんぞがこういう話を書いて、不快に思われる方がいらっしゃいましたらすみません。
決して過去を愚弄するために書いたわけではありませんので、ご了承ください。
「でも、こんなの子供の力じゃ無理だよ」
子供が埋まっていると思われる場所には、コンクリートの塊が、うず高く積みあがっている。
「ごめんな、坊や。方々探したんじゃけど、大人でももう元気な者(もん)はおらんのよ。いくら元気でも、こんな状態じゃあもう助からん言うて、誰も助けようとしてくれん。みんな自分のことで精一杯でな。あんただけが頼りなんよ。お願いじゃけぇ、この子を助けてやって」
「わしからも頼む! この通り!」
母親が体を折り、少年が両手を合わせる。マサシは仕方ないなと呟いて、作業にとりかかるべく、瓦礫の山に手をかけた。
「きみも手伝ってよ」
後ろで礼の言葉を並べる少年を振り返ってマサシが言うと、少年は申し訳なさそうにかぶりを振った。
「本当はわしとかあちゃんで助けてやりたかったんじゃが、わしらにゃあ、もう無理なんよ」
「なんで? ぼくより大きいんだから、この石くらい持ち上げられるでしょ」
マサシが比較的大きな石の塊を指差すと、少年はまたかぶりを振った。
「無理なんよ。かあちゃんもわしも、もう物に触れることができん。できたらとっくにやっとる」
「どういうこと?」
マサシが眉をひそめると、少年は一際大きな塊のある下を指差した。そこには、かろうじて人間の頭だと分かる真っ黒な物体が、石の下から覗いていた。
「それがわしじゃ。かあちゃんは家と一緒に焼け死んどる」
少年の隣で母親も頷く。そして彼女はその場にしゃがみ込むと、黒い肉塊になったわが子の頭を撫でた。その手は、ホログラムのように黒い塊をすり抜けていく。マサシは我が目を疑ったが、頭のどこかでは妙に納得していた。だからこの二人の体には傷一つないし、服も破れていないんだ。本当の肉体ではないから。
「こういうわけじゃけぇ、私らは物に触れることはできんのんよ。なんで元気そうな坊やに私らの姿が見えるんかは分からんけど、私らは死にかけとる人間にしか見えとらんみたいでな、実は、トモヒサには声も聞えとらん。じゃけど、それはこの子がまだ瀕死の状態じゃないいう証拠なんよ」
たしかに、ずっと母と兄を呼び続けている声は、涙に暮れてはいるが、まだ元気そうだ。
「まだ小さいあんたには申し訳ない思うけど、他に頼れる人がおらんのん。どうかお願いします」
目頭を押さえて深々と頭を下げる女性を見ていられなくなって、マサシは彼女らに背中を向け、黙々と作業を始めた。
背後からは少年と母親の礼の言葉が、足元からは、子供の助けを求める声が、いつまでも続いていた。
つづく
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Last updated
2005.08.13 15:11:24
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