学園祭とは何の関係もない質問に怪しまれるかと思ったが、塩澤さんは特に気にする風もなく、「ああ、なんかあったな、そういう話」と真面目に思い出そうとしてくれた。
「ええ? 怖い話ですか? あたし苦手なんですけど・・・・・・」
田尾さんが怖がる。俺だって怖いけど、他に引き止める術がなかったんだから、勘弁してもらう他はない。
「そうそう、たしか、人柱伝説があるんだよ、あそこは。天保だったか享保だったか、とにかく江戸時代だったと思うんだけど、あの水源地を造るのに工事が難航したとかで、当時十六・七だった少女を生き埋めにしたんだって。研究塔の裏に石碑もあるよ」
親切にも塩澤さんは、後で案内してあげようかとまで言ってくれた。冗談じゃない。
「いや、近づかないように言われてるんで・・・・・・」と俺が断ろうとした時、横から田尾さんが大声を出した。
「是非!!」
怖いんじゃなかったのかよ・・・・・・。
教訓、恋する女の子ほど怖いものはない。
そんなわけで、どっぷりと日が暮れてから、俺たち三人は研究塔の前で落ち合うことになった。研究塔はキャンパスの外れにあり、祭りの賑いもここまでは届いてこない。ところどころ窓に明かりがついているので、祭りどころじゃない学生もいるのだろう。
「ごめんごめん。遅くなって」
息を切らせて律儀に約束を守ろうとやって来てくれた塩澤さんに、どうせなら来てくれなくても良かったのにと思ってしまう。もっともその場合、田尾さんをどう慰めるかで、また苦労することになったのだろうけど。
「あ、あの、ここからは二人でどうぞ」
俺は最後のあがきで逃げに出た。田尾さんにとっても、二人きりの方がいいはずだ。
ところが、当の田尾さんが、そんなぁと抗議してくる。
「人数が少ない方が怖いじゃないですか。一緒に行きましょうよ」
「そうそう。ただの石碑だから、そんなに怖がることないって」
塩澤さんまで笑って誘ってくる。
「女の子の田尾さんが行くのに、きみが怖がって行かなかったなんてバイト先の皆に言ってもいいの?」
「塩澤さん、ひどい・・・・・・」
ここにも先輩のような輩がいたのか・・・・・・。
俺は仕方なく、折れることにした。
まだ高校生の田尾さんは、研究塔を抜ける時、ひどくはしゃいでいた。俺も余所の大学の内部なんて初めてだったから少し興奮したが、祭りそっちのけで研究している人たちのことを考えると、あまりおおっぴらには騒げなかった。
「僕さぁ、実は彼女いるんだよね」
スキップするように先を行く田尾さんの小さな背中を見つめながら、塩澤さんが言った。
「え? 知ってたんですか?」
田尾さんのこと、と言うと、うんと頷く。
「相手、この大学の娘なんだ。だから、暗闇に二人きりでいるの見られたらまずいと思って。ごめんね」
つづく
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助けてくれるはずのノートン先生に何故か邪魔されつつ、フリーページに目標の5話までアップ。
でも、15日中には無理だったか・・・・・・。
第二話
『秘薬』
第三話
『草螢』
第四話
『金魚』
第五話
『風鈴』
『秘薬』はここに載せたやつですね。
『金魚』は、『奇妙な~』よりよっほど怖いかも。ホラーのつもりは微塵もないのですが。
そんでもって終戦記念日中になんとか載せたかった『風鈴』。
一昨年原爆モノを書いて、ああいうのは二度と書かないと思っていたのですが、去年も書いてました。一昨年のみたいにグロくはないので、良かったら読んでやってください。
今年はもう、こういうのは書きません。