13.終わり13.志信さんが分家や一家名乗りを認められた者を見送りに立っている間、 大叔父はリラックスした様子で広間に残り、アヤを側に置きました。 「これで一段落ついたな」 大叔父は機嫌よくお猪口を手にします。 「しかし暫く志信はシマを見て回るだろうから、 アヤちゃんはわしと一緒に碁でも打つか」 「碁なんて知りません」 相変わらずつれない子です。 だけど要領がいいのか、大叔父に酒を注いでいます。 「俺も付いていってはダメですか?」 「志信に、か?そんな前例は無いぞ、アヤちゃん」 大叔父が言うには、姐は組の舎弟を育てる意味もあり、 この本家を護るものだそうです。 組長である志信さんについて回っては、本家ががら空きです。 もしもその隙をつかれては、末代までの恥でしょう。 「関東まで追いかけてきた事は目を瞑るが、これ以上はいけないぞ」 「はあ」 アヤは納得しかねる表情です。 志信さんと一緒にいたくて、この極道の世界に飛び込んだのですから。 「家を護ってくれよ、アヤちゃん」 「はあ―」 この子には無理な気がしますが、 大叔父はアヤが側にいるだけで嬉しいようです。 「孫が出来たような気持ちだ」 「はあ―?」 アヤは呆れて開いた口が塞がりません。 「大叔父に『孫』扱いされましたよ」 部屋に戻った志信さんにアヤが報告します。 「そのまえに『お疲れ様でした』とか言えないか」 「あ。お疲れ様でした」 「…その口のとがらせ方は何だ」 「これからは同行できないと、大叔父に言われたんです」 「当然だな」 志信さんは既に紋付袴を脱いで、シャツとスラックス姿です。 そして煙草を銜えると、アヤを見ました。 「アヤを護る為に、同行させないんだ。理解できるな?」 「…俺は危険な目に遭うとしても、あなたの側にいたいんです」 素直な感情を口に出すアヤに、志信さんは二の句が継げません。 天井に伸びていく白煙がアヤとの距離を遠ざけるようです。 「…いつも同行させるわけにはいかないんだ。これも覚悟のうちだ」 「覚悟ですか」 アヤが表情を曇らせると、志信さんは頷きます。 「これからは沢山の覚悟が必要だ。私に何かあっても取り乱すな、 堪えてこの組を守るんだ」 「それが姐ですか」 アヤは志信さんが好きだからこそ、この世界に入る決心をしたのです。 それなのに離れることを覚悟しろとは、志信さんは冷酷だとアヤは感じます。 「アヤ。私はアヤへの愛情は揺るがない。ただ少し大人になってくれ」 「…信じていいんですよね?」 「当たり前だ。そうでなければカタギだったアヤに覚悟しろと言わない」 志信さんは煙草を揉み消しました。 天井にはまだ白煙がたなびいています。 「俺は随分と生きる場所が違うところに来たと思います」 アヤは天井を見上げて呟きました。 そしてゆっくりと志信さんに目を合わせます。 「でも後悔はしていません。 どんな形であれ、あなたと共に生きられるなら俺はそれで構いません」 「アヤ…」 振り絞るアヤの言葉に志信さんの心が動かされます。 「大人にならないといけないのは私のほうか」 志信さんはアヤを抱き締めました。 そして「私が単独で動いていても帰る場所はアヤの元だ」と耳元で囁きます。 「それだけで十分です」 アヤは見上げて微笑むと、志信さんのシャツのボタンを外します。 「今この胸に抱かれたいと我侭を言っても、いいですか」 「その一歩ひいた言い方に惑わされそうだ」 志信さんはアヤのベルトを緩めて踵までスラックスを落とすと、 下着の中に手を入れました。 「強引です」 「アヤが誘ったんだろう」 唇を尖らせながら志信さんを見上げるアヤは頬を染めています。 「あ、ちょっと…」 強引な愛撫にアヤが腰を捻ると、志信さんの指先が滑り、穴に触れました。 「立っていられません!」 アヤが叫ぶと、志信さんはアヤを抱き上げました。 ベッドにアヤを横たえると、ぐいと下着を脱がして屹立したアヤの茎を擦り始めます。 「やだ、ちょっと、志信さん!」 アヤの声はかすれていました。 快楽を覚えた体は志信さんの指先ひとつで反応してしまうのです。 「先に出せ」 「嫌です!」 アヤは震える膝を立てて堪えようとします。 しかし志信さんも手馴れたもので、 このやんちゃな子は腿の内側が弱いと知っているので唇であとを付けます。 「あ、もうやだ!」 シーツを掴んだアヤは堪えきれずに放出してしまいます。 上気した肌に荒い呼吸は、志信さんを駆り立てます。 「アヤ。私は体の関係だけでは無いぞ。 この我侭な性格も気に入っているんだ」 「誉めていませんね」 「口が減らないな」 志信さんは隆起した茎をアヤの中に挿入します。 「ウッ…」 アヤが小声で呻き、シーツを手繰り寄せます。 「辛いか?」 「何を今更」 アヤは自分の体に圧し掛かる志信さんの背に腕をまわして、 更に奥へと導きます。 「もっと、もっと奥まで来てください。俺は入り口でイかされたくない」 「ふ。余裕があるのか」 志信さんは唆されたのかやや強引に茎を進め、肌が触れ合う音がしました。 「アヤ、私を見なさい」 「…なんですか」 「アヤと生きる覚悟をした男の顔くらい、正面から見ろ」 「いつも見ています、だから俺にはあなたしかいないんです」 志信さんの突き上げにアヤは喘ぎながらも、背中にまわした手を緩めません。 「もっと、してください」 いつもよりも貪欲なアヤに、志信さんは驚きつつもアヤに応えます。 「あ、もっと!」 「アヤ、きついぞ」 締め付けがきつく、志信さんはうっすらと汗をかきました。 「この子は…」 日常でも何ごとかを起こして飽きさせない子ですが、体もそのようです。 「私も、アヤでなければならない」 アヤの乱れたシャツをまくりあげて胸を撫でると、 苦しげにアヤが腰を震わせ、目に涙を浮かべます。 「アヤ、一緒に大人になるか」 「…なんですか、それ。組長が言う言葉ですか?」 アヤは涙を頬に零しながら微笑みます。 「リードしてくれないと、俺は動けませんよ」 「いい子だ」 志信さんはアヤと唇を重ね、その腰を撫でると片膝を持上げて更に突き上げました。 「あ・あ・あ・いや、志信さっ…」 アヤのシャツの裾が精で濡れていきます。 「あ、もう…あ、ああん!」 アヤが肩を震わせると同時に志信さんも果てました。 「どうした、アヤ」 体にシーツを巻きつけたまま窓を眺めるアヤに、志信さんが声をかけました。 「夕焼けの空が好きなんですよ」 「初耳だな」 志信さんはベッドに腰掛けて煙草を銜えました。 「俺の家は共働きで、夕方にならないと母が帰ってこないんです」 「へえ?」 志信さんは初めてアヤの家のことを聞きました。 「だから夕方の空を見ると嬉しくなるんです。 ああ、母が帰ってくるなあって。 あのオレンジ色の夕陽が好きなのに泣けるんですよ、変ですよね―」 志信さんは自分と離れたがらないアヤの事情を聞いたような気がしました。 アヤはひとりぼっちだったのです。 だからこそ、志信さんと離れたくないのでしょう。 「アヤ。もう寂しい思いはしなくていいんだぞ」 志信さんがアヤの背中に声をかけると、 アヤは窓を閉めて志信さんを見返ると笑顔を見せました。 その仕草にさえ志信さんはどきりとして、 火をつける前の煙草を床に落としました。 押すと「平穏な時間」へ |