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ヒロガルセカイ。

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柊リンゴ

柊リンゴ

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2016/07/19
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「今の僕は颯秩にお願いできる立場じゃないけど、いずれはそうなりたいから。
言うよ。
バイトの選択が間違っていると思う、本当に辞めて欲しい」
颯秩を守りたい、そんな気持ちさえ吐露できた。

「俺が言う事を聞くと思って言っているわけ?
前に言ったよね。恩義があるし、人間観察の趣味があるから放り出せない。
嫌で働いているわけでも無いし」
手強いな。

「嫌なのか」
「ふふっ」
何がおかしいのだろう、僕は本気なのに。

「強気だね。喧嘩もできるようになって、むしろ嬉しいかもしれない。
壬が真正面から俺と向き合ってる。
バイトは面白いけどさ、いつまでも続けられないのもわかってた。
後釜を育てたら辞めるよ。
その空いた時間を壬と過ごす。言っただろう、おまえは変わるって。変わったじゃん」

僕の肩をぽんと叩くと腕を払い人目をはばからずにぎゅっと抱きしめられた。
首筋に当たる髪の感触が心地よい、僕も腕を回したいところだったが、
颯秩序は「まだ仕事だからね」と笑った。
そしてするりと体を放すと「ありがとう」と僕を救う言葉を言ってくれた。
爽やかな風が僕の体を吹き抜けた。
新緑のような瑞々しい香りさえした。
気が付いた、ぽっかり空いていた穴が見当たらない。



「リツく―ん。今日は何がお勧めかな?」
女子会だろうか、テンションの高い女性客が手を振っている。
肩を出したオフショルダーのブラウスを着たあの人に、制服姿の僕はどう映るのだろう。
しかし、甘えた口調。もうかなり飲んでいるのではないか?
「イイダコとアーティチョークのマリネか、小エビとアボカドのセビーチェは如何です?」
「ワインは?」
「モスカート・ビアンコで。ジャッロよりアルコール度数が低いので飲みやすいでしょう」
「リツくんの言うとおりにオーダーするから、今度買い物に行かない?」
「残念。俺、車を持っていません」
「私が運転するわよ―」

あの女性客、随分食い下がるな。
颯秩はどんな顔をして対応しているのか。

「『お客様』とはお付き合いできません。だって貴女は大人の女性ですから。
俺はまだ子供です、物足りないですよ?」
「また反らすか、この憎たらしい子」
女性客が颯秩の腰を触ろうと腕を伸ばすが、軽くひねってかわしてしまう。
「触らせもしないのねえ」
「飲みすぎではありません? それに俺は高くつきますよ」
客を相手に釘を刺した。場慣れしているこの空気。
酔客に対しての毅然とした態度に威圧感すら覚える。

感心して眺めていると先程の人が現れて
「帰りが遅いと親御さんが心配する。帰りなさい。タクシーを呼ぶから」
「あ、はい」
まだ颯秩を見ていたかったが仕方が無い。
途中でコンビニで降ろしてもらってお茶を買わないといけないし。

「オーダー入りました」
颯秩が戻って来たので僕に何か言うかと思ったが、
横顔しか見せずにマリネを作るのか奥へ行ってしまった。
「じゃあ、すみません。帰りますので颯秩によろしく伝えて下さい」
「こちらこそ。お兄さんによろしく。
連れ出して悪かったね、遠巻きに見ていたがリツが怒っているようだったから」
「それは違います。
怒らせたのは僕です、気にしないで下さい。それに、機嫌が直ったようですし」

「機嫌が直ったのはきみじゃないのか?」
「はっ?」
思わず頬に手を当てた。
気恥ずかしいものを感じたからだ。

「うちはデリバリーをしないから食べさせてあげられないけれど、
リツの作るものはなかなかいける。
今度、お兄さんが来店されたらお土産として渡そう。
牛もつを香味野菜とトマトで煮込んでペコリーノチーズをかけたローマ風トリッパの煮込みとか。
アンティパストなら茄子の中身をくりぬいてシーフードを詰めて船に見立てた茄子のバルケッタ。
まあ、楽しみに待っていなさい」

特別なデリバリーは1回あったが、この人は知らないのだな。
すっと手を握られ、違和感を覚えた。
手を開くと驚く事にお札が3枚入っていた。

タクシーを呼んでもらい、自宅近くのコンビニで下車した。
時計を見ると8時を回っている、
いくら何でも遅すぎると母さんに怒られてしまうだろうな。
それとも鍵をかけられて締め出されてしまうかもしれない。
「壬、おまえ何をやっているんだ」
レジを済ませたらしい兄がいた。
「お茶を買いに来たんだよ」
「……一体何時間かかるお使いだよ。母さんに頼まれてオレが買いに来る羽目になったんだぞ」
「ごめん」
しかし兄が帰宅するまで母さんはなにもしなかったのか、恐ろしいぐうたらぶりだ。
朝早くからお弁当を作る姿とは真逆ではないか。
あ、そうか。疲れてしまっているのか。
矢張り、労わるべきだな。
「詫びは母さんにしろ。心配していたぞ」

兄は僕が何処に行っていたのか聞かなかった。
自分から話すべきかと思ったが、余計に怒らせそうな気がした。
弁解の余地も無い。







時計が23時を指した。
颯秩はまだ働いているのだろうな。
僕が自分の思いを伝えられた安心感と虚脱感に苛まれて寝付きが悪い事も知らずに。

シーツをぎゅっと掴むと下半身に熱さを感じた。
驚いて触ってみると、じっとりと濡れている。
僕は性的な興奮で寝付けなかったのか。
羞恥心で心臓の鼓動が早まる、これを一体どうしたら止められるのか。

颯秩に店を辞めて欲しいと言ったのは法に触れるだけでは無い。
今日みたいに酔客に触られたり誘われるのが嫌なのだ。
僕は、1人占めしたいのだ。颯秩を。
その事に気が付いてしまった。
求めてしまう、あの香りを。
もう落ち着かない。

店の人が兄から名刺をもらったと言っていた。
兄も、おそらく電話で颯秩を呼び出したのだ。
聞けば連絡先がわかるかもしれない、何より声が聞きたい。

だが、もそもそとしている間に24時を回っていた。

タイムリミットだ。

今は眠れなくてもいい。
1日くらい徹夜でも平気な体だ。
でもこの長い夜が明けて早く朝にならないかと願うのは性欲の解消にはならないだろう。












●気温差●

深夜と早朝は涼しいのに昼間の暑さはしんどいですね

今、7月ですが8.9月はどうなってしまうのだろうと


モスカート・ジャッロです




あと1話で終わる予定です
長くなってすみません

前半も直したいなあ
次も書きたいけれどどうしたものかな





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Last updated  2016/07/22 04:16:11 AM
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