いつかコキリになる日まで

朝、次男が初めて自転車でラジオ体操に行った。
私は帰ってくるまで気が気ではない。

送り出した旦那は素知らぬ顔。

終る時間に見に行くかと思えば知らん顔でテレビを見ている。

「ただいまぁ」

と言う声。

次男、無事帰還。

ところが長男が帰ってこない。

迎えに出た旦那は次男と何か話している。


「おい、長男自転車でこけたってさ」

は？

長男がこけた？

・・・・ばかもの・・・・ドンくさいヤツだ。

長男が遅れて帰ってきた。

旦那が傷の世話をしている。

私は家の中で朝ご飯の用意。


泣いている長男。「長男がこけてどうするの！」と追い打ちを掛ける私。


泣きながら次男が自転車で寄ってきて危ないから避けたら前輪が上がってひっくり返ったそうだ。（器用なコケかただ）

「頭打っていたい・・・」

旦那、長男の頭を触りこぶが出来ているから大丈夫だという。


長男は朝ご飯も食べず寝ている。

タオルやアイスノンで冷して様子を見る。


・・・・熟睡している。

寝ている長男をほって仕事に行く。






昼に帰ると長男はまだ寝ていた。

「首と頭が痛い・・・ふんふん」と鼻を鳴らして泣いている。


お昼ご飯も食べない。


「気持ち悪い・・・」


おや、打ち所でも悪かったか？


今日は施餓鬼で昼からお寺に行かなくてはいけない。

帰ってから病院に連れて行ってやると言うとうれしそうな長男。



思いの外、お寺の施餓鬼が時間が掛かって４時前に家に帰る。


見慣れない自転車が家の前にある。


・・・・長男、友達と遊んでいる。


「あんた、病院行くんじゃないの？」と聞くと

「う・・ん・・・行く・・行きたい・・」と情けない声。


あいにく行こうと思っていた大きな病院は午後休診で、おなじみの整形外科に行く。

待合室で


「どうやってこけたの」と詳しく様子を聞く。

「次男がぁ、めっちゃ近寄って来てぇ、危ないから避けたらぁ、こけた」


傷は右手の肘の内側。

そして痛いのは頭の右側の後。


どうやって同時に打てるんだ？

「後ろを向いてて走ってたから・・・」

「前向いて走らないとだめでしょ！」

「前向くの忘れてた」

はぁ？忘れるかぁ？




名前を呼ばれて診察室に入って行くと先生が

「どうした？」

と長男に聞く。

私が答えようとすると遮る。

「うんとぉ、自転車でこけたの」

「いつ」

「朝」

「いつの朝？」

「今日の朝」

「どこが痛いの？」

「頭とぉ、腕」

白髪頭の先生、にやにやとした顔をして長男を観察している。

「君、どんくさいコケかたをしたなぁ。」

「えぇ、でも弟を・・・・」

「普通自転車でこけたら手や足を怪我するのに頭ってのはどんくさい証拠だ」


にやにやと先生は笑いながら話す。

「僕、口を開けて。べーってしてごらん」

「べ・・・・」

「もっと大きく！」

「べー」


「イーって行ってごらん」

「イー」

「エー」

「エー」


人差し指を立てて「じっーーーっと見るんだぞ」

「うん、頭の中に血が出てることはなさそうだな。どれどれ」

長男が痛いという頭を触る。

「痛い痛いっ！」

と騒ぐ長男に「まだ触ってないがな」と先生。

「痛いのはここだろ？」

とわざと長男のこぶを触る先生。

「痛い痛い！」

「じゃぁここは？ここは？」

「痛くない」



「そうだなぁ・・・・異常なし！だけど今日はまんがもゲームもパソコンも禁止。だけど宿題はどれだけしてもいいぞ！」

「えぇ～～～～？！」


長男の言葉をにかっと笑いながら聞いていた先生は、悲しそうな長男を見てポケットを探る。


「ほら、これ何かわかるか？」

針の付いていない注射器だった。

どこかの製薬会社でもらったのか薬の名前が書いてある。


「ほら、持っていきなさい」


ありがとうございますは！と私が言うと小さな声で「ありがとう・・・」

「ございました！」といいながら頭を下げさせようとするとすっと頭を素早く下げる長男。


こぶはこんなところで役に立った。


大騒ぎしたけれど、どこも異常なく健康体だと証明してもらって、宿題もどんどんしていいとお墨付きをもらって病院をあとにしました。

あぁ、人騒がせな長男だ！