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カテゴリ:連載小説
秋も深まり木々が紅葉するころから私は柏木圭太郎に刑法を 習いはじめました。 「いくら女の子だからといっても、教えるからには手心を加えない」 まずはじめに柏木はそう宣言しました。 いかにも学内きっての秀才らしい、しかし若者らしい潔癖さの あらわれた宣言でした。 大学の図書館の地下のカフェでふたりは丸テーブルをはさんで 向かい合い刑法の基本書をひろげました。 柏木のややえらの張った、ひきしまった顔の輪郭が 地下の明かり取り窓からさしこんでくる日ざしで逆光となって 影絵のようにうつりました。 その眼光の鋭さのなかに、やさしい、ぬくもりがあるのを 私は感じとっていました。 一見こわもてのようにうつっても、案外心配りの行き届いた 人物のように思えました。 たとえていえば、恋人に選ぶよりは、兄のように頼れる存在と して一目おいていたい漢(おとこ)でした。 ただの青白い秀才ではないということだけは私にも見て取れ たのです。
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Last updated
2006年04月18日 05時53分56秒
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