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カテゴリ:連載小説
2・26から4日目の2月29日になって未明に討伐命令 とやらが出て、 「下士官に告ぐ、今からでも遅くないから原隊へ帰れ。 抵抗する者は全部逆賊であるから射殺する。 お前たちの父母兄弟は国賊となるので皆泣いておるぞ」 ってラジオ放送が流れてねえ。 今でもその文句を私は空でも言えますわさ。 旦那、私も一緒になって泣きましたよ、もう。 それにしても、長橋の身が案じられましてね、 生きた心地もしませんでした。 もちろん、長橋になにかがあった時には、と覚悟は してはおりましたけれども、ええ、どんな覚悟だって、 そりゃあ、旦那、野暮天だねえ。 女には女の心構えってものがありますのさ。 たかが、芸者ふぜいでも、いえ、芸者ふぜいだからこそ やまとなでしこの道を、このからだで見せてやろうじゃ ないかえ。 私は、かねて長橋からあずかっていた短刀を、そう、 長橋家代々につたわる家宝の短刀を帯に差しており ましたのさ。 ざあっと、まあ、そんな覚悟ですがね、旦那、今じゃあ、 やまとだましい、なんてどこをさがしてもありゃあしません よね。 その短刀についちゃあ、また、のちに長橋の奥さんとの ややこしいいきさつがあるんですがねえ。 それは、さておいて、あっけなかったですね、動乱はついに 終わったってわけですよ。 まるで雪のように、いともあっけなく消えてしまいましたのさ。
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Last updated
2006年05月12日 09時00分03秒
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