あいうえお道場/職業訓練編

2007/01/28(日)21:20

あるホームルーム

創作文(7)

いいか、みんな。これまで生きてきて一番感動した音楽を、クラス全員に発表するんだ。教壇にミニコンポを置く。CD、MD、MP3、カセットテープ、と媒体はなんでもいいぞ。音楽機器を何も持ってなかったら、こっそりオレに相談しに来い。中学3年といえば、一番、音楽に影響されやすい年齢だ。センセイは15歳でジョン・レノンに出会ったばっかりに、勉強しなくなって、こうして君たちに勉強を教えるしかできない落第生になってしまったモンだ。 ジャンルは問わない。歌謡曲、クラシック、民謡、ロック、ジャズとなんでもいい。楽器が演奏できる者はじぶんでやってもいいな。それもまたオツなものだ。重要なのはその音楽によって君たちの魂がゆさぶられたことなんだ。その事実を披露することだ。 音楽は、嫌い?いい質問だ。なかには音楽が大嫌いな者がいるだろう。そういう人はもっとも嫌いな音楽を流してもいいし、そんなことをすると気分が悪くなるなら、話をするだけでいい。 あらかじめ、模造紙に説明を書いてきてもいいし、メモを用意して読み上げてもいい。PCを使いたい者がいたらパワポを貸してやるが、そんなものはいらんよな。己の感動をいかに聞き手に伝えるかが大事だ。時間はどうしようか。曲によって長さはさまざまだしな。制限は原則なしとするが、クラシックの場合は1章のみとする。こんなもんでいいかな。 センセイは何かって?それをオレも思い出していたところだ。中学3年だろ。クィーンの『ボヘミアン・ラプソディ』かな。まあ、聴いてくれ。 (時間の経過) それで、この曲を聴いてどんな気持ちになったのか、これを君たちに説明するのが実は難しい。鳥肌が立ったような気がした。勇気を与えてくれたことも確かだ。ひとりで家にいるときに大音量でこれをかけて大声で歌うんだ。音程が高すぎて声が出ないが声変わりする前はだいたい出たんだよ。それを今でもよく覚えている。自分でやってみて、この授業がけっこう難しいことがよくわかった。感動を他人に説明することの難しさ。それを君たちに金曜日のこのホームルームでやっていただきたい。「総合的な学習の時間」?いや、これはホームルームでやればいい。グループで話し合って模造紙に書いてどうする。その音楽家の歴史を調べる?こういうことは改まって勉強するようなことじゃないんだよ。これはみんなの前でいうことじゃないが、「総合的な学習の時間」なんていらないんだ。 君たちに大切なのは国語・算数・理科・社会。そして体育で体力をつけて給食で牛乳を残さずに食べて、掃除をして帰る、これでいい。もうな、「総合的な学習の時間」のおかげで教育現場は大混乱。父兄のみなさんも大変だよ。オレがこれからみんなとやろうとする「感動した音楽を紹介しあうこと」は特に改まった授業ではないが、それでも大事な教育の一端になるのではないかと思っている。ただ、1コマの授業にすることのほどでもないんだ。 どうだ、やってくれるか?金曜日は少々、帰りの時間が遅くなるが、けっこう楽しくいけるんじゃないか。

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