有効率94.5%、
モデルナ社のワクチン候補、
どこがすごい?
11/19(木) 18:12配信
ナショナル ジオグラフィック日本版冷蔵庫で1カ月保存可能、接種グループの重症患者はゼロの暫定結果
まだ初期段階ではあるものの、新型コロナウイルスワクチン開発の最前線から届くニュースが疲弊した世界に続々と希望をもたらしている。
ギャラリー:ケニア、スラム街の深刻な事態(コロナ各国の現場)
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https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/gallery/102101022/
米モデルナ社は16日、全世界が注目する最終治験の暫定的な分析結果を初めて公表し、94.5%の有効率が示されたと報告した。米ファイザー社と独ビオンテック社も18日、共同開発中のワクチン候補が「COVID-19の予防に95%の有効性を示した」という最終解析の結果を発表している。どちらもmRNAワクチンであることを考えると、遺伝物質であるmRNA(メッセンジャーRNA)を使った先端技術が、研究開始から数十年の歴史を経てようやく承認の段階に入ったことを示唆している。
米ヒューストンにあるテキサス子供病院ワクチン開発センターの共同センター長マリア・エレナ・ボタジ氏はこれらの発表を受け、11日に同様の暫定結果が公表されたロシアのワクチン候補も含めて、「科学は機能しているようだ」と述べている。「間違いなく、これらのワクチンは何らかの良い免疫反応を誘発しています」
モデルナが公表したのは一部のデータにすぎないが、競合他社より詳しい情報が盛り込まれている。具体的には、第3相試験に参加した3万人の人口統計学的情報を公開しており、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の発症が確認された95人についても一部のデータがある。
感染者95人のうち、データが公開されているのは、65歳以上の人や白人以外の民族的背景を持つ人といった、高リスクとされるグループの内訳だ。モデルナもファイザーと同様、感染を防ぐという第一目標は達成されたと主張している。ワクチン接種を受けたグループの感染は5人のみで、プラセボ(偽薬)群は90人だった。モデルナはさらに、重症度に関する情報も公開している。重症患者11人はすべてプラセボ群で、ワクチン群にはいなかった。
おそらく最も衝撃的なニュースは、モデルナのワクチン候補は2~8℃で30日間保存できるという別の発表だろう。普通の冷蔵庫や氷の入ったクーラーボックスで保存できる温度だ。この特徴はモデルナを優位に立たせるかもしれない。農村部や低所得国への大量供給が簡単になるためだ。
一方、ファイザーのワクチン候補はマイナス70℃で保存しなければならない。公衆衛生当局はこの条件から、特別な超低温フリーザーを用意できる豊かな国やコミュニティーのみにワクチンの供給が偏るのではないかと懸念している。ビオンテックのCEOウグル・シャヒン氏は9日、ロイターの取材に対し、同社のワクチンは冷蔵庫で5日間の保存が可能だとは説明している。
「新しい設備を用意する必要がない方が簡単ですよ」と、ワクチンのサプライチェーンを研究する米ニューヨーク市立大学の医療政策管理学教授ブルース・Y・リー氏は話す。「すでにサプライチェーンのさまざまなレベルで、ほかのワクチンに必要な冷蔵庫が用意されています」
秘密は特許技術にあり?
ロタウイルスやHPV(ヒトパピローマウイルス)用など、この10年間にいくつかの新たなワクチンが入手可能になり、多くの国がその大量な物流について貴重な経験を積んできた。ワクチンを供給するには、メーカーから輸送し、いったん拠点に保管して、冷蔵機能を持つトラックやオートバイで国や地域に分配しなければならない。
モデルナのワクチンが普通の冷蔵庫で長く保存できるのは、科学者たちが安定性を保つ方法を考え出したおかげだ。
米アイオワ大学の薬学部長アリアスガー・K・サレム氏によれば、秘密は“脂質ナノ粒子の戦略的な配合”だという。脂質ナノ粒子はワクチンの構造を支えるもので、人の細胞内に薬物を輸送する役割も果たす。モデルナの技術は特許で保護されているため詳細は不明だが、RSウイルスをはじめ、同社ではほかのウイルスのワクチンにも脂質ナノ粒子を使用しており、新型コロナウイルスワクチンに応用した可能性が高いとサレム氏は推測している。
ワクチンの安定性を高める方法はほかにもある。ワクチンを保存する液体に防腐剤を添加したり、時間経過や高温によるRNA鎖の劣化を防ぐため、脂質ナノ粒子の構造を微調整したりなどの手法だ。
複数種のワクチンが必要になる可能性も
このように普通の冷蔵庫で輸送、保存できるという利点はあるものの、モデルナのワクチンが勝者だと決めるのはまだ早い。人口統計学的な条件によって、ワクチンの効果が変化する可能性はある。つまり、現時点の最有力候補の両方が必要になることもあり得る。
「ワクチンの種類が、利用可能なサプライチェーンとワクチン接種を受ける人々に合っていることが極めて重要です」とリー氏は話す。例えば、ワクチンを届けるのが難しい人々(あるいは、2度の接種の2度目を受けない可能性がある人々)の場合、1度の接種で済み、効き目が長いワクチンを使った方が賢明かもしれない。
既存の冷蔵設備を活用するにしても、簡単にワクチンを供給できるわけではなさそうだ。ドイツの物流企業DHLは9月、たとえ普通の冷蔵庫を利用できたとしても、新型コロナウイルスワクチンに必要なコールドチェーン(低温物流)による供給を受けられない人が全世界で30億人に達するという試算を出している。
政府や公衆衛生当局がこれほど迅速かつ大規模な行動を迫られた前例がないことを考えると、サプライチェーンに遅れる部分が生じるのは不可避だとリー氏も述べている。「ある場所ではファイザーのワクチンが合っていて、ほかの場所ではモデルナのワクチンが合っているという状況になるかもしれません。しかも、開発中のワクチンはほかにもあります」
治験参加者の約10分の1に副作用
いずれにせよ、もっと多くのデータがなければそうした判断は下せない。このような暫定結果、さらには透明性の欠如への批判が高まる中、最初の歓喜と潜在的な懸念との間で板挟みになっていると専門家は不満を口にする。例えば、米メリーランド大学薬学部で医療薬学の准教授を務めるピーター・ドシ氏によれば、モデルナは感染者90人のうち11人を「重症」と判定しているが、この点についてほとんど説明がないという。
ドシ氏は全般的な懸念として、すべての新型コロナウイルスワクチン候補の臨床試験で「重症」という言葉の定義があまりに緩く、「合併症のない軽症を重症と見なすことも可能」だと指摘する。「これらの症例についてもっと詳しく知りたいところです」とドシ氏は述べ、ワクチン接種の是非を比較している消費者にとっては不可欠な情報だと補足した。
また、モデルナの分析によれば約10人に1人が疲労、筋肉痛といった副作用を訴えており、モデルナはこれらを重度の副作用、つまり日常の活動に支障を来す副作用と定義している。「たとえ効果の高いワクチンでも、もともとリスクが低い人々はこうした副作用を気にするかもしれません」
公衆衛生の専門家はワクチンの効果がどれくらい持続するのか、新型コロナウイルスワクチン候補の臨床試験にほとんど参加していない子供と妊婦にも有効かを知りたがっている。そうした疑問が明確になるまで、暫定結果は「次回予告」のようなものだと捉えるべきだろう。「最終データを待ちましょう」とボタジ氏は静観している。「査読を受けた論文が発表され、プレスリリースの背後にある科学が明らかになるまで待ちましょう」
これらの臨床試験が進んでいる最中に、もっと良い新型コロナウイルスワクチンが発表される可能性さえある。もしかしたら冷蔵庫をほとんどあるいは全く必要としないワクチンができるかもしれない。サレム氏によれば、現在、ファイザーの生化学者がワクチン候補の化学式を見直しており、保存温度の条件が緩和される可能性もあるという。「彼らは温度条件の緩和につながる粉末ワクチンに取り組んでいます。ただし、まだ開発途中ですが」
文=SARAH ELIZABETH RICHARDS/訳=米井香織
バイオテクノロジー企業モデルナが作成した新型コロナウイルスワクチンの治験プロトコル(実施計画書)ファイル。8月13日、米フロリダ州ハリウッドのリサーチ・センターズ・オブ・アメリカで撮影。(PHOTOGRAPH BY CHANDAN KHANNA)(PHOTOGRAPH BY CHANDAN KHANNA, AFP VIA GETTY IMAGES)
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「コロナ禍」はいつまで続く?
:2022年終息説ほかいくつかのシナリオCOVID-19による緊急事態宣言下の自粛要請はいずれ終わる。その出口は、早いか遅いかの違いで必ずやってくる。
本稿をまとめている2020年5月なかばにおいては、日本の39県ですでに緊急事態宣言が解除されており、残りの8都道府県でのみ継続中だ。遠からず感染の収束が確認されたら、すべての都道府県で解除されることになるだろう。
しかし自粛要請が終わったからといって、すぐにかつての日常が戻ってくるわけではない。当面、ぼくたちは、行動を変容させた「新しい日常」の中で、「コロナ禍」と付き合っていくことになる。
では、それはいつまでだろう。
答えは、多くの人が気づいているように、「最短でも1年以上」だ。
「ワクチンか画期的な治療薬が開発されて、広く使われるようになれば、究極的な解決、といえるかもしれません。でも、それには最短でも1年半から2年かかります。それに、ワクチンができない感染症も多いので、COVID-19のワクチンができる保証はないんです」
ワクチンができれば病気にかかることなく免疫をつけることができるので、ぼくたちは一気に集団免疫(herd immunity)を確立することができる。しかし、ワクチンの開発は、時間がかかるだけでなく、病原体によってはワクチンができないこともある。例えば、マラリアには効果的なワクチンがないし、2014年に日本で流行したデング熱も初回の感染より2度目の感染の方が重症化することがあり安全なワクチンの開発が難航している。COVID-19がそのような厄介な性質を持たず、ワクチンが十分な免疫を与えてくれるものだとしても、臨床試験(治験)を終えて、ゴーサインが出るのは1年以上先の話だろう。
また、よく効く治療薬が開発されて、COVID-19が「怖い病気」ではなくなれば、それも状況を一変させる力を持つだろう。しかし、既存薬の中にそのようなものがなければ、新しく開発される薬に期待するしかないし、それがうまく見つかったとしても、やはり慎重な臨床試験を経て承認されるので、それが市中の病院で安心して使えるようになるはずっと先の話だ。
「ワクチンや治療薬がなくても、最短で終息する場合の予測を2月15日にハーバード大学公衆衛生大学院の感染症疫学者、リプシッチ教授が連続ツイートしています(※1)。それによると、最短で終息する場合というのは、1年間で世界人口の40から70パーセントが感染して、集団免疫がついて、Rが1未満になって終息する場合です。1年以内に全世界の半分ぐらいの人が感染すれば終息すると。でもこれ、世界人口を考えたら、控えめに見ても900万人が死亡することになりますし、医療的対処の許容量を超える『オーバーシュート』
が起こるとIFRも上がるので、最悪5250万人が死亡という計算ができてしまうんですよ。とてもこれは受け入れられないので、Rを減らす努力を各国がしているわけです」
次ページ:2022年に終息でも早いほう
(※1)https://twitter.com/mlipsitch/status/1228373884027592704
ハーバード大学のリプシッチ教授のグループは、COVID-19の研究でも世界をリードするセンターの一つで、その後も様々な発信をしていくことになる。そして、もうひとつ世界的なセンターは、イギリスのインペリアル・カレッジ・ロンドンのファーガソン教授のグループだ。イギリス政府にとっての「専門家会議」の中枢を担い、こちらでも初期から力強く情報発信を続けている。専用の情報サイトに矢継ぎ早にレポートが発表されていくのは、実に心強いものだ。おまけに要旨については日本語を含む各国語訳まで準備されており、このグループの使命感、責任感の強さを感じさせられる。
「だから、やっぱり、希望としてはワクチンか治療薬なんですが、それが使えるまでには最短でも1年か2年はかかるだろうと思われるので、それまでなんとかもたせなきゃいけないって話なんですね。それをもたせるにはどうしたらいいかというのを、インペリのファーガソン教授のグループが、3月16日に報告した『レポート9』(※2) にひとつシナリオを載せています。それによると、対人接触を減らしたり、対人距離を開けるぐらいの緩和策だと、確実に感染爆発を起こす局面が出てきて、医療的対処水準を超えるオーバーシュートが起こってしまうんです。それを防ぐためにはどうしてもロックダウンに近いいくつかの行動抑制手段を組み合わせて、1~3 カ月の抑え込みを行えば、ある程度、新規感染者数を抑え込めて、でもそれをやめてしばらくたつとまた感染者数が増え始めるので、またロックダウンに近いことをやってというのを繰り返すと、医療崩壊を起こさずに1年か2年耐えられるというシミュレーション結果なんですよね」
どうだろうか。ものすごく気が長い話で、ため息が出る。日本では欧米の「ロックダウン」よりもかなり穏やかな準ロックダウンとでも言うべき状況にあるけれど、それでもこれを何度もやれというのはかなりしんどい。
なおファーガソン教授らのモデルで興味深いのは、学校閉鎖の効果の見積もりだ。
「インフルエンザのモデルをベースにしているので、ちょっと学校における子どもと子どもの感染を過大に見積もっている可能性があるんですが、それでも、学校閉鎖だけだと総感染者数は2パーセントしか減らないんです。学校に行かなくても、外に出て感染してきた大人が子どもに感染させうるし、子どもがコミュニティのなかで感染するリスクも上がるので、学校閉鎖だけだと効果が薄いということです。これは、3月に学校を全国で一斉休校にしたのを、僕が愚策だと評した理由の一つです。学校を閉鎖するなら大人も一緒にやる必要があります」
何度もロックダウンを繰り返すシナリオについては、ハーバード大学のリプシッチ教授のグループもインペリ・グループに引き続いて発表した(サイエンス誌4月16日 、プレプリントサーバーには3月7日)(※3)。それによれば、ICU病床の逼迫具合をトリガーにして『社会的距離戦略(論文中では学校や職場を閉じ、集会を禁止するなどの準ロックダウン的状況を想定)』の開始と解除を繰り返し、2022年までかけて集団免疫を獲得できることになっている。
本当に気が長い対処の日々が待っていそうな予感が、ひしひしとする。
次ページ:再生産数Rの分散の高さが考慮されていない
(※2)https://www.imperial.ac.uk/mrc-global-infectious-disease-analysis/covid-19/report-9-impact-of-npis-on-covid-19/
(※3)https://doi.org/10.1126/science.abb5793
再生産数Rの分散の高さが考慮されていない
それでは、こういうシナリオを日本に適用するとどうなるだろうか。
ハーバード大学や、インペリアル・カレッジ・ロンドンのチームの予測に比肩する能力を北海道大学の西浦博さんのグループも持っており、対策班の中では緻密な計算がなされているはずなのだが、それを論文として公表する余裕はなさそうだ。だから現時点では想像するしかなく、しかし現時点であまり不確実な想像を述べ立てるのはあまり健全なことではない。だから、感染症数理モデルを研究レベルで扱う「同業者」としての中澤さんから見て、最低限行われていることはどんなものか聞くに留める。
「インペリ・グループも、ハーバード・グループも、日本で重視していたRの分散の高さを考慮していないのが特徴です。単純に感染者の数や、ICU病棟の逼迫をトリガーにして、ロックダウン的な介入の開始と解除を繰り返すモデルを作っています。日本では、いったんクラスター対策の接触者追跡が機能しなくなったので、今、接触自体を減らすことになっていますが、また新規感染者を減らせばクラスター対策が有効になってくると対策班は考えているようですから、その効果を織り込んでいることは間違いないです」
3月以降、予想外の大流行を起こした欧米からの帰国者の効果もあってクラスター対策が機能しないところまで追い込まれたものの、再び落ち着いたら丹念な接触者追跡と、クラスター発生の予防をセットで行っていくというのが今のところ語られているシナリオだ。それによってRを1以下にできるなら、二度目の緊急事態宣言を避けられるはずだ。
さらに、なぜ8割減が必要なのかを補足した西浦さんのツイート(※4)などを見ていると、「接触を起こす属性別に再生産数を行列として計算し(次世代行列)、性的接触に介入できないことを想定、他のところで8割落ちたとして要素別に減少を加味、結果として固有値で与えられる再生産数の代表値が1を下回る、という理屈」に言及していて、相当、緻密なことをしている雰囲気だ。
ぼくなりにこのツイートを解釈すると、この場合、「クラスター感染しやすい人」と「そうでない人」では、感染のリスクが違い、つまり再生産数Rも違うから、別々のRを考えて式を立てる。そして、それぞれのグループ内だけでなく、相互の感染もあるからそれらについても、別のRを考えて式を立てる。というようなことをしていくと、それらを同時に表すためには行列を使う必要が出てくる。高校数学で行列を学んでいなければ謎の数式になるが、それをもとにコンピュータにガリガリと計算してもらって、どこのグループの接触がどれだけ減れば、感染を抑え込めるかシミュレーションしている、というふうだろうか。
次ページ:日本ではどうなる?
(※4)https://twitter.com/nishiurah/status/1248440487041622016
再生産数Rの分散の高さが考慮されていない
それでは、こういうシナリオを日本に適用するとどうなるだろうか。
ハーバード大学や、インペリアル・カレッジ・ロンドンのチームの予測に比肩する能力を北海道大学の西浦博さんのグループも持っており、対策班の中では緻密な計算がなされているはずなのだが、それを論文として公表する余裕はなさそうだ。だから現時点では想像するしかなく、しかし現時点であまり不確実な想像を述べ立てるのはあまり健全なことではない。だから、感染症数理モデルを研究レベルで扱う「同業者」としての中澤さんから見て、最低限行われていることはどんなものか聞くに留める。
「インペリ・グループも、ハーバード・グループも、日本で重視していたRの分散の高さを考慮していないのが特徴です。単純に感染者の数や、ICU病棟の逼迫をトリガーにして、ロックダウン的な介入の開始と解除を繰り返すモデルを作っています。日本では、いったんクラスター対策の接触者追跡が機能しなくなったので、今、接触自体を減らすことになっていますが、また新規感染者を減らせばクラスター対策が有効になってくると対策班は考えているようですから、その効果を織り込んでいることは間違いないです」
3月以降、予想外の大流行を起こした欧米からの帰国者の効果もあってクラスター対策が機能しないところまで追い込まれたものの、再び落ち着いたら丹念な接触者追跡と、クラスター発生の予防をセットで行っていくというのが今のところ語られているシナリオだ。それによってRを1以下にできるなら、二度目の緊急事態宣言を避けられるはずだ。
さらに、なぜ8割減が必要なのかを補足した西浦さんのツイート(※4)などを見ていると、「接触を起こす属性別に再生産数を行列として計算し(次世代行列)、性的接触に介入できないことを想定、他のところで8割落ちたとして要素別に減少を加味、結果として固有値で与えられる再生産数の代表値が1を下回る、という理屈」に言及していて、相当、緻密なことをしている雰囲気だ。
ぼくなりにこのツイートを解釈すると、この場合、「クラスター感染しやすい人」と「そうでない人」では、感染のリスクが違い、つまり再生産数Rも違うから、別々のRを考えて式を立てる。そして、それぞれのグループ内だけでなく、相互の感染もあるからそれらについても、別のRを考えて式を立てる。というようなことをしていくと、それらを同時に表すためには行列を使う必要が出てくる。高校数学で行列を学んでいなければ謎の数式になるが、それをもとにコンピュータにガリガリと計算してもらって、どこのグループの接触がどれだけ減れば、感染を抑え込めるかシミュレーションしている、というふうだろうか。
次ページ:日本ではどうなる?
(※4)https://twitter.com/nishiurah/status/1248440487041622016
中澤港(なかざわ みなと)
1964年、東京都生まれ。神戸大学大学院保健学研究科パブリックヘルス領域/国際保健学分野教授。神戸大学大学院国際協力研究科教授を兼務。博士(保健学)。専門分野は公衆衛生学、国際保健学、人類生態学、人口学。1988年、東京大学医学部保健学科を卒業後、同大学院医学系研究科保健学専攻に進み、1992年に博士課程を中退して同人類生態学助手に就任。在任中に論文博士を取得し、山口県立大学看護学部助教授、群馬大学大学院医学系研究科助教授などを経て、2012年より神戸大学大学院保健学研究科教授を務める。『人間の生態学』(朝倉書店)『わかる公衆衛生学・たのしい公衆衛生学』(弘文堂)などの共著では感染症の章を担当した。日誌的なメモ「鐵人三國誌」やツイッターアカウント@MinatoNakazawaでもCOVID-19を読み解くヒントを発信している。
川端裕人(かわばた ひろと)
1964年、兵庫県明石市生まれ。千葉県千葉市育ち。文筆家。小説作品に、肺炎を起こす謎の感染症に立ち向かうフィールド疫学者の活躍を描いた『エピデミック』(BOOK☆WALKER)、夏休みに少年たちが川を舞台に冒険を繰り広げる『川の名前』(ハヤカワ文庫JA)、NHKでアニメ化された「銀河へキックオフ」の原作『銀河のワールドカップ』(集英社文庫)とその“サイドB”としてブラインドサッカーの世界を描いた『太陽ときみの声』『風に乗って、跳べ 太陽ときみの声』(朝日学生新聞社)など。
本連載からのスピンアウトである、ホモ・サピエンス以前のアジアの人類史に関する最新の知見をまとめた『我々はなぜ我々だけなのか アジアから消えた多様な「人類」たち』(講談社ブルーバックス)で、第34回講談社科学出版賞と科学ジャーナリスト賞2018を受賞。ほかに「睡眠学」の回に書き下ろしと修正を加えてまとめた『8時間睡眠のウソ。 日本人の眠り、8つの新常識』(集英社文庫)、宇宙論研究の最前線で活躍する天文学者小松英一郎氏との共著『宇宙の始まり、そして終わり』(日経プレミアシリーズ)もある。近著は、「マイクロプラスチック汚染」「雲の科学」「サメの生態」などの研究室訪問を加筆修正した『科学の最前線を切りひらく!』(ちくまプリマー新書)
ブログ「カワバタヒロトのブログ」。ツイッターアカウント@Rsider。有料メルマガ「秘密基地からハッシン!」を配信中。
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コロナの変異が希望に?
「第3波が最後」の可能性はあるか
11/19(木) 16:05配信
NEWS ポストセブン「Go To トラベルを利用して北海道旅行を計画していたのですが、感染者が急増しているので大事を取って旅行をやめることにしました」(50代男性会社員)
冬が近づき、北海道では新型コロナウイルスの感染者が拡大。東京では11月18日に確認された感染者が493人で過去最多となり、さらに同日の全国での感染者数も2058人で過去最多となった。
各自治体は危機感を募らせる。宮城県は県独自の緊急事態宣言を出す可能性を示唆し、神奈川県は患者の受け入れ態勢の拡充を求める「医療アラート」を11月14日に発動した。これから年末にかけて不安が増すばかりだ。
「お正月は久しぶりに娘を連れて実家に帰省するつもりでしたが、高齢の両親のことを考えるとやめた方がいいのでしょうか。コロナはいつまで続くのか……」(40代主婦)
全国各地であれよあれよと感染者数が増えていく状況に、日本医師会の中川俊男会長は11月11日、「第3波と考えていい」との認識を示した。国際医療福祉大学病院内科学予防医学センター教授の一石英一郎さんが感染拡大の理由を指摘する。
「新型コロナはインフルエンザと同様に気温や湿度が下がるとウイルスが活性化するとされます。また第2波が落ち着いた安堵感で、基本的な3密対策やマスク着用、うがい・手洗いなどが疎かになった可能性もあります」
急激な感染拡大は、ウイルスの「変異」によるものという研究がある。東京大学医科学研究所などの研究チームがウイルスに感染させたハムスターで実験したところ、変異型のウイルスは従来型の3~8倍も感染力がアップしたと、この11月中旬に発表。また、従来型よりも人の細胞やハムスターの体内でウイルスが増えやすいことも確かめたとしている。
「現在はその変異型ウイルスが蔓延している可能性があります。ただしこの変異型は感染力こそ強くなったものの、重症度や毒性には影響しないようです」(一石さん)
それでも感染者数が増えれば、入院患者数も増える。すると医療資源が逼迫し、医療崩壊を招く恐れがある。血液内科医の中村幸嗣さんが言う。
「日本の救急医療や重症患者用の病床は非常に少ないうえ、冬場は心筋梗塞や脳卒中の患者が増加する傾向があります。ただでさえ病床が逼迫する冬場に新型コロナの患者が大幅に増加すると、脳卒中などの急患を受け入れられない可能性があります」
一方で、ウイルスの変異がひとつの希望をもたらすことはあまり知られていない。コロナウイルスの周囲には、人間の細胞にくっついて影響を与える「突起(スパイク)」がある。そのスパイクが変異することで、ウイルスは伝播や増殖がしやすくなる。
遺伝子変異分野のプロである京都大学大学院特定教授の上久保靖彦さんは、本誌・女性セブン2020年9月24日・10月1日号にこう指摘していた。
《新型コロナのスパイクが変異可能な数は最大で12~14で、ひと月に1回ほどの頻度です。(中略)S型(※最初に中国で発生した先祖型で“弱毒タイプ”。2019年12月から世界に広がった)が始まったのが昨年12月なので、今年の11月には最後の変異を終えて、その後消失し、ただのコロナウイルスになります。それはコロナウイルスのメカニズムで決まっていることなのです》
コロナウイルスは性質上、変異できる回数がおおよそ決まっているとの見解だ。そうだとすれば今回の変異が最後となり、人類に大きな危害を加えない「普通の風邪」になると考えられるのだ。「第3波」はコロナの“最後の悪あがき”かもしれないのだ。
※女性セブン2020年12月3日号
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大阪コロナワクチン
「来春以降」 吉村知事、
見通し修正
11/19(木) 17:42配信
共同通信大阪府の吉村洋文知事は19日、大阪大発の製薬ベンチャー「アンジェス」が開発中の新型コロナウイルスのワクチンについて、効果と安全性が認められた場合の接種開始は「来年春から秋ごろになると聞いている」と記者団に述べた。これまでは「年内に10万~20万人に打つ」と語っていたが、治験の進捗状況を踏まえて修正した。
府と大阪市は今年4月に、大阪大や大阪市立大の運営法人、府立病院機構などと協定を結び、ワクチンや治療薬の開発に関する情報共有を進めている。吉村氏は夏ごろまで、アンジェス創業者の森下竜一大阪大教授の説明を基に「9月に実用化する」などと発言していた。
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大阪発のワクチン
有効性が認められば“
500人規模の臨床試験”実施へ
11/19(木) 10:32配信
MBSニュース11月18日、新型コロナウイルスのワクチン開発を進めている大阪大学の森下竜一教授が、500人規模の臨床試験に入ることを明らかにしました。
大阪大学の森下竜一教授が創業した製薬ベンチャー「アンジェス」は、新型コロナウイルスワクチンの開発を進めていて、これまでに2つの臨床試験を終えています。
11月18日に森下教授は、これまでの臨床試験で安全性は確認されているとして、年内に結果を発表する考えを示しました。また、これまでの臨床試験の結果からワクチンの有効性が認められれば、500人程度を対象にした臨床試験に入ることを明らかにしました。
(大阪大学寄附講座 森下竜一教授)
「ハイリスクの高齢者が一番ワクチン接種が必要だということを考えれば、安全で、副作用ができるだけ無くて、有効性の高いもの、こういうのが一番望ましいだろうと思います。」
森下教授は早ければ来年春以降の実用化を目指したいとしています。
MBSニュース
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新型コロナワクチン、
モデルナ製とファイザー製を
どう使い分ける?
11/19(木) 17:37配信
ニューズウィーク日本版<ファイザー製は扱いが極度に難しいので都市限定になるかも>
バイオ企業モデルナが開発している新型コロナウイルスのワクチンは、製薬大手ファイザーのワクチンと比べて保管、輸送、接種が簡単なため、アメリカで認可され、配布が始まった場合「はるかに有利」になると、専門家はみている。【カシュミラ・ガンダー】
【動画】無重力ががん細胞を無力化する
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https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2019/12/2020-14_2.php
ファイザーは11月9日、ドイツの製薬企業ビオンテックと共同で開発中のワクチンについて、大規模な臨床試験で90%発症を防ぐ効果が認められたと、中間分析の結果を発表した。1週間後の16日、モデルナは自社のワクチンの治験で94.5%の有効性が確認されたと発表。さらに18日、ファイザーは最終分析の結果、95%の有効性が認められたと発表した。
いずれも報道機関向けの発表にすぎず、正式な論文が同分野の専門家の査読を経て学術誌に受理されたわけではない。そのため専門家はこれでコロナ禍が収束すると喜ぶのは時期尚早だと釘を刺している。ファイザーは既にデータは出そろったとして、早急に米食品医薬品局(FDA)に認可申請を行う予定だ。アレックス・アザー米厚生長官はファイザーとモデルナのワクチンをスピード認可し、年内にも国内で配布を開始する考えを示している。
感染封じ込めへの期待が高まる一方、ワクチンの流通については大きな問題が残されている。ファイザーのワクチンはマイナス70度の「超低温」、モデルナのワクチンもマイナス20度で保管しなければならない。いずれも温度変化に弱く、劣化しやすいmRNAという遺伝物質が入っているためだ。冷蔵庫で最長1年間保存可能なインフルエンザワクチンと違って、輸送にも保管にも厳密な温度管理が求められるのだ。
<クリニックでの保管は無理>
それでも、モデルナのワクチンはファイザーのワクチンに比べれば、はるかに取り扱いやすいと、サウスカロライナ大学のプラカシュ・ナガルカッティ教授(専門は免疫学)は本誌に語った。
ファイザー製ワクチンの品質維持に求められる条件は「極端に厳しい」と、テネシー大学のトーマス・ゴールズビー教授(専門は物流管理学)も言う。「モデルナのワクチンは、いざとなったらアイスクリームや冷凍食品用の業務用冷凍庫でも保管できるが、ファイザー製はそうは行かない」
ファイザーは超低温でワクチンを運べるスーツケース大のコンテナを開発したが、コンテナには大量のドライアイスを入れなければならない。ゴールズビーによると、ドライアイスは世界的に供給不足が続いていて入手困難だ。
また、ガラス容器に入れたワクチンをコンテナに詰めるなら、「ガラスが超低温に耐え得るかどうかも問題になる」と、ナガルカッティは言う。
こうした問題をクリアして、ファイザー製ワクチンを特製コンテナに詰めて輸送できたところで、超低温の冷凍庫は非常に高価で、大病病院でも購入は難しい。地方の小さな町のクリニックなどで接種するとなれば、ワクチンの安定性を保つのはほぼ不可能だと、ナガルカッティはみる。
<迅速な政権移行が不可欠>
一部の州・市当局や大病院は、どうにか予算を捻出して、超低温冷凍庫の導入を急ごうとしているが、現状の生産体制ではメーカー側は急増する注文に応じられそうにない。納期はかなり先になるとみられ、それまでの保管方法については今のところ解決策はないと、フェアリー・ディキンソン大学のジュリー・カラバリクホガンソン准教授(専門は薬学)は本誌に明かした。
こうした事情があるため、ファイザーのワクチンは都市部に配布されるにとどまり、地方ではモデルナのワクチンが投与されることになるだろうと、ナガルカッティはみる。
モデルナのもう1つの利点は、病院やクリニックで希釈など特殊な処理をする必要がないことだと、カラバリクホガンソンは言う。「薬局やクリニックでも比較的簡単に投与できる」
ワクチンの普及についてファイザーの広報部門にコメントを求めると、病院などでの保管にはさまざまなオプションがあるので、「インフラがどうあれ、あらゆる地域で公平に入手できるはずだ」との回答が返ってきた。
いずれにせよワクチンの配布は手間取りそうだ。その大きな理由として、ドナルド・トランプ大統領がいまだに大統領選での敗北を認めていないことがある。このままではジョー・バイデン率いる次期政権チームへの引き継ぎ作業はスムーズに進みそうもない。
「ワクチンの導入と政権移行がこれほどまずいタイミングで重なったのは前代未聞だろう」と、ナガルカッティは言う。「円滑に職務が引き継がれ、配布が実施されるよう、現政権がバイデン・チームに協力することが不可欠だ」
<当面は基本的な感染対策を>
ジョンズ・ホプキンズ大のウィリアム・モス教授(専門は疫学)は、超低温の冷凍庫に加え、注射針や注射器も品薄になり、各州当局の間で奪い合いになることが予想されると、本誌に語った。「だからこそ、連邦政府が強力な対応が必要だ」
モスによれば、ワクチンが認可されても接種までにはいくつものハードルがあるため、当面はマスクの着用、社会的距離の確保、こまめな手洗い、大勢の集まりを避けるなど基本的な感染対策を続ける必要がある。
「人口のかなりの割合にワクチンが接種され、発病だけでなく、感染も防げることが確認されるまで」油断は禁物だと、モスは言う。
「それには何カ月か、ひょっとするとそれ以上待たねばならない」
◆
世界のワクチン開発競争に
日本が「負けた」理由
WHY JAPAN LOST THE VACCINE RACE
2020年11月17日(火)16時50分
広野真嗣(ノンフィクション作家)<ファイザーとモデルナのワクチン治験が最終段階に入るなか、日本がワクチン開発競争に出遅れたのは必然だった。キーパーソンへの取材で見えてきたこの国の障壁とは>
新型コロナウイルスのワクチン開発で、日本はなぜ出遅れたのか。開発の先頭集団を走る欧米や中国の製薬企業は臨床試験の最終段階の途上にあり、早ければ10月末にも試験の結論を得て年内承認の可能性もある。対する日本はといえば1社が第1/2段階に進んだが、多くの臨床試験入りはこれからだ。
日本政府の姿勢は「海外頼み」に映る。米国のファイザーとモデルナ、英国のアストラゼネカとの間で計2億8000万回分の購入について基本合意に達するか、あるいは交渉を進める。その調達のための、6714億円という巨額の支出はあっさり閣議決定された。
健康被害の責任は日本側が負うという、海外メーカーの条件も丸のみを強いられた。だが、なぜ最初からそんな不利な状況に追い込まれているのか――。
国内で開発の先頭を走るバイオ製薬企業アンジェスの創業者、森下竜一と会ったのは9月初旬のこと。森下は医師で大阪大学寄附講座教授でもある。都内のホテルで会うと、諦めと不満を口にした。
「国産ワクチンを買い取ると政府が先に表明していれば、海外勢から価格を引き下げたり好条件を引き出したりする交渉ができたはずなのに」
森下は25年近く血管疾患の遺伝子治療に身をささげた第一人者で「アメリカと対等に研究や治療を」という意欲的な研究姿勢を貫いてきた。血管を新生させる因子の遺伝子情報をプラスミドと呼ばれるDNA分子に書き込んで培養したアンジェスの遺伝子治療薬は昨年春、苦労の末、国内初の承認にこぎ着けた。
プラスミドに新型コロナの遺伝子情報を書き込んで開発したのが、アンジェスの「DNAワクチン」だ。「仮に米企業に量産化のめどが立たなければ、日本への輸出を渋ったかもしれない。ワクチンを開発も輸入もできない国は、経済再開の道筋を見いだせない。国の『生死』をワクチンが握る。それほどの戦略物資だ。そう繰り返しているが日本は政府も企業もなかなかピンときていない」
コロナ禍が始まって10カ月、第2波のピークが過ぎた頃から急に、ワクチンに注目が集まり始めた。「ワクチン賠償 国が責任/海外製薬から調達促進」と見出しを打った記事が日経新聞朝刊の1面トップに出たのは8月20日。健康被害の賠償責任を免じることでより多くの供給を海外製薬企業から引き出す、という内容は、来夏の五輪に向け地ならしを急ぐ政府の観測気球と見えた。
記事は「国内勢も開発中だが実用化は海外勢より遅く量も乏しい見込み」という見立てを前提としていたが、私は何か釈然としなかった。日本の新型コロナの人口100万人当たりの死者数は13人程度。600人以上になる英国や米国、そして100人超のドイツと比べて抑えている。国民の自粛の苦しみがあってこそのことだった。
ところが今度は、抑え込みに失敗した欧米の製剤を多額の税金で買わされる。なぜこうなったのか。日本に何が欠けているのか、それを知ろうと取材を始めた――。
インタビューを通じて、森下が歯ぎしりしていた相手は、米国だった。「軍が民間と一緒に積み上げてきたものがあって、日本とは全然違う」
念頭にあるのは、世界の開発競争の先頭を走る米バイオ企業モデルナのmRNAワクチンだ。モデルナは生物学者デリック・ロッシが2010年に創業し、14年からワクチン開発に参入した。新型コロナ禍が発生すると、今年3月半ばにはもう臨床試験を開始していた。
「ワープ・スピード」を掲げるトランプ政権の支援は桁違いで、モデルナには保健福祉省の生物医学先端研究開発局(BARDA)経由で9億5500万ドルの補助金を出し、1億回分を15億2500万ドルで買い取る契約を結んだ。ただ、ここまではコロナ禍が起きてからの支援で、森下が言う「積み上げてきたもの」は別にある。
8月下旬、ワシントン・ポストなどがモデルナについて興味深い情報を報じた。ワクチン開発で「ある機関」から2460万ドルの支援を受けていながら、特許申請に際してその報告義務を怠ったという内容だ。ある機関とは、国防総省傘下の防衛先端技術研究計画局(DARPA)。創業3年目の13年の段階で、mRNAワクチン等の開発でDARPAの補助を受けていた。
その点について森下に問うと、こう答えた。「mRNAワクチンというのは、軍が関与して開発されてきた『お買い上げ物資』だ。派兵地で感染症が起きたらすぐに兵に接種させる」
確かに4隻もの米空母で集団感染が相次いだのは記憶に新しい。加えて、mRNAワクチンやDNAのワクチンが軍に適しているのには、理由があるのだという。
森下によればこれらのワクチンでは、抗原タンパク質の遺伝子情報をRNA(リボ核酸)やDNAに組み込んで注射する。細胞内で抗原タンパク質が合成され免疫反応が誘導される仕組みだ。製造過程での感染リスクが低く、遺伝子情報さえ分かれば1カ月前後で開発でき、化学薬品と同じ要領で化学合成を通じて量産できる。ただし投資をすれば、設備には維持管理の経費がかかり始める。
森下が続ける。「企業側も製造工程を一度つくると、流行がない限り赤字で補助金頼みになる。米軍は毎年数千万ドルをこうしたバイオ企業にばらまき、平時から多様な様式のワクチンを確保してきた。臨床試験の第1、2段階くらいまで進めておけばよく、いざパンデミック(世界的大流行)が起きたら、種の近い病原体のワクチンを応用して最短で大量生産・投入できる」
確かに、モデルナの創業者ロッシは今春、14年以降、現在までに鳥インフルエンザなど7つの感染症のmRNAワクチンで臨床試験に入っているとメディアの取材に答えている。今回の見事なワクチン供給は、科学者の知性の差というより国家の安全保障投資の差なのだ。
「戦略物資」とする視点から森下は「新たなワクチン同盟圏ができつつある」と予想した。共産党創100年を来年に控える中国はアフリカや東南アジアに次々とワクチン提供を申し出て一帯一路圏への影響力を誇示した。ロシアが臨床試験の終了を待たずにワクチンを承認したのは、経済停滞下での起死回生策と映る。フィリピンのロドリゴ・ドゥテルテ大統領は中ロ双方に秋波を送るなどしたたかだ。
「渡航制限を緩和するなら、同じワクチンを使う国から始めるのは合理的だから、そこから世界が改めて色分けされていく可能性もある。同盟国でも、ワクチンを打っていなければ合同軍事演習もできない」
そう言う森下は日本にはワクチンの戦略が欠けているとみる。「自国分の開発に躍起のアメリカも、物量に余裕ができれば次第に中国と同じことをやり始める。日本もワクチンが増えれば、新幹線や原子力に代わる外交上の武器になるのに」
次に会ったのは、防衛省防衛研究所の社会・経済研究室長、塚本勝也だ。まだ機密の多いDARPAについて、数冊の専門書の書評を書いていた。塚本はこの組織のルーツが米国の「技術敗戦」の反省にある点から解き明かした。
「きっかけは1957年のスプートニク・ショックだ。ソ連に人工衛星打ち上げの先を越され威信を失ったアメリカは、翌年に前身のARPAを置き、後に軍事に領域を絞ってディフェンスのDがついた。冷戦終結で脅威は核から生物化学兵器に移り、ワクチンの重要性が高まった」
91 年の湾岸戦争終結後、イラクが生物化学兵器を製造していた痕跡が見つかった。95年に日本で地下鉄サリン事件を起こしたオウム真理教は、93年に炭疽菌を屋外で実験的にまいていた。01年の9・11 同時多発テロ直後には炭疽菌を使ったテロで米国に死者が出た。
危機感を強めた米軍は自らワクチン開発への関与を始める。注目された新しい技術が、RNAやDNAのワクチンだったことは先に触れた。
「注意がいるのは、従来のワクチンに比べ免疫反応が長続きしない可能性があること。当面の作戦に間に合う期間だけ免疫反応が一時的に上がればいい、という発想がある。そうした軍需由来のワクチンが民生用として適しているかどうか」
さらに危ういのは、そのワクチンの短期的な成功が軍事以上に国際政治に影響する点だと、塚本は言う。
「米国が中国の知的財産窃取を問題にするなか、中国が成功すれば国家の沽券(こけん)を示すことになる。これを新たなスプートニクとする見方もある。個人的な見解だが、これと向き合う民主主義の国は、国家の沽券で安全性を犠牲にしていいのか」
軍事・外交上の果実を重くみるほど、ワクチンの安全性への配慮が後景に退きかねない、という警鐘だ。
ワクチン研究は、芽が出るかどうか見えずとも感染症が来た「その時」に向けて必要不可欠な投資だ。
現実に死地に兵を送り出し感染症のリスクにさらしてきた米国は、丸損になる可能性を踏まえてもなお、準備に資金を投じてきた。戦争を米国に委ねている日本で、政治はこうした備えへの投資を決断できるのか。
日本がワクチン開発で出遅れた理由について国立感染症研究所所長の脇田隆字に問うと、こう答えた。「この20年間を振り返れば、新型コロナを含め繰り返し新興・再興感染症が起きているのに警戒感は維持されなかった。『日本はなんとかなるだろう』と。でも今回の反省があって変わらなかったら、よほど鈍感ということになる」
鈍感だったのは誰なのか。09年に新型インフルエンザが流行した際、麻生太郎政権は海外から大量のワクチン輸入を進めた。後に余ると、同年8月の総選挙で野党に転じていた自民党議員がこれを批判した。
翌年6月、専門家による新型インフルエンザ対策総括会議は「ワクチン製造業者を支援し(略)生産体制を強化すべき」と結論付けた。インフルエンザワクチンの集団接種がなくなった80年代以降、接種率が低下し、国内の生産力は衰えていたからだ。
縮小市場に対し、政府の資金的支援が必要だったが実際に行われたことは逆だった。脇田が振り返る。「日本にも国立研究機関における基礎研究と民間企業の開発研究を資金的に橋渡しする厚生労働省外郭の財団はあった。しかし民主党政権の事業仕分けでやり玉に挙がってしまった。米国のような研究開発のサポートの仕組みはその後も不十分だ」
備えへの投資については、自民党も民主党も真剣さを欠いていた。将来を見据えるどころか、その場しのぎのパフォーマンスをしていたのだ。
そして09年にも20年にも、同盟国が戦略物資として融通してくれる、という甘えはなかったか。自国優先主義が跋扈(ばっこ)するトランプ後の世界でもそれで国民を守れるだろうか。現実的に考えてワクチンは万能ではないし、開発を急ぐために安全性が犠牲になってはいないか。
脇田は国産ワクチンの価値を強調した。「遅いと言われてきたが、早ければ年内には臨床試験に入る。従来でいえばワープ・スピードに近い速さで、安心なワクチンができる。確立された技術を使った開発だから」
不活化ワクチンを開発中の、明治HD傘下のKMバイオロジクスは早ければ11月から、組み換えタンパクワクチンを開発中の塩野義製薬は年内には臨床試験を始める予定だ。
「高齢者や基礎疾患がある人には、できるだけ早く届くRNAワクチンやアデノウイルスベクターワクチンを接種してもらう。一方で、新しいワクチンによる未知の副反応を心配する人もいる。そういう懸念があれば、国産のワクチンを使うことができるという選択肢が重要になる」
ワクチンを避ける人も出るなかで、ウイルスの根絶は不可能だ。それでも対コロナの国家戦略の中で、ワクチンという物資の価値を見定めなければ、備えの欠如に右往左往する愚が繰り返されることになる。
<2020年10月27日号掲載>
【関連記事】ワクチンはコロナ対策の「最終兵器」ではない──国立感染研・脇田所長に独占インタビュー
【関連記事】日本人が知らない新型コロナワクチン争奪戦──ゼロから分かるその種類、メカニズム、研究開発最前線
◆
日本人が知らない新型コロナワクチン争奪戦
──ゼロから分かるその種類、メカニズム、
研究開発最前線
AN UNPRECEDENTED VACCINE RACE
2020年10月20日(火)17時00分
國井 修(グローバルファンド〔世界エイズ・結核・マラリア対策基金〕戦略投資効果局長)
◆
治療薬「来月末にも市場投入へ」
韓国大統領
11/19(木) 14:13配信
日本テレビ系(NNN)韓国の文在寅大統領は、国内で開発を進めている新型コロナウイルスの治療薬について、早ければ来月末にも市場に投入できるとの見通しを示しました。
文在寅大統領「早ければ今年末から抗体治療薬と血しょう治療薬を市場に投入することができるでしょう」
これは文大統領が18日、韓国のバイオ関連企業などとの会合で明らかにしたもので、新型コロナ向けの2種類の治療薬が、早ければ来月末にも使用可能になるということです。
開発メーカーの1つは、「臨床試験は今月中に終了し、来月、緊急使用の承認手続きを始める」としています。
また、韓国の保健当局は国内での新型コロナ向けのワクチン接種について、来年秋以降を目標にしていると明らかにしました。
国外のメーカーなどから、まずは人口の6割にあたる3000万人分を確保するとしていますが、調達先はまだ確定しておらず、具体的な接種方針が決まるまで、まだ時間がかかるものとみられます。
★★★
J-COM関係ドタバタ関連早見表 (2018.06/18現在)
★
2017.08.08
J-COMの申し込み画面から
WOWOWに加入申し込みしてみた。
そりゃあもう大騒ぎさ!
2018.05.09
J-COMのチャンネルの一部が
番組表から消えた?!
(5/28一部訂正と大切な追記あり、6/1にそなえて)
2018.05.10
J-COM TVの番組表に
『102』などのサブチャンネルが
表示されない?件
2018.06.02
チラシの通りにやったんだけど
映らないよっ!の皆さん。
これやってみて。
J-COM放送休止後
★★
★
2019.10.24
NHKドキュメンタリーBS1スペシャル
▽バレエの王子になる!“世界最高峰”
ロシア・バレエ学校の青春
/NHKオンデマンドやNHKワールド
(バレエ王子誕生)以外での視聴方法は?
2019.12.10
『バレエの王子になる』のアーロン君
★デビューおめでとう🎉🎉🎉
〜くるみ割り人形から中国の踊り〜
/キリル君も?
2020.01.01
私は何処? by キリル 『くるみ割り人形』
2020.01.26
くるみ割り人形のボリショイ劇場の初日でした。。
キリル(『バレエの王子になる!』)
2020.02.25
キリル:白鳥の湖から @bolshoi_theatre
★★
2020.10.11
韓流ドラマ
『宮廷女官チャングムの誓い』
『イ・サン』に関する
私のための資料。ネタバレ注意
2020.10.09
韓流ドラマ『トンイ』と
華流ドラマ『大明皇妃 -Empress of the Ming-』
を見るにあたっての資料。ネタバレ注意
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