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テーマ:小説日記(233)
カテゴリ:[ものかきさんに100のお題。]
「ハル!ハル!大変!」
バタバタと駆け込んで来たのは、さっきお使いに出したばかりのコリィだ。今日は随分帰りが早い。いつもなら途中で必ず道草くってくるはずなのに。 ああ、それにしても相変わらず、猫だっていうのに足音も煩いし、騒々しいったら。 「ここだよ、何?」 僕は歯を磨きながら、玄関兼、台所兼、居間である部屋を、ぐるぐると走り回るコリィに返事をしてやった。コリィは、勢い余って滑り落ちそうになりながらも、僕の目の前、洗面台の上に飛び乗った。 「ハル!大変なんだよ!」 「だから、何?」 「男の子!男の子だよ!」 「ほら、鏡が見えないよ。それに、もうちょっと落ち着いて喋ってくんなきゃ、何を言ってるのかわかんないだろ」 コリィは、はぁ、ふう、と深呼吸を3回して、言った。 「雨ふらしの森に、男の子がいたんだ。爺さんの所!」 「爺さんじゃなくて『お爺さん』。で?その男の子が何?」 「だからぁ!あの爺さん、いなくなっちゃったんだってば!」 僕は、歯を磨いていた手をぴたりと止めた。それがホントなら……たしかに大変な出来事だったからだ。 「オレ、森に入った時から、ちょっと変だなって思ってたんだ。雨の匂いが違ってたからな」 コリィはちょっと得意げにヒゲをぴくぴく動かしてみせた。 雨ふらしの森には、僕と仲の良かったお爺さんが住んでた。僕がここへ来てからだから、2年とちょっとの付き合いだったけど、色んな事を教えて貰ったし、優しくして貰った。僕はよく雨ふらしの森に出かけては、お爺さんの煎れてくれたホットミルクを飲みながら、いろんな不思議な話を聞くのがとても好きだった。 そのお爺さんは、半年ほど前から具合があまりよく無くて、寝込む事が多くなってた。お爺さんの仕事は森に雨を降らせる事だったけれど、それさえも随分大変だったんだろうと思う。だんだんあの森に、雨の降らない日が増えてたから。 僕に何か手伝える事でもあれば良かったんだけど、雨の降らし方は僕にはわからないし、僕にもやらなくちゃならない仕事があった。出来る事と言えば、せいぜい街へのお使いを代わってあげる事ぐらいだったんだ。 僕は、寝巻きのまま、居間のカウチに寝転んだ。コリィもひじ掛けに飛び乗ると、そこで寝そべったまま、僕の様子を伺っている。 「僕に、教えてくれなかったんだ…居なくなっちゃうの」 こんな日が、そう遠くないうちに来るって事は、僕もなんとなくは分かってはいた。でも、こんなに急で、しかも何も言ってくれなかったなんて。 胸が、きゅう、と掴まれたような苦しい感じ。もう、お爺さんに会えない。あの優しい声で、物語りを聞かせてくれる事もない。 目尻から、ぽろりと涙がこぼれた。コリィが、僕の胸の上にやって来て、ざらりとした舌でそれを拭ってくれた。 ************************************** 最初、テーマを「ショートショート」にしてたんですが、小説の方がいいかなと、「小説日記」にテーマを変えちゃいました。 ゴメンナサイ~! お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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