年間第6主日《A年》75 神よあなたのことばは 【解説】 詩編119は、すべての詩編の中で、最も長い、176節からなり、8節をひとまとまりとした、アルファベット詩編(各 節が同じアルファベットで始まる=1~8はアレフ、9~16=ベート)です。122節を除いたすべての節に、「律法」あ るいは「啓示」を意味する、「教え」「仰せ」「定め」「さとし」「さばき」「おきて」「すすめ」「ことば」といった語句が含まれ ています。冒頭の語句が、詩編1の冒頭と同じ、「幸いだ=アシュレー」から始まっているのも、興味深いものです。 答唱句は、冒頭、オルガンの伴奏がテノールとバスのオクターブから始まり、それは、テノールが「神よあなたのこ とばは」まで、バスは、その前の「ことば」まで、続き、神のことばが、ゆるぎないものであることが、表わされていま す。「ともしび」では、ともし火が揺らぐように、「し」が六、「び」がその属和音となり、また、「し」のテノールが早く歌わ れますが、「ともしび」のソプラノ、アルト、バス、は音が変らず、神のことばのゆるぎない様子がここでも表わされてい ます。「ひかり」も同様に、あるとは、経過音を使って、光があたかも、木の間(このま)から差し込むような印象を与え ていますが、他の声部は、主音で音が変らず、やはり、確固とした神のことばの荘重さが歌われます。 詩編唱はCから始まり、Esで終わりますが、1小節目の終わりの音と2小節目の最初の音、3小節目の終わりの音 と4小節目の最初の音が同じ音となっており、1-2、3-4と二つの小節で、ひとまとまりとなっています。これは、 詩編唱の句読点とほぼ対応しています。また、音型としては、158・9 門よとびらを開けの詩編唱と対照となって います。 【祈りの注意】 冒頭、オルガンのAsのオクターブが鳴ったら、心地よいテンポで始めましょう。「かみよ」の「よ」は、「かみ」が小節 線をまたいでいませんが、八分音符(か)→四分音符(み)→八分音符(よ)というパターンですから、心持ち早めに歌 い、続いてゆく八分音符をテンポのよいものにします。「ことばは」の付点四分音符を延ばしている間に、テノールの 「わ」が祈りを継続するために、八分音符一拍早く(混声でない場合はオルガンが)入りますから、しっかりと延ばしま しょう。「ともしび」では、和音の動き、テノールの先行を生かすように、やや、rit. します。しかし、ここは、まだ終止で はありませんから、やり過ぎないようにしましょう。そして、アルトとバス(混声でない場合は、オルガン)が「わ」(Es)を 歌い始めたら(弾き始めたら)元のテンポに戻して、続けます。「ひかり」の「り」に入ったら、アルト(斉唱の場合は、オ ルガンの)経過音を利用して rit. します。最後の答唱句は、その前、「ち」くらいから rit. を始めるくらいで、丁寧に 終わりましょう。旋律が音階で動くところは、特にレガートを心がけて、祈りを深めるようにしましょう。 詩編唱は、Cから始まりますが、乱暴に歌い始めないようにしてください。高い音を丁寧に出すこつは、高い棚の上 に、瓶をやさしく、音がしないように置くような感じで歌い始まるとよいでしょうか。詩編唱の4節の冒頭の「神よ」の後 は、答唱詩編の基本のところでも書いたように、間をあけたり、その後に休符を入れたりせず、答唱句の「神よ」と同 じように歌ってゆきます。 第一朗読、シラ書の冒頭では、「その意志さえあれば」と言われています。神は、人間に自由意志を与えてください ましたが、それは、本来、神に逆らうためでも、神の意に沿わない行いをするためでもありませんでした。神が世界を 人間にゆだねられたのは、神のみ心を汲んで、神の国の完成にふさわしい方向へ、世界を導くための、ご自分の助 けてとして、だったとの同様に、自由に神のみこころにふさわしい行いをすることができるようにとの配慮だったはずで す。その、一つの指針として与えられたのが「律法」であり、それを完成するために来られたのが、ひとり子である、キ リストでした。「律法の一点一画も消え去ることはない」とは、ヘブライ語の場合、ある文字の点や、一画がなくなる と、違う文字となり、あることばで、そうして文字が変った場合は、まったく違うことば、反対の意味のことばになったり することを意味しているのです。「律法を完成するため」とは、当時の律法学者たちのような、いわゆる、律法主義で はなく、「安息日は、人のために定められた。人が安息日のためにあるのではない」(マルコ2:27)という、律法の本 来の意味を取り戻すためでした。今日の朗読と詩編を味わいながら、わたしたちの近くにある神のことばを、深く味わ い、それを行なう恵みを願ってゆきたいものです。 【オルガン】 前奏で一番難しいのは、冒頭の六度の並行進行でしょう。アルトの♭の部分は、親指をうまく、滑らせて、ソプラノ は、すばやい持ちかえで、レガートに弾けるように練習しましょう。伴奏の場合は、ペダルを使うと、アルトを左手でも 取ることができます。祈りの注意でも触れた、rit. を前奏でも、伴奏になっても、きちんと提示してください。最初のう ちは、会衆の皆さんは、戸惑うかもしれませんが、オルガンがきちんとリードすれば、だんだんとできるようになるはず です。ストップは、8’+4’で、どちらかを深みのある音、どちらかを明るめの音にするとよいでしょうか。だからといっ て、派手なプリンチパル系の音では、祈りの深さを壊してしまいます。答唱詩編以外にも用いられることが多いかもし れませんが、神のことばの豊かさと深さを祈ることができるような伴奏を心がけましょう。 《B年》 114 主は豊かなあがないに満ち 【解説】 この、詩編32は、「回心の7つの詩編」(他に、6、38、51、102、130、143)の一つで、アウグスティヌスが好 んで唱えた詩編です。詩編の類型としては、個人的な感謝の詩編で、罪の赦しを受けた人の感謝の歌です。詩編の 表題には、「ダビデの詩」とあり、バトシェバと姦通を犯し、バトシェバの夫、ヘト人ウリアを戦場で戦士に追い込ませ たダビデが、預言者ナタンの叱責を受けて、自らに死刑宣告をした後、その罪を赦されたことに感謝して(サムエル記 下12:1-15)歌った歌とされています。 答唱句は、詩編唱と同じ歌い方がされるものの一つ(他に「神よ あなたの顔の光を」、「父よ あなたこそ わたしの 神」)で、プサルモディア(詩編唱)形式と呼ぶことにします。バスは、常にD(レ)で持続しますが、この、答唱句の確 固とした信仰告白を力強く表しています。 詩編唱は、第1・第3小節の終止音の四分音符(主に「、」)が、その前の全音符から、2度高くなっており、第2・第 4小節では(主に「。」)2度下降しています。さらに、各小節の冒頭の音が順次下降しており(1小節目=A(ラ)、2小 節目=G(ソ)、3小節目=F(ファ)、4小節目=E(ミ))、文章ごとのバランスをとりながら、ことばを生かしています。 この詩編唱は、当初、『典礼聖歌』(分冊第二集=31ページ)で、旧約朗読後の間唱として歌われた「主よ よこし まな人から」(詩編140)に用いられていました。現在、『典礼聖歌』(合本)で歌われる詩編唱の第3・第4小節が 「主よ よこしまな人から」の答唱句として、第1・第2小節が、同じく詩編唱として歌われていました。 「主よ よこしまな人から」が作曲されたのは、典礼の刷新の途上だったため、新しい詩編や朗読配分、などが確 立したときに、この曲は使われなくなり『典礼聖歌』(合本)には入れられませんでしたが、新しい答唱詩編である「主 は豊かなあがないに満ち」の詩編唱に受け継がれました。 【祈りの注意】 解説にも書きましたが、答唱句は、詩編唱と同じ歌い方で歌われます。全音符の部分は、すべて八分音符の連続 で歌います。「豊かな」と「あがない」の間があいているのは、読みやすくするためです。また、「あがないに」と「満 ち」、「いつくしみ」と「深い」の間があいているのは、楽譜の長さ(答唱句と詩編唱の)をそろえたための、技術的な制 約によるもので、こらら赤字のところで、息継ぎをしたり、間をあけたり、あるいは音を延ばして四分音符で歌ったりし てはいけません。下の太字のところは、自由リズムのテージス(1拍目)になります(*は八分休符)。 主はゆたかなあがないに満ちー*|いつくしみふかいー* 詩編唱は、第一朗読を受けて歌われます。人祖の犯した罪のゆえに、人類はもとより、すべての被造物がうめき苦 しんでいます。しかし、洗礼によってキリストの死と復活に結ばれたわたしたちは、その罪の束縛から解放されたの です。詩編の先唱者は、それを深く感謝して歌いましょう。 答唱句は、その詩編のことばに対して「主はゆたかなあがないに満ち、いつくしみ深い」と答えます。詩編と同じく、 八分音符の連続ですが、包丁がまな板を鳴らすような歌い方にならないようにしましょう。 冒頭は、きびきびと歌い始め、1小節目の終わりで、rit. し、ほぼ、そのテンポのまま「いつくしみ」に入り、最後 は、さらにていねいに rit. して終わります。全体は、P で、最後の答唱句は PP にしますが、それは、この答唱句 の信仰告白のことばを、こころの底から、深く力強い、確固としたものとするためです。決して、気の抜けたような歌い 方にならないようにしてください。 【オルガン】 祈りの注意にも書いたように、答唱句は、P ないし PP で祈りますから、ストップはフルート系の8’でよいでしょう。 会衆の人数が多い場合は、他の鍵盤の8’をコッペル(カプラー)します。このような答唱句の時に、よく、聴かれる疑 問は、ペダルはどうするかということです。このような場合も、祈りを深めるために、ペダルは用いたほうがよいでしょ う。ただし16’も弱いものにし、8’が強すぎる場合は、Swell の8’をコッペルするなど工夫してみてください。 詩編唱は、力強く歌われますが、これも、先唱者一人ですから、Swell の8’で十分ではないでしょうか。 会衆の人数が少ない場合には、答唱句を Swell で、詩編唱を主鍵盤で弾くという、通常とは、反対の鍵盤の用い 方をすることも、視野に入れておくとよいでしょう。 さて、前奏ですが、この場合も、答唱句全部を弾きますが、ソプラノを八分音符で刻むことはせず、全音符の長さで 弾きます。ただし、ただ音を出すのではなく、必ず、歌うのと同じ長さで弾くようにします。これによって、会衆も、全体 のおおよその長さから、どれくらいのテンポで歌えばいいかが推測できるようになります。最初のうちはうまく行かな いかもしれませんが、聖歌隊や聖歌奉仕者のグループが、オルガンの前奏の長さとあった、きちんとしたテンポでう たっていけば、会衆全体もそのテンポで歌えるようになるでしょう。この答唱句では、オルガン奉仕者がまず、きちん と祈りとして、この答唱句を歌い、祈ることが大切です。 《C年》 100 しあわせな人(2) 【解説】 「幸いだ(アシュレー)、神に従う人」から始まる詩編1は、神に従う人と神に逆らうものを対比しています。一部のギ リシャ語の写本や古代語訳の「使徒言行録」の13:33においては、次の(現代の『聖書』の)詩編2が、詩編1となっ ていることから、5巻からなる詩編集が編纂されたときに、第一巻の冒頭におかれたとも考えられています。よしん ば、この詩編が全詩編の中で、新しいものだとしても、この詩編1は全詩編=というよりも、全聖書=を貫く主題を端 的に言い表しているものということができます。 答唱句は八分の六拍子で滑らかに歌われます。2小節目は和音が四の和音から、後半、二の7の和音に変わりま すが、これによって祈りを次の小節へと続けさせることを意識させています。続く「かみを」では旋律で最高音C(ド)と 二の7の和音、「かみを」では六の和音を用い、次の「おそれ」ではバスにその最高音H(シ)が使われ、「神をおそ れ」では、旋律が6度下降して(それによって母音の重複も防がれています)、前半の主題を強調しています。7小節 目後半の3つの八分音符の連続は、最終小節に向かって上行音階進行しており、終止の rit. を効果的に導いてい ます。 この答唱句は、C-dur(ハ長調)の主和音ではなく、五の和音で終わっています。これによって、祈りを詩編唱につ なげる役割もありますが、この曲はいわゆる長調ではなく、教会旋法に近い形で書かれていることがわかります。G (ソ)を終止音とする教会旋法は第8旋法ですが、その音階は、D(レ)からd(レ)なので、この曲には該当しません。 他にも、36~40「神のいつくしみを」、130~135「主をたたえよう」などがこれにあたります。これらから考えると、 この旋法は、教会旋法を基礎に、作曲者が独自の手法とした旋法であり、「高田の教会旋法」と名づけることが出来 るでしょう。 詩編唱も、答唱句と同様の和音構成・進行ですが、3小節目だけ、冒頭の和音は答唱句で経過的に使われている 二の7の和音となっていて、3小節目の詩編唱を特に意識させるものとしています。 【祈りの注意】 答唱句で特に注意したいことは、だらだらと歌わないことです。だらだらと歌うとこの答唱句のことばがまったく生か されなくなってしまいます。そのためにはいくつかの注意があります。 1=八分の六拍子は、八分音符を一拍ではなく、付点四分音符を一拍として数えること 2=先へ先へと流れるように歌うこと 3=「しあわせなひと」の「わ」をやや早めに歌うこと 4=次の「せなひ」の三つのことばの八分音符で加速をつけるようにすること の四点です。また3については、1・3・5・7各小節の前のアウフタクトのアルシスを十分に生かすことにつながること も忘れてはならないでしょう。このようにすることで、祈りが自然に流れ出てゆき、答唱句のことば「主の道を歩む」「し あわせ」が、豊かに表現できるのです。 前半の終わり「おそれ」では、やや、わからない程度に rit.するとよいかもしれません。答唱句の終わりは、歩みが 確固としたものとして、ただし、主の前を静々と歩むように、十分に rit. して、滑らかに終えましょう。 第一朗読の「エレミヤの預言」でも、福音朗読でも、この「神に従う人」と「神に逆らうもの」の対比が一貫した主題と なっています。わたしたちの行動は、ついつい、目に見える、他人の目を気にしがちですが、肝心な、神様の目を忘 れてしまってはいないでしょうか?人の目を気にして得た、富も名誉も、神さまのもとに帰るときには、すべて、おいて ゆかなければなりません。尽きない泉であるキリストから水をいただき、いつも、神さまのために豊かな実を結ぶこと ができるよう、今日の詩編をこころに刻み付けたいものです。 【オルガン】 前奏のときに気をつけなければならないことは、祈りの注意で書いた四つの注意点です。まず、前奏のときにこれ がきちんと提示されないと、会衆の祈りは、活気のない、だらだらしたものになってしまいます。前奏の冒頭から、き びきびと、弾き始めましょう。もう一つ大切なことは、オルガニスト自身が、ここで歌われている「しあわせな人」になっ ていなければ、よい前奏、よい伴奏はできないのかもしれません。ストップは、フルート系のストップ、8’+4’で、明 るい音色のものを用いるとよいでしょう。最後の答唱句は、うるさくならなければ、弱いプリンチパル系のものを入れて もよいかもしれません。 ジャンル別一覧
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