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対米宣戦の可否をめぐっての紛糾の中、歴史の裏にある幾つもの影。
【真珠湾奇襲作戦】に向けての日本軍部の動き、それを察知した米諜報機関。 一人の男が日本へやって来た・・・ 舞台はプロローグのスペインから、ニューヨーク、カリフォルニア、サンディエゴ、ハワイへ。そして広島、東京、横浜、函館・・・最も重要な意味を持つ【択捉島】へと。 スペインで義勇軍に参加していたケニー・ケンイチ・サイトウ。 殺し屋になった彼がたどり着いた先は? 19で出奔し再び故郷の択捉島、灯舞(トウマイ)に戻り駅逓の管理人となっていた岡谷ゆき。 この二人を中心に物語は進み、やがて交差する。 うーん、やはり雰囲気があるなぁ。 もちろん、史実に即した背景、時代設定というのが大きいのだろうが。 出てくる人物もそれぞれ興味深い。皆何かを抱えている。 ケニーは日系アメリカ人で、ゆきはロシア人船員との私生児。 他にも、南京で恋人を失った宣教師のスレンセンや、 日露間の協約で故郷から強制移住されたクリル人の子孫、宣造。 朝鮮半島から渡ってきてタコ部屋に入れられた金森などなど。 一人一人、生きる意味が違うというか、根底にあるものが違う。 佐々木譲さんを読むのは『ベルリン飛行指令』に続いて二作目。 前作は吉村昭の『零式戦闘機』『戦艦武蔵』とともに、私に戦争期の話を読む抵抗感を無くしてくれた作品。吉村氏の二作は、いづれも製造者の視点からのものだし、『ベルリン飛行指令』は輸送計画、今回の『エトロフ発緊急電』は諜報活動と、直接の最前線での戦闘を扱ったものではないが、あの混乱した激動の時を過ごした人々の生き様、人間模様はとても興味を惹かれる。張り詰めた重い空気、死との隣り合わせの日々の生活など。もちろん小説だけ読んで分かった気になるなという部分もあるでしょうが、そこで生きていた人間の熱い気持ちが描かれた作品を読むのもいい経験だと思う。 話としては別物ながらも同時代を扱っていることもあって、前作の出来事、人物も登場しているのがうれしいです(あまり重要処ではないけど)。 前回はトランペットが担っていた役割を、今回はハモニカが果たします(笑)シチュエーションとしては、ちょっとくさいかなーと感じてしまうところですが、ピタリと嵌ってしまうんですよね。これも物悲しい雰囲気を出すのに一役買っているのは間違いないです。 スパイもの特有の緊張感が良い。特に2部でのケニーの初任務は圧巻。 その後の展開も、時代背景がつかみやすいためか 『クリヴィツキー症候群』 に出てくるスパイ達よりも背負っているものが大きく感じます(本当はそうとも言い切れないしょうが)。 どちらかというと『ベルリン飛行指令』のほうが好きですが(安藤大尉の男気のポイント高し)こちらも複数の人間それぞれにドラマがあり、600ページ超という長さを感じさせないほどの内容の濃さ。満足です。 『エトロフ発緊急電』 佐々木譲 新潮文庫 (平成6年1月発行) お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2003年12月22日 13時01分12秒
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