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profile:山本ふみこ
随筆家。1958年北海道生まれ。つれあいと娘3人との5人暮らし。ふだんの生活をさりげなく描いたエッセイで読者の支持を集める。著書に『片づけたがり』 『おいしい くふう たのしい くふう 』、『こぎれい、こざっぱり』、『人づきあい学習帖』、『親がしてやれることなんて、ほんの少し』(ともにオレンジページ)、『家族のさじかげん』(家の光協会)など。

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2008/07/01
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カテゴリ:生活

 静岡県のとある里での出合い。
 出合った相手は、竃である。
 こちらは、わたしと、十歳の末娘。
 静かな里に移築した古民家の厨(くりや)で、ご飯を炊き、味噌汁をつくるという機会の尻尾を、ただ、つかまえている、という心持ちだ。
 末の子どもにとっては、初めての竃でのご飯炊きだった。



 こういうとき、うまくいくか、いかないかを心配しちゃだめなのよ、わーい、うれしいってね、そういう気持ちで、はじめちゃうの。ね、聞いてる? と、演説。
「わかってるって」
 たき口(ぐち)は2つだが、まんなかにもう1つ小さな羽窯(はがま)がかかるようになっており、2つのたき口でもやした火で、そこには湯が沸く仕組みだ。
 マッチや付け木がすこうし湿っていて、なかなか火がつかない(このあたりでは新聞紙は使わない約束。火の粉が煙突から上がってあぶないからだ)、夢中で、火をおこす。顔も手足も煤で汚れるが、そんなことはかまわない。
 子どもは、火吹き竹を口にくわえ、口元をおさえて(息がもれないように)吹く。燃焼に必要な酸素を送りこみ、燃焼を妨げる灰を吹きとばす役目をする。
 煙で、目がしみる。
 思わず「タンマ!」と、叫ぶ。
 火がついた!
「ついた、ついた」
 と、ふたりではしゃぐ。



 はじめチョロチョロ。
 中パッパ。
 じゅうじゅう(または、ぐつぐつ)いったら火を引いて。
 赤子泣いてもふた取るな。



 これは羽窯で、上手にご飯を炊く、炊き方のうた。
 ほんとうに、このうたの通りだ。
 ご飯が炊けるのを、味噌汁の実が煮えるのを待つあいだ、火を褒める。なんて、うつくしくて、たのもしい、火。
 ご飯のほうの羽窯のなかみが沸騰し、分厚く重い木蓋を持ち上げんばかりに、「おねば」が吹いてくる。これが、「中パッパ」にあたるところだ。
 わたしのうちの台所のたき口はガス台ではあるけれど、毎日ご飯を文化鍋で炊いているせいか、竃でのご飯炊きの感覚——とくに火を引くタイミングは、子どもにもわたしにもなんとなくわかるような気がしている。
「それ、いまだ」
 すっと、火を引く。



 ご飯。おいしく炊けた。
 野菜たっぷりの味噌汁——大根、にんじん、じゃがいも、玉ねぎ、かぼちゃ、そのほか、輪切りにしたとうもろこしも入れた——も、できた、できた。



 末娘とわたし。
 からだを使って働くよろこびに満ちて、ことばもない。

 

Photo





これが、竃です。
わくわくするでしょう。







Photo_2





竃・たき口の火です。
この火を、皆さんに見ていただきたくて。
なんだか、元気になるでしょう、
「火」を見ると。



※つぎのブログの更新は、7月4日(金)です。







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最終更新日  2008/07/01 09:38:00 AM
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