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profile:山本ふみこ
随筆家。1958年北海道生まれ。つれあいと娘3人との5人暮らし。ふだんの生活をさりげなく描いたエッセイで読者の支持を集める。著書に『片づけたがり』 『おいしい くふう たのしい くふう 』、『こぎれい、こざっぱり』、『人づきあい学習帖』、『親がしてやれることなんて、ほんの少し』(ともにオレンジページ)、『家族のさじかげん』(家の光協会)など。

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2008/10/21
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カテゴリ:生活

「あおむしさんたちっ」
 朝いちばん、ベランダのキハダの小木を住処にしているあおむしを見に行く。
「きょうも、お変わりないですかぁ」



 お変わりなくないどころか。
 わたしは、そこで、思いもかけない場面に遭遇した。
 ブルーグレーのマントに黒いマスクの怪鳥が、キハダに接近。あおむしを口にくわえて、いままさに飛び立とうとするところだった。
 あああ、と駆けよる暇(いとま)もなく、怪鳥とあおむしは、隣家の屋根のむこうに消えた。キハダの枝をさがすと、昨夜、寝る前にいたはずの、もう1匹のあおむしの姿もない。
 怪鳥の正体は、シジュウカラだ。
 さいきん読んだ園芸の本に、
「都会でガーデニングを始める方も、虫退治&楽しみのひとつとして、巣箱をかけてみることをおすすめします。おすすめはシジュウカラやヤマガラなどのカラ類です」(※)
 というくだりがあり、ほおおっと感心したばかりだった。



 だけど、だけど、と頭のなかがこんがらかる。
 ええと、ええと、と考えがあふれる。
 あおむしが、シジュウカラに連れ去られる(餌として)。このことにわたしが少なからず衝撃を受けるのは、この数日、あおむしに心を寄せていたからだ。が、シジュウカラの側に立場を置き換えてみると、あおむしをみつけて、それをヒナのもとに運ぶことは、自然の摂理。シジュウカラのつがいは、ヒナのために1日に300回も餌を運ぶそうなのだから。
 子どものころから、わたしはいのちに対する感情をつくってきた。教育され、聞きかじり、影響を受けながら……。そして、あらゆるいのちを、できるかぎり大切にしたい、という感情をつくりあげた。
 一方、この数日のあいだに、わたしがあおむしに寄せた気持ちというのは、つくりあげた感情というよりは、むしろ本能的なものだ。
 わたしは、ちょっとしょんぼりする。
 あおむしを失ったからということもあるが、それだけではない。自分が作り上げてきた感情世界のなかの、矛盾に追いつめられて、だ。
 そして、朝ごはんに焼くつもりだったベーコンを、食べるのをよしたりして、いかにもとんちんかんに動揺している。



 ひととして生きながら、思えば、かなりぎりぎりの場所で、いのちを大切にしたいと希っているわたしたち。そんなわたしたちが、ときどき見えない壁に突き当たる。はっとさせられる。
 ああ、それこそが恩寵なのかもしれない。
 はっとして、立ち止まり、考える。はっとして、立ち止まり、また考える。



※『柳生真吾のガーデニングはじめの一歩』(家の光協会刊)。この本を読むと、ガーデニングへの夢がふくらみます。





 Shijukarasmall



シジュウカラの写真を
撮りたかったけれども、
敏捷な彼らをカメラでとらえるのは、
むずかしそうです。
で、絵を描きました。
いかにもへたくそですが、
ベランダの手すりにとまって、
こんなふうにこちらを見ているのです。
ちょっと、首をかしげて……。







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最終更新日  2008/10/21 09:59:00 AM
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