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profile:山本ふみこ
随筆家。1958年北海道生まれ。つれあいと娘3人との5人暮らし。ふだんの生活をさりげなく描いたエッセイで読者の支持を集める。著書に『片づけたがり』 『おいしい くふう たのしい くふう 』、『こぎれい、こざっぱり』、『人づきあい学習帖』、『親がしてやれることなんて、ほんの少し』(ともにオレンジページ)、『家族のさじかげん』(家の光協会)など。

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2008/11/04
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カテゴリ:生活

 10月になると、ああ、そろそろ、と思う。
きょう、やってしまおうか。
まだ、ちょっと早いだろうか。
と、思案する。
 そのうち、どんどん空は、高くなる。雲も夏のころよりずっと身軽になって、何か言いたげに流れていく。



 とうとう10月も、最後の週になっていた。
 きょうだ、と思った。
 2階の居間網戸を全部はずして階下におろす。網戸を置き去りにして、自分だけまた階段をかけあがる。
 わたしは、おもむろに———と言っても、ひとからは、そうは見えないかもしれない。ただ、自分にしてはめずらしく、おちつこうとする気持ちがはたらいている———窓ガラスを磨く。



 空を拭っているような気持ち。
 雲と遊ぶかたち。



 これだけで、わたしは、とてつもないものを手に入れる。
 ほんとうだ。
 だって、毎年のことだ。
 毎年、毎年、決まり事のように想うのだ。こんな些細なことが、これほどのことだったとは……と。



 そうして、窓からちょっと離れて、坐る。



                 *



 居間の窓はどこも、生成りのロールカーテンがついているばかりで、つまり、レースのカーテンがない。日中は、裸のガラス越しに、空を、外を、小さなベランダを、眺めている。
 夏のあいだは、どうしても窓を開け放すことも多くなるし、その上、蚊やら虫やらが飛んでくるので、網戸をはめる。
 網戸というもののありがたみを、じゅうぶんに知りながら、わたしは、ときどき、網戸を邪魔にする。もっとまっすぐに(ストレートというんだろうか)、空を、外を、ベランダの草木の顔色を見せておくれ、とばかりに。
 それだから、10月になると。
 居間の網戸をはずして、ガラス戸だけにするというわけだ。ガラスの窓を開け放したときの、あけっぴろげな感じがたまらない。



 空が、たずねてきている。 
 やあ。



 じつは、この時期の蚊は、夏のそれとは比べものにならぬほど、しぶとい。刺されたときのかゆさにも、圧倒される。家の者たちには、秋の蚊のしぶとさなどは告げず、「もう、朝晩の気温も下がってきたことだから、そろそろ網戸をはずすよ」とだけ宣言する。
 そういうわけで、この家では、秋も相当に深まり、ほとんど、ひとが冬だと思うころまで、蚊遣りをたく。開け放した窓から招き入れておきながら、煙に巻くという仕打ちは、この季節の蚊の運命としては、無慈悲に過ぎるかもしれないにしても。



 空を眺める。
 雲と遊ぶ。
 陽光とたわむれる。

 

Photo





この絵は、
まんなかの子どもが、
小学校の低学年のころに、
描いたものです。
「あ、白いさつまいも!」と言ったら、
怒りましたねえ。
わかっていますとも、青空に浮かんだ雲です。
当時の仕事部屋の、窓のない北側の壁に
貼り、毎日毎日眺めました。



皆さんの11月のこころにも、
空を。







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最終更新日  2008/11/04 10:11:40 AM
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