貧乏まっさかりである。
この春、NHKが満を持して放送している朝の連続テレビ小説の話だ。
不人気に苦しんでいるらしいときも、どうも脚本に問題がありそうなときも、子どもの頃から、この時間帯は、朝の連続テレビ小説を見てきている。見るともなく見ていたこともあったけれど、とにかく。
「連続テレビ小説」という名前も、その時間帯に15分間ずつの連続ドラマ、という設定も、わたしにはおもしろく思える。テレビ小説のなかの人生も、こちらの人生もどちらも安穏とはいかず、いろいろあるなあと考えたりするわけだ。
それに、ひょっと家事やら、ものを食べる場面やらが映るときには、なんだかわけもなく気持ちが入る。
「ゲゲゲの女房」。
「水木しげる」の女房殿のものがたりなのだそうで、しげーさん(※)贔屓(びいき)で妖怪好きのわたしはときめきをおぼえながらも、それだけにまた、怖怖見はじめたのだった。
水木せんせいも、1960年代には貧乏を経験されていたのだなあ、としんみりする。同じ胸でしかし、「このころの貧乏は、うつくしいなあ」とも思うのだ。少なくとも水木せんせいと夫人の布美枝さんの貧乏には、品格が感じられる。大変なのにはちがいないけれど、貧しさに打ちのめされず、どこかでかすかに楽しんでさえいる様子がある。だから、眺めているわたしたちは、その貧乏に憧れに近いものを感じるのだ。
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さて、今朝の回。
水木せんせい、くだもの屋の店先で足をとめると、「バナナ。さいごに喰ったのは、いつだっただろう」とつぶやいた。そうして、おっ、と何かを思いついた顔になる。こちら側でわたしは、何? 何を思いついたんですか? とうろたえて、沸く。
つぎの場面で、水木せんせいが家のちゃぶ台の上に新聞紙でくるんだものを置く。なかみは、バナナ。布美枝さんは、熟れ過ぎて皮が真っ黒になったバナナを見て驚く。「腐ってるんじゃないですか?」
「いいから食べてみろ」と促され、おそるおそる口に運び、また驚く。「おいしい!」
水木せんせい、くだもの屋で、腐る一歩手前のバナナを100円に叩いて買ってきたのだ。
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そういう場面を見せられているこちら側の食卓にも、バナナがのっていたのである。黄色くてきれいな、きれい過ぎるとも云えるバナナ。当時バナナが贅沢品でもあったことと、黒いバナナ——おまけに、水木せんせいが戦地でバナナに救われた話まで——と。いったい、これをどう胸におさめれば、ふさわしい悟りを得られるのだろう。
現代の貧乏と、当時の水木せんせいのお宅のようなのと、同じ困窮(こんきゅう)でも、なかみがだいぶちがうような気がする。いまのは……、借金がかさんでいくとか、ローンの返済が苦しいとか、子どもの学費がふくらんでいるとか。それでどう困るかと云えば、食べられないわけではなくて、余裕がないという話だ。そういう困窮は、ほんとうの貧乏ではない。「貧乏(仮)」くらいの状況か。
まさしくそんな類(たぐい)の経済の困窮を、わたしも経験している。子ども時代、不自由なく暮らさせてもらったおかげで、困窮はめずらしくもあり悲壮感はなかったものの、そこをどう切り抜けたものか、知恵のほうもまた、薄かった。
第一期の困窮は、母子家庭の時代にやってきた。母子家庭になるのと同時に出版社を辞めたりするからそういうことになるのだと、ひとからも云われたし、自分でもわかっていたのだが、そうしたかったのだからしかたがない。あのとき、わたしは生まれて初めて「約しく暮らす」こころを持ったのだった。
第二期の困窮は、わたしと夫の仕事具合が思わしくなかった時期である。あのときの困窮、大学生の子どもを抱える身にはかなりこたえた。
が、二回——いまのところ——の困窮は、わたしの暮らし方に、楔(くさび)を打ちこんで過ぎていった。楔と云うからには、あれである。車の心棒にさして車輪が抜けないようにするものだったり。もの同士をつなぎ合わせるものだったり。
暮らしの楔、そりゃ、なんじゃ。
「おもしろがり」ではないかと思う。
約しく暮らそうとすることなんかおもしろいものかと、困窮を経験する以前のわたしなら、うそぶいたことだろう。うふふ。そのおもしろさのなかには、こんなのもある。
約しさのなかで贅沢が際立つ。
この話は、いずれまた。
※しげーさん
わたしの気に入りの本『のんのんばあとオレ』(講談社漫画文庫)に登場のしげる少年を、「のんのんばあ」——水木せんせいに絶大な影響を与えた人物——は、そう読んだ。
ことしの梅仕事、終了しました。
梅シロップ 梅3kg分(瓶2本)
梅酒 7kg分(瓶7本)
梅酒を漬けては、階段にならべていたら、
たのしくなってきました。
こういうのこそ、
「約しさのなかで際立つ贅沢」だと
思えます。
昨年つくり過ぎて、まだあるので、
ことしは梅干しを休みました。
「困窮」についてひとこと。
自分にはお金の勉強が足らなかったという
反省があります。
皆さんは、そんなことないと思いながらも、
1冊の本(ムック)をご紹介します。
「お金のきほん」(2010ー2011年増補改訂版)。
じつは、この本、わたしの本をつくりつづけてくれている
Nさんによる仕事(編集)です。
先日、この本をじっくり読み、感心しました。
そうして、もうちょっと早くこれを読みたかったなと
思いました(Nさんは、「50歳からのお金のきほん」というのも、
つくっています)。