「シロマダラ」小林まこと
小林まことと言えば、 古くは「1,2の三四郎」 「ホワッツ?マイケル」 「柔道部物語」 等が有名な作品だと思う。 彼の作品の特徴は、 主人公を含めた主要な登場人物の多くが、 ボケキャラなところだ。 だからどんなシリアスな展開になってもボケやズッコケがどこかに散りばめられている。 従って完全に救いようのない暗い展開になる事はまず無い。 そんな小林作品の中で異色中の異色とも言える作品が今日紹介する 「シロマダラ」。 この作品には小林まこと本来の特徴であるボケ、ズッコケ、オチャラケは一切無い。 シリアスでハ-ドなアクション漫画なのだ。 1980年に月刊マガジンで6話まで連載され、 1話から5話までが単行本第一巻として出版されたが現在絶版である。 物語は主人公・北上良(通称シロマダラ)が少年院から出所するところから始まる。 彼は14歳の頃、 最愛の姉に暴行しようとした人間二人をモンキ-レンチで殴り殺し、 少年院に入っていたのだ。 姉は精神に障害を持っていた。 彼女を守るための殺しの際についた左目尻に縦に走る傷痕。 ちなみに良の顔は初期の頃の東三四郎顔である。 長めの白髪で左目尻に縦の傷痕のある目つきの険しい三四郎を想像して頂けるといいと思う。 シロマダラ・良の身元引受人になったのは、 彼にボクシングの素質があると見込んだ ボクシングジム会長の有田。 有田と良の父は若い頃、アマチュアボクシング・ウェルタ-級のタイトルを争った事があった。 その縁から、息子の良には素質があると考えていたのだ。 このままで行けば、シリアスタッチのボクシング漫画になっていたかもしれない。 だが、そう素直には行かなかった。 良はジムの誰の行く事も聞かず、マイペ-スの行動をとる。 彼は精神病院に入所中の姉を訪ねる。 姉を引き取るために。 彼女はたまたま正気に戻った時、良に言った。 「お父さんをうらんじゃだめよ」 そして自分の命が長くないことを・・・。 勝手な良の行動にジムの先輩たちの怒りは頂点に達する。 ジム一番の実力を持つ人間を再起不能なまでに叩きのめして後、ジムを脱出し会長の娘の車を借りて姉を迎えに行く。 助手席に姉を乗せ海辺へ。 水平線を眺めながら、姉はおだやかな表情で息を引き取る。 ここで第一話終わり。 第二話で良の父・力夫が登場。 彼は現職の刑事だが、東日本最大の組織・佐倉連合に警察の情報を流していた。 しかもシャブ中毒。 良は父親力夫と 佐倉連合会長の実子にして幹部、組織の頂点を狙う野心家・佐倉達也に宣戦布告し、 三話以降佐倉連合を敵に回し、 銃撃戦やカ-チェイスを含めた市街戦の様相を呈した戦いが繰り広げられていく。 ちなみに佐倉の顔は「1,2の三四郎」に登場する 亜星と同じ顔である。 単行本173ペ-ジでは、 良の姉・ゆかりは致死量を超える大量のヘロインを打たれたと説明がある。それを精神力で生き続けたと・・・。 愛する弟に会うまでは・・・。 だが、ヘロインを打ったのが誰なのかは明らかにされていない。 おそらくは連載が続いた場合の伏線もしくは謎解きの一つだったのかもしれない。 単行本は、 麻薬ビジネスの邪魔をする良に業を煮やした 佐倉達也が“新二”という名の男に良を始末させるよう指令を出すところと、 ボクシングジム会長の娘・有田由紀が良についていくところで終わっている。 だが、単行本に収録されなかった第6話がある。 そこでは新二なる人物がメインで登場する。 とにかくぶち切れたら兄貴分だろうが親分だろうが何だろうが容赦なくぶちのめす残忍かつ凶暴な危ない男で、人殺しなど屁とも思ってない。 佐倉達也の兄弟でもある。 そしてシャブ中。 第6話ラストで自分の腕にシャブを注射しながら、 傍らの情婦につぶやく。 「北上良、殺す」 そのペ-ジの下に 「しばらくお休みします」 の文字が・・・。 それから今日に至っている。 これからが面白くなりそうだったのに 非常に残念な終わり方だった。 おそらく「1,2の三四郎」が忙しくなっていたのかもしれない。 もしくは小林まことにとっては苦手な分野の連載であったために描き続けるのが限界だったのかも。 私にとっては江口寿の 「ストップひばり君」以上に残念な終わり方だった。 おそらくこの漫画が再開される事は無いだろう。 この単行本、高校の頃購入して大事に持っていたのだが、 大学生の頃、大学の同級生が沖縄を訪れた際、 この漫画を貸してくれと粘るので貸してあげたらそれっきりになってしまった。 ネットで探して約20年振りの再会を果たしたのであったが、久々に堪能した。 水上良は今も「シロマダラワ-ルド」で、 有田由紀を伴い佐倉連合相手に戦い続けているのだろうか? それとも戦いを終え、安息の地を見つけただろうか?