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田中およよNo2の「なんだかなー」日記

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2004年06月13日
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カテゴリ:超硬派
このホームページも平均アクセス数も100を超えていて、当初のことを考えるとびっくりである。
だけど、今日のアクセスはもしかすると、近日で最小になるかもしれない。

だって、あまりメジャーとはいえない本だから。
まあ、たまには個人的な趣味に走ってみよう(^o^)
え、いつもそうだって?
まぁまぁまぁ。

マニアックといわれてもしかたあるまい。
なにしろ、私が燃える平原を手に取った理由でさえも、「表紙が格好よかったから」である。

当時は
百年の孤独(焼酎ではない!)を読破し、大変面白かったので、南米文学の棚をぷらぷら歩いていたのだ。
赤くて、訴えかけるような表紙だったから、手に取った。

215ページの中に17編もの短編がある。
どれも、短い。
時間つぶしの、立ち読みのつもりで「おれたちのもらった土地」を読んだ。
あ、なかなか面白い。

次の短編「コマドレス坂」を読んだ。
即決。
買った。

ちょっと、長くなるけど、「コマドレス坂」から引用してみましょう。

「空になった籠をかかえて、コマドレス坂に帰ってきたときにゃ、もう月は樫林のうしろに隠れていた。籠をしまう前に、小川へ行って、なかの血を洗いながした。まだなん度もつかうつもりだったもんで、そのたんびにレミヒオの血をみたくなかったのさ」(28頁)

ファン・ルルフォ(メキシコ 1918-1986)
残されている小説は短編集
燃える平原と中篇ペドロ・パラモのみ。
それなのに、彼の名前のある文学賞があるくらいスペイン語
の作家としては重視されている。
世界的には、マイナーではないです、はい、きっと。

と、いっても彼の小説は難しい言葉で書かれていな。
話すような言葉で書かれている。

出来事だって単純だ。
飯がないとか、戦争だとか、人を殺してしまったとか、殺された人を埋葬したとか、淫蕩にふけったとか、その程度だ。

しかし、ルルフォはありきたりの出来事を話すように語ることで、我々の豊穣なイメージを呼び起こす。

人間の本質というか、そもそも持って生まれた狂気やパワーだけを書いているように、私は感じる。

例えば、ニュースなんかで殺人者が語った人殺しの話には脚色があるだろう。
当事者の殺人者にも意図があり、想像がある。
ルルフォはその意図や想像を省く。

再び「コマドレス坂」から引用してみましょう。

「ヘソのところから針を抜いて、もうちょっと上んとこ、心臓のありそうなあたりに、針を刺しこんでやった。心臓はたしかにそこにあったみてえだ。やっこさん、首を刎ねられたニワトリみてえに、二、三度身をふるわせたきり、しずかになった」(27ページ)

この文章にはハリウッド映画みたいなおびただしい血の流れもないし、二時間サスペンスドラマのような叫び声もない。
にもかかわらず、リアルではないですか。

つまり「痛く」ないですか?

あなたはこの文章から思い起こした、イメージは「痛い」ものではありませんか。

ルルフォの文体や小説の凄まじさはこれだ。

言葉で読者のイメージをグリュグリュ刺激して、最後には五感に達せさせてしまう。
言葉を無限にしようとしてない。
我々の無限の想像力を呼び起こそうとしているのだ。

下手に感情を描写して、我々の心を揺さぶっているのではない。
淡々とした語りが、我々に暴力、激情、生と死といった感覚を追体験させるのだ。

こ一説にはルルフォの小説にはメキシコ革命が影響しているともいう。
つまり、小説はミニマムな話でありながら、全体として指し示されているものはメキシコ革命であるという。

話はそれるが、南米文学のキーワードのマジックレアリズムとはこういうことではなかろうか。
ものがたりを書くことで、指し示しているのは現実であると。
ものがたりが荒唐無稽だったり、ストイックであっても、ともに豊かで複雑怪奇な現実を写しとっていると。
ここらへんの解釈は専門家にお任せしたい。
なにしろ、私はスペイン語、まったく読めませんので。
( ̄0 ̄;)

いずれにしても、
燃える平原は20世紀の短編の中でも傑作中の傑作であると思う。
楽しい気晴らしにはならないかもしれないけど、人生に一度、こういう小説と真摯に向かい合うのもいいはずだ。

燃える平原 ファン・ルルフォ著 杉山晃訳   書肆風の薔薇/水声社
(なお、ルルフォのページは こちらです)

※海外文学に興味をもたれた方はお気に入りにもある
すみ&にえ「ほんやく本のススメ」をオススメします。
様々な作家が網羅されています。

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最終更新日  2004年06月13日 21時34分06秒
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