「サルタンの象」に見る舞城とバーカー
ちょっと前にmixiで話題になっていた「サルタンの象」ってご存知ですか?ロンドンの町中を舞台に、フランスの劇団「Royal de Luxe」によって上演された、野外人形劇「Sultan’s Elephant(サルタンの象)」。4日間かけてやったのでロンドン中心部はその間交通規制。そしてこの中に出てくる巨大な象と少女。驚愕に値するあまりにもリアルな表情。すごすぎます。まだ見たことのない方はこちらでどうぞ。(音が出ますのでご注意ください)http://www.youtube.com/watch?v=HQbTMEupTpk&mode=related&search=そして私はこの巨大な少女の映像を見ていて、なんだか切ないような懐かしいような哀しいような不思議な感覚を覚えました。http://www.youtube.com/watch?v=qBXr15K2uSc&mode=related&search=この二つの映像を見て、どんなふうに感じましたか?「ダリの絵みたいだ」「ロードオブザリングみたい」という人もいると思いますが、私は舞城王太郎の「阿修羅ガール」と、クライブ・バーカーの「丘に、町が」という小説を思い出してしまいました。 一読された方ならお分かりかと思いますが、「阿修羅ガール」の二部に、子供たちが「魔の森」に迷い込む話が出てくるのですが、これがそんじょそこらのホラーよりコワい。けっこうあとに残るコワさです。阿修羅ガール自体、「現代版・ダンテの神曲」といった感じの地獄巡りな内容ですが、この二部はいきなり主人公の心象風景となって、北欧らしき田舎の森が舞台に。。。魔の森に迷い込んだ子供たちは自分たちを狙う怪物から身を守ろうと、みんなで明るい歌をうたおうとするのですが、なぜか意に反して恐怖をあおるような歌をうたってしまうのです。「死ね死ね死ね死ねみんな死ね、誰もここから出られない」と。やがて怪物は子供たちをひとりづつ捕らえ、子供たちが誰かの名前を呼ぶたびに、その呼ばれた子供が殺されてゆくのです。。。この二部の物語はラッセ・ハルストレム監督の映画「やかまし村の子供達」からインスパイアされたものらしいのですが、この映画はとても牧歌的なほのぼのするような作品です。まったくホラー的な要素はありません。しかし、この癒し系な映画からあの恐怖の魔の森を想像した過程はなんとなく分かる気がするのです。いつもは見すごしていた木の陰に潜むなにか。普段はさほど気にしてなかった夜中に聞こえてくる何かが軋む音。突然気付いた疑問に想像力と潜在的な恐怖が加わると、ほのぼのとした風景は容易に殺戮の現場に変わってしまうものかもしれません。 「サルタンの象」の少女の、まるで生きているかのような表情。そしてその憂いをおびた面影は、一見牧歌的で可愛らしい少女の心の闇をあらわしているかのように思いました。ただ、私がそう感じただけなのですが。。。なんだか切ない、なんだか哀しい。そしてなんだかコワい。もしこの「サルタンの象」のパレードを子供の頃に見ていたら完璧にトラウマになりそう。けれど見てみたい。心がザワザワしながらも、ずーっと見ていたくなる。なんだろう、このアンビバレントな感情は。そしてもうひとつ、クライブ・バーカーの「丘に、町が」。バーカーはあのスティーブン・キングが絶賛したと言われるホラー作家。「ヘルレイザー」の映画監督でもあります。「丘に、町が」は「ミッドナイト・ミートトレイン(真夜中の人肉列車)」というホラー小説の中に収録されている短編なのですが、これはホラーというより秀逸なファンタジーです。それもかなりの緊迫感を伴う。。。新婚旅行でユーゴスラヴィアを訪れたカップルが、あるとんでもないものを目撃し……と、あえて深く話しませんが、読んで頂ければなぜこの「サルタンの象」と重ね合わせてしまうのかお分かりになるかと思います。余談ですが、この「ミッドナイト・ミートトレイン(真夜中の人肉列車)」。ホラー好きはもちろん、文学好きな方にもかなりオススメなんですけど、しかし、なんとも……グロテスクな表紙なんですよ。この装丁でかなり読者数を減らしているような気がするのは私だけでしょうか? コレ↓ どですか? 「おもしろそう☆」と思って手に取りたい感じではないですよね。。表紙の絵と同様にお話も確かにグロテスクではあるのですが、それと同時にそこはかとなく漂うエロスがまたいい。そういえばある作家が、こんなことを言っていました。「優れた作品には必ず『エロスとタナトス』がある」エロス(性)とタナトス(死)。。。絶対に避けては通れない、けれど何かしらの恐怖がつきまとうもの。日常に潜んでいながら、目を凝らさないと見えてこないもの。サルタンの象から派生したザワザワした感情は、ここらへんから来ているものなんでしょうか。。。。。