テーマ:創作童話(818)
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初老の男は直接グランド内に向かわずに、ホームの一塁側ダッグアウトへ
足を運びます。日本と違って試合がない日、選手、スタッフは球場に来ないで 家族サービスかジムでトレーニングをしていますから閑散としていました。 アメリカの球場では天然芝が主流なので、春の開幕前に植え替えをしますが、 オフシーズンの現在は、土の地肌がむき出しになっています。2羽の土鳩が虫でも いるのかセンターフィールドで盛んに土をほじくっていました。 ダッグアウトの左奥にロッカールームへ通じる階段そばの椅子に座った男、 銀製のシガレットケースからキューバ産の細いシガリロを取り出しジッポンの 葉巻ガスライターで火をつけます。グランド全体を舐めるように見渡すと、 舌で転がした煙を宙に吐き出しました。足元に置いたボストンバッグを 膝の上に置き、中から20㎝程度のネズミを手に取ります。本物に似せては いますが、明らかにミニロボットのようなギグシャクした動きでは ありません。腹の下に隠れていた赤いスイッチを入れると、金色の目が ランランと輝き口を開きます。 「ジョー・ヒックス、お前の仕事はこれで終了だ。これからこの球場に ニューヨーク中のネズミのボス、グラッチ・マウスが来る。そいつを 始末すれば俺がここの親玉になって、あらゆる通信施設を襲わせ、 人間どもを阿鼻叫喚の地獄に突き落とす。携帯やパソコンを遮断すれば 人間社会は大混乱に陥るのは必至だ」 ジョーといわれた男が膝から床に移動したネズミに尋ねます。 「混乱させる目的を教えてくれ」 「アラスカの宇宙基地が稼働すれば、人間たちを静かな生活からイライラさせ ストレスが溜まるようにもっていくのだ。スマホやSNS、ゲームも出来ないと テレビをつけるが、そこからは宇宙の旅とかが数多く流れる。すると単純な者は 宇宙基地や工場で働きたくなるから人力の確保は十分間に合う。月面や火星での 作業員は事前訓練なんかしない使い捨てだから、人数はいくらあってもよいのだ。 そのためには、テレビ以外の通信網は必要ない」 「ヘッドホンから催眠暗示の電波で洗脳された私が海底人の手先になって、 ここまでお前のような薄汚い偽ネズミを運んだが、人間としてのプライド と良識が洗脳を薄めたようだ。私の命なんかどうでもいい。しかし人類を 滅亡に追い込む奴とは、闘うだけだな。まず、お前を・・・・」 ジョーが偽ネズミに手を伸ばそうとすると、ネズミの眼が光輝きます。 「俺を床に叩きつけようとしても、それは出来ない。あんたを利用する 賞味期限は、切れた」 つづく お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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