2012/03/20(火)19:00
野村進著『調べる技術・書く技術』を読む
野村進というルポライターが書いた『調べる技術・書く技術』(講談社現代新書・740円)という本を読んだので、心覚えを書き付けておきましょう。
これもこのところ継続的に読んでいる「文章の書き方本」の一環なんですけど、本書に関して言えば、これは大学生向けのレポート・論文執筆マニュアルではなく、完全にルポ・ライターを目指す人に向けの本でした。ちょっと、こちらが勝手に抱いていた予想とは異なりましたね。
なもので、例えば人にインタビューする時の心得とか、学生のレポート・論文を超えるレベルの「取材ノウハウ」に多くのページが割かれていたりする。ま、そういう部分については、読めば面白いのですが、差し当たり私の目的には合ってなかったかなと。
しかし「第五章 原稿を書く」というあたりから、私の目的からしても面白くなって参りまして、梗概の作り方、それをチャートとして一枚の紙にまとめる方法の実際例、書き出しの重要さの指摘、推敲の重要さの指摘などなど、使えそうな感じです。
そして続く第六章以降になりますと、今度は野村進さんご自身が実際に手がけられたルポが、そのまま実例として使われながら、「人物中心のルポ」「事件中心のルポ」「実体験中心のルポ」の3つが解説されるのですが、これはどれも面白かった。
人物中心のルポは、一般人から歌舞伎界に入って奮闘する若手俳優・市川笑也さんを追ったもの。事件中心のルポでは、茨城県の田舎町で発生した女子中学生5人による集団心中事件を追ったもの。そして体験ルポでは、難病ALSの患者さんを扱う看護士体験を綴ったもの。
もちろんプロのルポライターである野村さんが書いて実際に発表されたルポですから、それぞれのルポのレベルが高いのは当たり前ですが、その一つ一つについて、書いた本人の野村さんが、それを書いた時の裏話として、苦労したところや工夫したところについて披瀝してくれるわけですから、面白くないわけがない。
でまたその過程で、ルポを書くコツを伝授してくれるところが有り難いところで、例えば市川笑也さんを扱ったルポに関連し、「1つのテーマについて3つのポイントを構想しておくと、非常にうまくまとまる」というようなことをおっしゃっている。
「各界の伸び盛りの若手の活躍ぶりを描く」というのが「テーマ」であって、その対象が市川笑也さんなわけですが、その際、野村さんが設定した「ポイント」というのは以下の3つ。すなわち、
1.政界・芸能界・スポーツ界などで進む「世襲化」の進行と、それに伴う閉塞感に抗う人物として描く。
2.市川さんは、幼い頃、吃音などに悩む内気な少年だった。そういう少年が舞台に出るまでには、自己克服が必要だったはず。そういう市川さんの内面を描く。
3.歌舞伎界・梨園という、一般人にはなかなか伺い知れない世界を描く。
の3つだった。このように、1つのテーマに3つくらいのポイント(以前読んだ山田ズーニー氏の『伝わる・揺さぶる! 文章を書く』の言葉を使えば「論点」ということになると思いますが・・・)を設定すると、ルポというのはうまく書けると、野村さんは言います。経験的に言って「3つ」という数が、どうやら収まりがいいらしいんですな。
そして、そのように設定して取材を進めていると、時に「ポイントを少し変えた方がいいのではないか」という風に変化してくることもある。そういう時は、最初の設定にこだわらず、新しいポイントを活かせばいい。その辺は柔軟にやるべきだと、野村さんはおっしゃいます。この辺のコツは、ルポに限らず、レポートや論文の執筆にも応用できそうなところですなあ。
また女子中学生集団心中事件のルポに関しては、突発的に生じるこの種の事件を取材する際のコツを、ご自身の経験をもとに書かれていますが、これも(大学生向けの話ではないにしても)すごく興味深かった。
ということで、職業として文章を書くことを目指している人にとっては、一読に値する本だと思いますし、大学生の論文指導について示唆を求めて本書を読んだ私のような読者にとっても、なかなか読みどころのある本ではありました。
本書の最後のところで、ルポを書く人間の心得として、とにかくどんなものでも興味を持て、ランドセルを背負った小学生のように、珍しいものには何でも首を突っ込め、そして最初は「広く・浅く」でいいから興味を持って調べはじめ、やがて「狭く・深く」調べていき、そして最終的には「広く・深く」調べ上げて、そうやって色々なことに知識と見解と人脈を作っていく、そして、少しでも自分を良い人間にしていく、これこそルポ・ライターの目指す道であり、歓びであると述べられる野村さんの言葉に、大いに頷いたワタクシだったのでした。
これこれ!
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