大丈夫、心配ない
一度閉じた目を、ゆっくりと、もう一度開く。そして、はり出された合格発表のボードを上から下へと、視線を動かした。「30,32 ... 31が無い」「どう?」君は不安そうに言う。言葉が出ない。「だめだった... 」僕は返す。君もボードを見る。でも、やっぱり君の受験番号がそこには無い。「気持ちを切り替えよう!」と僕は、君を促し、早々に立ち去った。もう二度と来ることは無いだろう君が学ぶことを望んだ、この高校には。「バスで帰るか?」「ううん、歩いてく」「私立の手続きしないとな」「うん」君が、ぐっと堪えているのが分かる。数分間、他愛のない会話をしながら歩き君のママにメールした。そして、携帯を渡して「電話しな」というと君は、少し逡巡して受け取った。君は言う「ダメだった . . .」「残念だったね、でも一生懸命頑張ったの よく知ってるから」と声が漏れ聞こえる。君は、堪えていたモノが決壊し涙が頬を伝う。いいんだ、泣けばいい。悔しさは、洗い流せないけどきっと、これから進むの君の道に糧(かて)を与えてくれるから。僕は、君の数歩前を歩き泣きたいだけ、泣けばいいと無言で歩いた。君が、このレベルの高い高校を選んだことを僕にメールしてきた日そのフレーズを読んだとき僕は、決めていた合格発表は、一緒に見に行くと。「併願の私立は、お金かかるけど心配しないで、絶対都立受かるから」別居して、君の苦労を知らないこんな駄目な父親に . . .。枯れたと思っていた瞳に滴(しずく)が浮かんでは、流れ落ちた。でも、こうなることなんとなく分かっていたんだ。だから、発表を見に行くまでの長い道のりの30分君と一緒に歩いた、あの時間僕が君に話したことひょっとしたら、君は気づいているかな僕の言いたかったこと「大丈夫、心配ない。これから歩む、君の道は」あの時の話は、そうまた後で、ここに書こう。