[小説]の記事一覧 | ｒａｉｎｙｗｏｏｄｓ2001

ザ・クイズショウ

口直し、またまた復讐テーマ？ですがやっぱこのテーマは人気があるのでしょう。なんじゃこりゃ、で　ハチャメチャで強引な設定に　ツッコミいれつつもエンタメになっている面白い番組でした。今日　最終回。　秘密の過去を持ったゲスト解答者たちが、夢をかなえるというミリオネア形式のテレビ番組「ザ・クイズショウ」に招待され、司会の神山の出題で過去をあばかれていく。こんな番組ありえない　誰も出たいと思わないはずだけど　というところが強引です。ほとんど自白強要の公開裁判の様相。なかには　過去と向かい合うことがプラスになった解答者も。しかし　番組を操るデレクター本間の真の狙いは　友人であった　司会の神山自身の記憶再生だった。前回では　いよいよ　司会の神山が解答者に　司会を本間が勤め、２人が遭遇した事件の謎が　いよいよ明らかに　なっていったが、なんだか　さらなるドンデン返しの予感が。MC神山役が「嵐の」桜井くん、デレクター本間役に「関ジャニ∞」の横山くん。この２人が　予想外に　いい演技。なんだか　現実の２人の裏人格を見ているようで　ゾクゾクっとリアル。

告白　湊かなえ

ど陰気な復讐小説。後味悪い、人に薦めたくない、という感想も多いのに出版流通大手のトーハン発表では2009年度上半期の書籍ベストセラー。総合でも２位、小説ではトップ。異常事態ではないですか。って　小生も売り上げに貢献してしまいました。すいません。しかし、こんな本、小生のような歪んだ趣味の人だけが読んでればいいと思いますけどねー（笑）多数派と思っていた健全なる日本の読者はもういないのでしょうか。特に　本屋大賞というのが衝撃です。女性書店員にもうけているそうです。いままでの受賞作は　「東京タワー」とか明るい本だったのにねー。書店員が一番売りたい本が、「告白」っすか。正気っすか。　いままでの　犯罪者に対する復讐心を持つ人物が登場する作品は数あるんでしょうけど　そういう復讐心に読者を一時的に共感させつつも、そこから　別次元に読者を運ぶ、というのが復讐小説の暗黙の了解、というか最低限のモラルだったのではないでしょうか。　ところが　本作品は復讐完遂というベタなラストなんで、あきれてしまう。こんなの　ありえない虚構です　エンタメです、という枠組みもかんじられない。妙にマジなところが　不気味。抑圧された欲望をそのまま吐き出すポルノのようなものは文学とはいえない。現実の少年犯罪への憤りが　そのまんま放出されている復讐ポルノ。落ち込みますねー、こんな作品。著者も　なんのつもりで書いているのかと思いきや　あのラストは正しいとは思わないが　やりすぎとも思わないとマジに公言。　歪んだミステリー、犯罪小説ファン　としてみれば　まあまあ読める作品ではありますけど。被害者遺族の苦痛を思い知らせるべく仕掛けたえぐい計略がある犯人の少年にとっては　いっこうに有効ではなくさらにえぐい計略に練り直し　というあたりが　ホラー。　国民の怒号に耐えつつ、犯罪少年の更生に苦労してる人やこんなに安っぽくみられた犯罪被害者遺族の方々にはとても読ませられないっす。しかし　犯罪をやっても軽い罰だろう　という犯罪予備軍の子供には読ませたい気もするかな。日本の大人は怖いよー、もう狂ってるんだからね。

ぼくのメジャースプーン辻村深月

名作、との評判らしいですが、まさに、そのとおりでした。2006年発表、今年の春に文庫化。常人にない、人を罰することのできる超能力をもった主人公、という虚構の設定の作品は　デスノ以来けっこうあるのかもですが、そのなかでも　復習・罰に関する思想の掘り下げという点ではダントツ。「ぼくらを襲った事件はテレビのニュースよりもっとずっとどうしようもなくひどかった―。ある日、学校で起きた陰惨な事件。ぼくの幼なじみ、ふみちゃんはショックのあまり心を閉ざし、言葉を失った。彼女のため、犯人に対してぼくだけにできることがある。チャンスは本当に一度だけ。これはぼくの闘いだ。」犯人はすぐに捕まるが　犯人が見越していたとおり、　器物破損で執行猶予という軽い罪しか与えられえなかった。法律では「器物」と扱われたのは・・・・なんですけど。うう。ひどい。法の盲点ですねー。この小学生の「ぼく」は　「言葉」で相手を一度だけ操れる洗脳力、ギアスのような超能力を持っています。最初は事件以前　ピアノの発表会で「ふみちゃん」を励ますために思わず発現した力だったが、事件後、、あろうことか医者になろうとしている無反省な犯人に復習するため　この力を使おうを決心します。「ふみちゃん」にはこの能力を使ったことがあるので、残念ながら彼女の回復のためには　この能力はもう無効だからでもあった。その準備のために　この力の熟達者、秋先生を訪ね、この力のルールや使用についての覚悟を学ぶことになる。ここでの２人の倫理問答や犯人にどんな「言葉」を仕掛けるべきかというシュミレーションがとても興味深い読みどころになっています。プラトン対話編クラスのできばえで、再読したくなります。実は相手の自殺さえ強制できるこの危険な能力、秋先生も自分だったらこう言うという厳しい答えをだしますが、この復讐行為には正解のないことなので、復讐はあくまで「ぼく」の自主判断にまかせることに。裁判員制度のことが発表当時に作者の念頭にあったとは思えないけど、裁判員も　今まで持ってなかった人を裁く能力を突然与えられるわけだから、人を裁く超能力の発現という虚構の設定は今、とてもリアルに感じられます。そして　そういう超能力があったならという仮定の物語は　危険な裁きの能力の使用者が背負わなければならない倫理や覚悟を　通常の法哲学などの専門書よりもずっと深く身近に読者に考えさせることができる。いったい刑罰とはなにか　犯人に苦痛を与えることか、反省させることか、強制的な力をつかって　反省させることがいったい被害者になんになるのか。しょせん裁くものの傲慢な自己満足か。なにをもって償わせるのか、許すのか。　普段、そういう力を持ってない分、思考もそれにみあったレベルにとどまっているわけでしょうね。ほんと馬鹿にできないものです　IFの虚構設定の力は。　さて、物語は　学校に形ばかりの謝罪に来るという犯人に秋先生立会いのもと対峙することになった「ぼく」ですが、そこで　発せられた「言葉」は　秋先生の予測をも超えていた・・・。という驚きの展開。結末はホッとするものになっています。　それにしても　作中設定と同じく　愛と呪いの言葉の力の両面をほんとに信じている作者なんだろうなと感じられる。前半の「ふみちゃん」の描写もいいのです。子供にたいする視線がいい。「秋先生」も教育学部教授という設定ですが　作者自身が教育学部卒だからかも。

The Book　乙一　著、　荒木飛呂彦原作・イラスト　

ジョジョの奇妙な冒険第４部、その後の杜王町という設定の乙一のオリジナル・ストーリー。とっくに近所の本屋にはいっていたのに　この背表紙じゃ気づかなかった。雑誌ザ・ダヴィンチの２月のプラチナ本（月間ＭＶＰみたいなもの）。選者の何人かの編集者が原作未読にもかかわらず面白がっていたのが印象的。しかし　やっぱり原作を事前に復習しておいてよかった。　それにしても、執筆5年、ボツ原稿2000枚って凄い熱意。中堅小説家で　コミックのノベライズに、そこまでかかりきりになる小説家はいないでしょう。映画原作著作権料で食べてたんでしょうか？ノベライズなんて同人誌と何が違うのか？と登場人物に言わせているのが笑。そう自問しつつも　やっちゃったところがえらい。悲しい業を背負った乙一オリジナルのスタンド使い・琢磨と関連人物をじっくり書いた充実のストーリー。家族の絆という原作のテーマもダークにいかしている。　ところで２００６年に、乙一君って押井守の娘さん、押井友絵さんと結婚してたんですかっ。今、知った。へーっ。おめでとうございます。以下、ランダムにネタバレ感想。タイトルから　露伴のスタンド、ヘブンズ・ドアー　を思い起こさせるが琢磨のスタンドはその対照的なヴァリアントといったところ。いずれも　技をかける時に　とにかくまず相手が読んでくれなきゃ困るという、これは実に　作家の願望があれわれたスタンドなのでは。露伴VS琢磨　ってバトルがもしあったら　どんなことに？「読めっ」「お前が先に読めっ」・・・・。タイトルからミステリー界ではおなじみのメタフィクション的な難しいものを想像していたけどそれはなく、かわりに康一がありえないメタフィクション発言を。そんなんありか？琢磨の一人称小説にするとこの本がまさにＴｈｅ　Ｂｏｏｋ　というエンデ風のアイデアも浮かんだと思うんだけど　無理があったのか。千帆の書き直した小説がこの本、ということでもよかったのでは？なんて　いろいろ悩んだにちげーねー。　急激な開発で発展をとげたS市郊外・杜王町の裏事情という設定が面白い。その関係でビルの隙間に閉じ込められた女性。こわ。乙一っぽい発想。これは安部公房の「砂の女」も思い出した。そっちは砂丘の窪地に囚われる話。康一のスタンド　エコーズACT３ではなくACT２になってる、僕の好みもACT２だからいい。漫画の擬音なくしては発想できなかったスタンド、というところが好み。由花子、もうちっと出番がほしかった。しかし康一の調教は順調、というか康一くんてＭですね。絶対。　クライマックスのスタンドバトル。これが小説ならではの面白さ。スタンドバトルの本質は頭脳戦・心理戦であるということをあらためて再認識。小説ではコミックのスピード感がだせないわけだけど　そこを逆手にとってのスローモーションのような緊迫感がいい。頭脳戦なんだけど　その中心はなんと　頭悪いと思われていた億泰じゃありませんか。原作初登場のバカっつぷりからみると大進歩。　最後に　あ、千帆もスタンド使い？という余韻もいいです。自分では母がうまく隠してくれたと思っているのか。それとも気づいているのか。わしらだって　運がいいとしたらひょっとしてそういうスタンドを持ってるわけ？