カテゴリ:歴史・本など・・
(2017年11月の記事です)
先日、ふと新聞記事で見た足利尊氏の肖像画の記事から、ついつい、以前、興味を持っていた神護寺三像のはなしにまで、深入りし、国宝展にもう一度行ってしまった・・(いや~・・・・この展示も終わりましたね)。 そういえば、典型的な「宿命の兄弟対決」なのに、足利の二人は「座乱読ーザ・ランドック」にも、取り上げていなかったなあ・・・なんて。 天智・天武は、間に女性が入って、ややこしくなり、ボルジアの兄弟は、ある意味、団体戦で、テムジンのところは、長男の出生疑惑までついて、これまた単純ではない。よく取り上げられる、頼朝と義経なんて、異母兄弟だから、仲の悪いのは当たり前じゃあないでしょうか。大津と草壁だって、そうだし、保元の乱も、天皇家、摂関家のダブルの兄弟喧嘩が発端。 で、足利兄弟。つまり足利尊氏と足利直義は、同母の二人だけの年子(あるいは2つ違い)の兄弟で、少なくとも40年近く、うまくやっていた。上手くやっていたという以上に、お互いがお互いを必要とし、車の両輪であったわけです。それがなぜ・・・? というところで、まあ小説にもとりあげられ、足利尊氏は、大河ドラマでもありました。 「足利兄弟」(岡田秀文・双葉社)を読んだ。 この小説は、「足利兄弟」なんて題名ですけど(どうも、宇宙兄弟とか思い出して、イメージ、ミョウだなあ・・・)、なんで、そのものズバリ「足利尊氏」ってタイトルにしなかったのかなあ?って思った。 妻の赤橋登子と、弟の足利直義サイドから見た、足利尊氏という「摩訶不思議」な人物の物語です。 北条家の名門から嫁いできた執権の妹というお姫様の登子は、初対面の夫は、源氏の棟梁の御曹司なのに、利口なのか馬鹿なのか、わけのわからん人物。しゃべり出したらとまらんし、へらへらしてて、「は?」な言動が多い。相手を喜ばせようとして、調子の良いことを言うけれど、それが、本音かどうかわからない。それに比べて、誠実そうで、みてくれのよい弟の方が礼儀正しくて常識人。 そういう夫に戸惑いながらも、憎めないまま、どことなく愛嬌のある人物に、魅力を感じはじめるわけですね。 ところが、この一見頼りなげな夫が、兵を率いて上った都で幕府に反旗を翻し、同盟者の新田義貞に鎌倉を攻めさせ、北条氏を滅ぼしてしまい、実家の兄も殺され、家も焼かれ、子供(今や、足利家の跡取り)を連れて、逃げ回らなければならないはめになる。 なにやってくれるのよ! と、文句は言いたいけど、そばにはおらん。これは、絶対、あの鉄面皮の弟にそそのかされたんだわ! 真面目そうな顔をして、しれっと反逆なんて考えて、兄貴をそそのかすなんて! 絶対に許さんから! と怒りまくる彼女の気持ちもわからんでもない。 で、その弟の直義ですが、彼は彼で、この兄貴のぬらりひょんみたいな態度に腹も立つわけです。「北条なんかの支配に甘んずるものか! 源氏に天下を取り戻す! 」なんて、ブチ上げて、気勢を上げる兄貴のために、いろいろ段取りして、努力をしているのに、最終段階で迷ってしまったり、やっぱ、これ、ヤバいんじゃないかなあ? なんてぬかす。こういう、態度は、尊氏の一生についてまわる。 でも、決断すると、早いし、行動力は抜群で、人心をまとめ上げる手管は相当のもので、そうなると、迷ったり、ためらったりするのは芝居か?と・・。 ものすごく落ち込むと思えば、ハイテンション・・・。調子いい時は、この人について行こう!と思わせるカリスマ性。落ち込んだ時には、思わず、助けてあげようと、保護意欲をそそる・・。 これは、相当、厄介な人物ですね。 しかも、それを、意識してか、無意識か、絶妙なタイミングでやるものだから、「策略?」とは思いながら、結局、言うことをきかせてしまう。 この物語の後半には、当然、尊氏の執事高師直と、直義の「争い」になる訳です。とうとう、髙師直が軍勢を引き連れて、尊氏の屋敷に匿われた直義の引き渡しを要求して尊氏邸を囲むのですね。所謂、脅しの「御所巻き」。 ここで、一瞬、高師直は、「もしかしたら、わしは足利家を滅ぼして天下を狙えるんではないか?」という思いが、うかぶ・・・これ、この作家の巧妙なとこですねえ。足利家が源氏の棟梁だとしても、師直の髙家は、遠祖をたどれば、長屋王です(藤原氏に家を囲まれて自殺しましたが・・・)。 進退窮まった(ようにみえる)尊氏は、自分の執事に、弟の助命嘆願の交渉をするわけですが、あくまで主人なので、大勢武士を従えている相手にも態度はデカい。しかし、師直を呼び出し、二人になると、床に頭をつけて土下座する。「かんべんしたってや。わしの弟やねん。あいつの側近の過激な連中を島流しするってことで、どうや?」と、頭を下げたまま下から、愛嬌のある上目づかいで見上げてくる。ここで、師直は、力が抜ける。この主人は、時々嘘をつくのは知っているけど、かなわんなあ・・・。 一方、直義の方は、この騒ぎは、実は兄と執事が組んでいるのではないかと疑っているんですけど、「執事がどうしても引けんというなら、わしはお前と一緒に死んでやる!」と、悲愴な顔で言う・・・ああ・・またこれだ・・と、直義はあきらめる。そんなことはしないだろうけれど、言うときは本気に近い。 このあと、直義側に保証した側近の二人は、配流先で、師直の手の者に殺されるわけですが、これは、当初から、尊氏には予定に入っていたことです。 また、後に、その師直が、直義側に敗れて、出家を条件に許されるけれど、その師直一族が、直義側の刺客に道中、襲われるのを黙認いや、むしろ、彼にしたら、すでに、主家を「御所巻き」した時点で、足利家に反抗した執事を許す気はなかったのかもしれません。ですが、自分では、手を下すことはしない。 そうして、この小説は、ラストに、尊氏がとうとう、直義を「始末」するわけですが、これも、当の本人の直義に丸投げする。幽閉している直義に毒薬を送って、判断はお前に任せるって。結局、ここでも、自分で手を下すことはできないんですよね。 なんともいえない、この「足利尊氏」という人物・・・。 面白い解釈ですけど、こういう人に取り込まれたら、悲惨だなあ・・という気がしますねえ。この天然ぶりに、弟の直義は勿論、高師直も、利用された?まま破滅してしまったのかも。 最後の語り手は妻の登子で、「弟が鎌倉で「病死」してから、魂が抜けたようになって、そのまま、死ぬまで無気力だった」と言わせていますが、息子の義詮に、尊氏の百日に子供(義満)が生まれたところで、幸せな雰囲気を漂わせてしめくくっています。いや・・・なかなか・・。 しかし、結局、この後の歴史を知っているものは、この息子の義詮も、父親と叔父がしっちゃかめっちゃかにした「乱世」を相続し、闘い続けて早死にし、孫の義満の代まで、もめごとはもちこされたんですけれど・・。 この「宿命の兄弟対決」、面白くなってきたんですけど、実は、歴史の本は、大昔の「日本の歴史」シリーズ9の「南北朝の動乱」(佐藤進一・中公文庫)をすごい前に読んだっきり(たぶん、家の本棚のどこかにある)。 で、評判の「観応の擾乱」(亀田俊和・中公新書)、まだ、読んでないんですよ。 近所の図書館は予約人数が二桁だし(ちなみに「応仁の乱」(呉座勇一・中公新書)は三桁です)。大図書館は貸出中だし・・。 ですが、同じ著者の本で「南朝の真実」(吉川弘文館)、「足利直義」(ミネルヴァ書房)、「高師直」(吉川弘文館)「高一族と南北朝}(戎光祥出版)を読んでみた。 だから・・今、なんとはなしに高師直が面白くなっている・・。 日本の歴史 9 南北朝の動乱 中公文庫 / 佐藤進一 【文庫】 南朝の真実 忠臣という幻想 (歴史文化ライブラリー) [ 亀田俊和 ] 足利直義 下知、件のごとし/亀田俊和 高師直 室町新秩序の創造者 (歴史文化ライブラリー) [ 亀田俊和 ] 高一族と南北朝内乱 室町幕府草創の立役者 (中世武士選書) [ 亀田俊和 ] こちらもよろしく お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2022.09.07 21:03:02
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