2017/01/22(日)20:56
『ドルフ・ラングレン 処刑鮫(2015)』〜「牛殺し」の弟子は「鮫殺し」?
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『ドルフ・ラングレン 処刑鮫』
このタイトルを見たときには、ドルフ・ラングレン=「処刑鮫」かと思った。ドルフ・ラングレンが「処刑鮫」と呼ばれ、恐れられるアウトロー刑事か、あるいは必殺系の殺し屋を演じる映画なのかと。
『新宿鮫』(大沢在昌のハードボイルド小説シリーズ)ってのがあるからね。
しかし、タイトルの「鮫」は、ドルフ・ラングレンの役の上でのニックネームではなかった。
なんと、ドルフ・ラングレンが主演するジョーズの系譜にある「鮫」映画だったのだ。
ということで、この映画には、3つの視点がある。
1.アクション・スター、ドルフ・ラングレンの主演作としての視点
2.鮫映画としての視点
3.ドルフ・ラングレンvs.鮫の対決ものとしての視点
上記の3つを通して、『ドルフ・ラングレン 処刑鮫』を見ていこう。
1.ラングレン主演作として
ドルフ・ラングレンは、空手の有段者というバックボーンをもつアクション俳優である。
愛称は「人間核弾頭」。処刑鮫ではない、しつこいが。
『ロッキー4/炎の友情(1985)』でロッキーの敵役イワン・ドラゴ役で売り出し、近年はロッキーのシルヴェスター・スタローンが率いるアクション巨編『エクスペンダブルズ』シリーズ(2010〜)のメンバーでもある。
なので当然、ドルフ・ラングレンの映画を見る人は、ドルフ・ラングレンのアクションを期待するだろう。しかしながら、『ドルフ・ラングレン処刑鮫』は、ドルフ・ラングレンの空手を生かしたアクション全開、というわけではなかった。
ドルフ・ラングレンの役名は、クリント。違法な動物売買を行なった廉で逮捕され、刑務所に。幼い娘カーリーが一人取り残される。そんなカーリーを不憫に思って、クリントを逮捕した女性警察官のメレディスが引き取って育てている。
やがて、クリントは、刑期を終えて出所する。
ドルフ・ラングレンの役どころは、法を犯して収入を得ようとするが、それもこれも愛する娘のためにしたこと、実はいい人なのだ、というもの。
アウトロー刑事、あるいは必殺系の殺し屋の役であれば、闘うべき組織や倒すべき敵がいるのだが、この映画では、ドルフ・ラングレンが持ち味のアクションを披露する対象となる相手がいない。
申し訳程度に、雑魚との小競り合いはあるものの。
人間の敵がいないのだから、ドルフ・ラングレンvs.鮫への期待が高まる。
それしかないでしょう。
2.鮫映画として
この映画の舞台となっているのは、内陸部の森に囲まれた湖だ。
つまり、この鮫は、なんと淡水に生息しているというわけ。
えー!
映画の中では、鮫には浸透圧の調節能力があるとかで、淡水にも適応できるとの説明がある。
いずれにしも、湖に鮫が出現するのは、意外性を伴ってミステリアスに引っ張ることができるポイントだと思うのだが、残念ながらそれほど盛り上がらないで、むしろ淡々と進んでいく。
鮫(動物パニック)映画は、『ジョーズ(1975)』からのお約束パターンで、町おこしのイベントがあることになっている。
そのイベントに集まってきた大勢の人々が、鮫やピラニアなどの危険生物に襲われて、阿鼻叫喚の地獄絵図となるっていう寸法だ。
しかし、この映画は、イベントがないどころか、鮫が出現したことがわかると、人々はあっさりと湖に立ち入らなくなってしまうのであった。
そうなると、せっかく湖に現れた鮫も、存在感を示すことができない。
そこで、女性警官メレディスの老母が、走り去った飼い犬を探して湖まで来ることになる。湖面は静かである。だが、老母はなぜだか犬が入水したと思ったらしく、犬の名を呼びながらザブザブと湖に入っていってしまう。案の定、老母は鮫に襲われてしまった。
愛犬が犬かきで泳いでいれば、まだよかったんだけどね。犬の姿など、どこにも見えなかったのだよ。
そんなふうにして、周囲が特別に気を遣って、鮫の見せ場を作っていたね。
3.「ドルフ・ラングレンvs.鮫」の対決ものとして
さてさて、そうした必然性のない展開が続く中で、いよいよ映画も終盤となる。
カーリーは、父親に会いたくて、こっそりクリントの船に乗り込んだ。
しかし、夜の湖上を航行中にカーリーは船から落っこちてしまう。
そこへ鮫が襲ってくるのだ。
クリントは、自ら湖に飛び込んで、鮫をおびき寄せて娘を救おうとする。
ついに、ドルフ・ラングレンと鮫の激突だ!
ここまで焦らされてきたが、いよいよ待ちに待った痛快アクションか。
さすがはアクション・スター、ドルフ・ラングレンだ。防戦一方で手傷を負いながらも、鮫の猛攻を一定時間耐え抜いた。
しかし、そこまでが限界なのか、屈強なクリントも鮫相手に水中での反撃はかなわない。
もう、これ以上のバトルには耐えられないというところで、鮫を射止めたのはクリント=ドルフ・ラングレンではなかったのだった。
確かに、生身の人間が鮫を相手に食い殺されなかっただけでも、凄いことかもしれない。
事実、クリントとの遭遇の直前、海洋生物学者のピーターは、簡単に鮫の餌食になっているのだから。
だがしかし、負けなかったというだけではインパクトは弱いのだ。
ドルフ・ラングレンと鮫の一騎打ちは、昔のプロレスでよくあった両者リングアウトの引き分けといったところだ。
プロレスのスター選手同士が対戦した場合、どちらも負けさせるわけにはいない。そのため、両者ともにいいところを見せ合うのだが、最後はリングの下で乱闘となって勝負はつかず、ってことがかつてはよくあった。
そうなると、観客は消化不良の思いになっちゃうんだよね。
ここはドルフ・ラングレンに花をもたせるべきでしょう。
鮫がアクション・スターに負けたからといって商品価値が下がるわけでもなし。
アクション・スター、ドルフ・ラングレンの魅力を最大限に発揮させるためには、鮫を陸に引っ張り上げて、空手有段者の手刀、突きや蹴りの波状攻撃で鮫を撃退してほしかった。ドルフ・ラングレンの威光を観客にアピールするのは、引き分けや負けなかった、ではないはず。
あのガメラも、『ガメラ対深海怪獣ジグラ(1971)』で、ジグラとの海中対決を避け、地上に引っ張り上げて勝負をつけたのだから。
ガメラはさておき、ドルフ・ラングレンは極真空手道参段だ。
極真空手といえば、創始者はあの「牛殺し」大山倍達。
だから、ドルフ・ラングレンは「牛殺し」ならぬ「鮫殺し」の異名をとってもよかったのではないだろうか。
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