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東京奇譚集
世の中 あるいは物語の中にあっても 実に様々なことが起きる。 たとえば 奇跡と呼ばれるもの 悲劇と呼ばれるもの 報いと呼ばれるもの 不条理と呼ばれるもの 前後の関係性によって いろいろな名前が与えられはするが つまるところ ある種のことは…ただ 起きる、のだ。 理由も脈絡もなく。あなたのせいでも 誰かのせいでもなく それはただ、起きてしまう。 すべてのものごとには原因が存在する、と言ったのは誰だったろう? そうでなくとも私(たち)には 日常の中で すべてを因縁づけて考えてしまうクセがついている ×××さえなければ、○○さえしなければ こうはならなかったのに、とか 今こうなったのは 例えば自分の日頃の行い、とか 深層心理とか無意識とか 前世の因縁とか環境とか そういった何かに導かれているのではないか、と。 行き場のない思いの よりどころを求めるかのように でも この短編集の中に登場する人物たちは それぞれに個性的ではあるけれど ごくごく真っ当に、むしろ標準よりは用心深く身を処して生きている人々ばかりだ。 そうした人々が 奇跡に近い出来事、あるいは悲劇に ある日突然見舞われる。 そんな目に遭わなければいけない理由など ほとんど見当たらないような人々に訪れる 不公平とか不可思議としか言いようのない出来事に 戸惑いながらも やがて それを受入れ 乗り越えて行く姿が描かれる それらの寓話を通して、冒頭に書いたような すべては ただ、起きてしまうのだという 寂寞としつつも とても安らかで静かなトーンが自分の中に広がっていくのを感じた ある種のことは防ぐことも出来ないし、理由をたぐることも意味をなさない。 一見救いのないようにも思えるが、「因縁探し」の可能性を断たれて はじめて人は 起きた事実をありのままに受入れることが出来るのかも知れない そしてそれこそが真の救済であり もの事の決着であり また あらたな出発という 希望を孕みうる視点なのだ 正しいとか間違っているとか ある得るとかあり得ないとか そうした自分レベルや所属社会レベルでの決め付けや 思い込みを離れて、もう一段高みにある 大きくて静かな世界からの 景色をみせてくれる掌編集、 地味だけど傑作だと思う 「…ここはいい。また連れてきてくれ」 (映画『ピンポン』のなかで 卓球の試合で 主人公・ペコに破れたライバル・ドラゴンの台詞) 何かそういう 自分の身の丈からは見えない景色を見せてもらった気がする お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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