水環境の現状
公共用水域については、近年のわが国の水質状況は、カドミウム、シアンなどの人の健康にとって有害な物質については、ほぼ環境基準を達成している。生活環境の保全に関する項目に関しては、代表的な水質指標である生物化学的酸素要求量(BOD)または化学的酸素要求量(COD)の環境基準について、河川の達成率については、渇水の影響で低下した平成6年度から着実に改善している。湖沼については、ここ数年は40%前後と低いレベルで推移している。海域の達成率は、近年は80%前後で推移していたが、平成10年度は河口付近海域の水質悪化等もあり、前年度と同程度にとどまっている。 地下水については、平成10年度の測定では、汚染の継続的な監視により依然として地下水汚染が続いている状況がみられている。硝酸性窒素による地下水汚染は、大量の窒素肥料の使用により1960年代の欧米で顕在化した問題である。近年は国内でも、硝酸性窒素による地下水汚染が明らかになっきており、平成10年度に35都道府県が行った調査によれば、6.3%の井戸で硝酸性窒素濃度が要監視項目としての指針値(10mg/l)を超えていた。 土壌汚染問題土壌の汚染は、一般に有害物質が水や大気を通じてまたは直接土壌にもたらされることで生じるものであり、一旦生じてしまうと汚染が容易に解消しない。そのため、土壌汚染の未然防止に加えて、汚染土壌の除去、交換といった対策が必要になった。土壌環境基準は1991年8月に策定され、現在カドミウム等合計25項目が設定されている。なお、平成11年2月、水質汚濁に係る環境基準及び地下水の水質汚濁に係る環境基準に硝酸性窒素及び亜硝酸性窒素、ふっ素並びにほう素が追加されたことを受け、地下水等における水質保全と密接な関係を有する土壌についても、平成13年3月にふっ素、ほう素が追加された。 地盤沈下問題地盤沈下は、地下水の過剰な採取により地下水位が低下し、粘土層が収縮するために生じる。いったん沈下した地盤はもとに戻らず、建造物の損壊や洪水時の浸水増大などの被害をもたらす。 地下水は良質かつ恒温の水資源であり、生活用水、工業用水、農業用水、消融雪用水等として容易かつ安価に採取できるため、生活水準の向上、産業の発展等による水需要の増大や深井戸さく井技術の発達に伴い、昭和40年代には年間20cmを超える激しい沈下もあった。その後地下水の採取制限が行われ、長期的には地盤沈下は沈静化へ向かっているが、一部地域では依然として沈下が続いている。ピークに比べ改善傾向が見られるものの、都市化の進展によりコンクリートやアスファルトによって地表が覆われ、地中に水分が浸透しないことや、森林の減少により土壌の保水力が減退することなどによる、地下への水の供給の減少が懸念されている。 平成10年度の年間2cm以上の地盤沈下地域の面積は、9地域250km2であった(平成9年度9地域244km2)。年間4cm以上の地盤沈下地域の面積は、環境庁が全国の地盤沈下面積の集計を開始した昭和53年以降初めてゼロになった前年に引き続いてゼロであった。 地盤沈下の防止のため、工業用水法及び「建築物用地下水の採取の規制に関する法律」(「ビル用水法」)に基づき地下水採取の規制が行われており、現在、両法によりそれぞれ10都府県、4都府県の一部が地域指定されている。また、多くの地域では地方公共団体の条例等に基づく規制のほか、工業用地下水採取の自主規制、使用合理化等行政指導を行うことにより地下水の採取量の減少を図っている。