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renard no hitorigoto

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2011.08.21
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20110820

20110820-1


新しい本が、手元に届きました。

慎ちゃんがパラパラとめくりながら
「この本は特別だね。がんばって描いていたこと思いだすよ。
  
              あの姿を知っているのは俺だけだからね」


3月11日のあの時も、私はこの本の作品を描いていました。

ひどい揺れで外に飛び出して、外壁を一緒に塗っていた職人さんたちと道路に逃げて・・
地面が波のようにうねり、ひび割れ、まわりの家から瓦が土砂のように落ちて、
白い砂ぼこり・・・ガスの匂い、ガラスの割れる音、
そして前が見えないほどの吹雪・・・・・
猫たちを助ける為、家に入ろうとする私を「奥さん!危ないから駄目だ!」と
職人さんに止められて・・・・

今でもその時の事は鮮明に覚えています。
作品を描いていたテーブルの上は、筆洗いバケツの水で、
作品もパレットもノートも書類も図案も水浸しになっていました。


それでも、私が作品制作を再開したのは12日からでした。
描けるような精神状態ではありませんでした。
でも母が「描きなさい」と言ったから・・・・

両親の家は半壊し、雨漏りのする状態でした。駆けつけようと電話した私に
「来なくても良い。自分たちでできるから、おまえは絵を描きなさい」と母。

この時点で本の作品は、あと20個残っていました。ゴールデンウイークまでには
描き終わる必要がありました。ペースを落としたら間に合わない・・・・
心を奮い立たせて描きはじめました。

しかし、1日中続く大きな余震。
そのたびに猫たちと外に出ておさまるのを待ちました。
再び家に戻って、床に散らばった作品を拾い集めて、アトリエに行くと
筆洗いバケツの水が机の上に広がって・・・水浸しになった作品を拭きながら
また作業を続けました。水がしみ込んでしまって、描き直したものもあります。
毎日毎日こんな日が続きました。

お風呂にも入れず飲み水にも困っているのに、筆洗いの水を毎日取りかえるのは
気が引けて・・・・何日も使うから水はドロドロになって・・・・
2週間ほどで水が出た時は、ぴかぴかにバケツを洗いました。

日が経つほどにわかってくる震災の大きさと悲惨さ、発電所の事故で
追い詰められていく福島・・・・住民の不安や悲しみがどんどん大きくなっていきました。


それでも、今、私は絵を描かねばならないのか。と何度も自分に問いかけました。

絵を描く時は自分の心が影響します。
この震災の闇にのまれれば、絵を描く事は不可能・・・

救いは、どんな作品を描くか震災前にすべて31個分決めていたこと・・・
構想は練っていたのでなんとか描き進めることができました。
もし、残り20作品のデザインを決めていなかったら、たぶん描けなかった・・・・
教室や出張がお休みになり、考える時間がたくさんあったとしても
デザインが浮かばないまま、オロオロしていたと思います。
良いデザインやアイデアは、心が整っていないと浮かばないのかもしれません。


毎日描き続けるために、自分のモチベーションを下げない努力をしました。

「・・・大丈夫、大丈夫・・・」呪文のように繰り返し自分に言い聞かせて。

4月末には、終わりが見えてきた時には、本当にホッとしました。

情熱を振り絞り、被災したすべての地域の復興を祈って描いた作品たち。
後で眺めると、自分で描いた記憶がほとんどありません。

冬のページに載っている大きなツリーは、震災後すぐに描き終えた作品ですが、
小さな、「ヤドリギ」が1つだけ描かれています。
なぜヤドリギを描いたのか・・・しかも1つだけ・・・デザイン的に入れる必要もないのに・・
自分でもわかりません・・・でもヤドリギはフランスでは幸せのシンボル。
その時の「私」は描きたかったのかもしれません・・・

ページをめくるとあの頃の状況が思いだされます。
悲しみも喜びも、あの時、がんばったすべての事が私の生きる力になっています。


この本には、そんな私の「祈りと生きる力」が込められています。
ぜひ手にとってご覧ください。


そして、最後に・・・・

ブティック社の高井さん。本当にありがとうございました。
私の本を担当してくださって・・・心から感謝しています。
撮影の為に、この福島に来てくださったこと忘れません。
被災した修理中のホテルに嫌な顔せず泊まってくれて・・・
放射能の話題で日本中のニュースになっている時に、不安な顔一つ見せずに
私の自宅に来てくれました。
こんな状況だったので、「撮影は東京のハウススタジオで・・・」と提案があったら
「はい、そうしましょう」と言うつもりでした。
でも、高井さんは何ごとも無いように福島に来て、楽しく撮影をしてくださいました。
そして、高井さんの誘いに二つ返事で来てくれたカメラマンのマリちゃん。
本当にありがとう。「先生の家ハウススタジオみたい~」とニコニコしていたのが
印象的でした。お二人には本当に感謝しています。ありがとうございました。

それから、株式会社アンジュ様、株式会社フジックス様、
本を制作するために手助けをしてくださったすべての皆様、
本当にありがとうございました。


「出口むつみの季節と暮らすトールペイント」まもなく発売です♪





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最終更新日  2011.08.21 20:28:52


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