未音亭日記

2011/07/10(日)23:07

「フランスとイタリアの音楽の現状」by C. バーニー

音楽(659)

最近、出張の行き帰りに表記の本を読み始めたところ、面白くて止まらなくなりました。チャールス・バーニー(1726年~1814年)といえば、言わずと知れた18世紀音楽史(彼にとっては同時代史)の泰斗で、1770年代に広くヨーロッパ大陸を旅して、自ら見聞きした当時の音楽全般についての状況を旅行記の形で残しています。バーニーは、特にハイドンとドメニコ・スカルラッティの作風がお気に入りだったようで、ドメニコに関する記事もあちらこちらに含まれています。(もっとも、カークパトリックも指摘するようにその内容は往々にして不正確で、ウラを取る必要があるようですが...)亭主のホームページにもあるように、現在彼の著作は安価なファクシミリ版を簡単に手に入れることが出来ます。ただし、ファクシミリ版であるがゆえにやや活字が古く、例えばsの文字がfの横棒を抜いた形で現れ、しかも通常のsと混在して使われるなど、慣れないと読みにくい部分もあります。それにしても、1770年代といえば日本では江戸時代のまっただ中(八代将軍吉宗のころ)、当時の日本語が今のそれと大きく違うことに比べて、英語がほとんど変化していないことは驚くばかりです。ところで、表題の著作は、1770年6月にロンドンを出発し、フランスを経由してトリノからイタリアに入り、その主要都市を巡って11月のローマでの記述を最後に旅行記を閉じる、という内容。今読んでいるのはちょうどイタリアはトリノに入ったところで、この間ロンドンから海を渡ってリール、パリ、リヨン、ジェネーヴと途中滞在した都市でのオペラ公演、教会での音楽活動の様子、さらには著名な演奏家や作曲家との交流について日記体で書き記しています。さて、何が面白いかというと、当時の都市生活の様子や有名人のゴシップのような記事が盛りだくさんで、しかもあえてそれらを中立・客観的に書こうとはせず、自身の趣味で縦横無尽に切りまくっているところです。たとえば前者では、フランスの教会では合唱の伴奏にオルガンではなくセルパン(!)をよく使っている、というびっくりするような記事があったり、バルバトル(パリ・ノートルダム聖堂のオルガニスト)の自宅に招かれた際、彼の持っているルッカースのハープシコードやオルガンの様子を細かく描写したり。フランスの音楽そのものについては「リュリ以来ほとんど進歩がない」とばっさりやるだけでなく、至る所でその悪口を書きまくっています。ちなみに、今日読んでいたジェネーヴのところでは、なんと生身のヴォルテールが登場しました。紹介状もなければ前もってのアポもなしで突撃取材し、幸運にも面談に成功した経緯はジャーナリストの面目躍如、またヴォルテールとの会話からは彼のような「歴史的人物」の人となりが透けて見えてとても興味深いものでした。というわけで、まだまだバーニー先生の旅は続きます。

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